21.領民ナナ
バーナ領の領民ナナ。13歳
孤児院育ちだった。
親は冒険者かなんかだったらしいが4才の時孤児院に預けられた。
戸籍の無い。後ろ盾の無い流浪の民。それが自分だった。
将来は冒険者か娼婦になるのが真っ当らしい。
親もそうだったらしいから冒険者になる。お金を貯めて献金して戸籍を買う!
そんな将来を抱いていた。
今思うとひもじい生活だった。常に空腹。それが当たり前で常識の世界だった。
7才の時戸籍のない自分達は売られた。貴族様の指示。寄付金と交換で渡された人身御供。
仕事を与える。イバーナの領都で働け。給金も与える。
夢みたいな話だった。だが期待は裏切られ山越えする旅となった。
隣の領のイバーナへ向かう。
ん?イバーナ?あってんじゃん。と思ったが、イバーナからイバーナへ向う。
意味がわからなかった。
牛車という荷馬車の荷台での旅だった。
初めての荷馬車に驚く。天幕という泊まる所も与えられた。
麦が多めの粥も食べれた。塩気がちょっと足りないけど。お腹は一杯になった。
でも借金なんだって。働きに見合った給金になるからいつ返し終わるか知らんが。
ロイ様はそう言っていたが意味わからない。
だって給金が貰えていつか返せるくらい働ける。お腹もいっぱいになれるんでしょう?
領民だからなって、私達は領民になれるの?戸籍貰えるの?
でも税金が。給金から天引き?しばらくは借金だが。いずれ返せる?
信じられなかった。流浪の民じゃない。そこに住んでいる事が証明できる。
そこの領地の認められた民。それが領民だ。それに自分が成れるなんて。
でも今が現実なんだ。
しばらく経った日。
木槍を与えられ訓練させられ森に入った。
角付きウサギの血には血の気が引いたがこの獲物は頂けるらしい。
なんか初回だからと魔法で地面を隆起させて転ばされたウサギ。
そこに皆が殺到し止めを刺すだけ。
複数人で大人を囲み長い棒で袋叩きにする訓練。
子供でも集団で大人を囲い長い棒で手の届かない範囲から攻撃したら倒せるんじゃね?って言われて行われた訓練を経験してみんなが思った。
一人じゃ無理だけどみんなでやれば倒せるじゃないかと。
集団で狩る。
一番確実。
肉を手に入れる仕事が出来た。
夕食に入ったスープに自分達が狩ったウサギの肉が入っていた。
美味しかったし誇らしかった。
だってこの入っている肉は私達が仕事で手に入れてきたものなんだから!
でも大人は大人げない。
しばらくすると大人達も参戦。
もっと大きい肉をこれ見よがしに狩って来て子供はもっと食えと自分達に与えられた。
美味しかったけど悔しかった。私達が最初に始めたのに!
ロイ様は領民に家畜の餌を与える鬼畜領主と世間では言われているらしい。
うん、それは事実だしね。
本来家畜の餌となるものを毎日お腹いっぱい美味しく食べている。
ちょっと独特だけど慣れれば美味しい物よ。
「俺達はロイ様の家畜。別にそれで良いけどな。」
公営の食堂で偶に会うおじさんが言っていた。
家畜の餌の正体が特別な加工を受けた米と呼ばれる私達の本当の主食。
領民を守る為にそれは絶対の秘密なの。
互いを守る為の秘密。
世間から見れば家畜の餌を与えられる家畜同然なのだそうだ。
「こんな美味いもので腹を満たせる生活が家畜なら俺家畜でいいや。」
最後に皆同意して笑っている。
自分も笑う。
あんなひもじい生活の平民をやるくらいならロイ様の家畜でいい。
「それに今度は塩だぜ?ロイ様が俺達の為に高額な岩塩に資金を注入していたんだ。それが領地で塩を手に入れられる。」
「確かに最初はひどい味だと思ったが。製塩された塩。普通に慣れりゃ美味いじゃないか。」
ロイ様考案の握られた米に塩で味付けされた通称おにぎり。
手軽で簡単で美味しい。
持ち運びにも便利だ。
狩りに行くときや牧畜の手伝いのお弁当に重宝している。
食堂まで戻る必要も我慢する必要もない。
大人の女性達が藁で編んだ弁当箱に入れて背負いに入れて行くだけだ。
最近開発された味噌というものが有る。
調味料だ。独特の香りがある。自分達は当然受け入れる。
ここの領地の開発目的、名目は領主様の実験場。
自分達は新たな物を受け入れる努力をせねばならないんだ!
試食という美味しい物が出来るまで何度も食わされるのだ。領民全員がだ。
自分達にとって有効な腐敗を発酵、熟成というらしい。数年前に作られた学校で習った。
そこで色々教わった。貴族や普通の平民は腐った物は食べない。
ワインも発酵や熟成が味を良くするのに何いってんだ?
領主様は考えたそうだ。
バレなきゃ良い。
腐った物に税金かけんの?高位貴族が?国が?という事らしい。
腐った物を領民に与える。
金を払わせ巻き上げている。領内の売買なら国の税はかからない。
他領との取引時のみだそうで。あとは領主のさじ加減でと。
これで資金作りをしている建前が出来たと。
その経緯で自分達へ与えられた調味料。味噌そこから更に進化した醤油。
私達がおやつ代わりにしていた豆。
あれが原料らしい。領民の軽食代わりの豆の香りだから慣れるのも簡単だった。
狩りの遠征の時は焼いた肉に味噌を塗る。それだけで美味しい。
領主様が帰ってきた。領民全員でお出迎えだ。
元貴族だった人達が貴族になった。領主様が更に偉くなった。
すごい事らしい。それで自分達にとっても大事なことらしい。
確か献金が大事で麦で国にいっぱい納めると良いらしい。
別にもう麦なんか食べられなくても私達は困らない。でも国はそれが大事らしい。
パンを食べる。お金で他のものを買う。そういう事だ。
パンがなければ米を食べれば良いのに。
といってもそれがバレたら税金として偉い貴族が平民から奪い取るらしい。
大人達もみんなそれに怯えている。
だから必死に献金用。税金用の麦を作って領主様を早く偉くして守ってもらうのだ。
同じ偉い貴族、力の有る貴族には文句が言えないらしい。
だから自分達には不要なものを必死で作っているのだ。
全てはロイ様の為、領の為、皆の為だ。
出迎えた領民たちを見てだんだんロイ様の顔が引きつってくる。
どうしたんだろう。
「家名が変わった。バーナになった。というか決めた。んで領地もバーナ領となる。」
現在領民は4000人近く要るだろう。そして領民全員が胸からぶら下げるプレート。
魔力を通すと領主様とその領民である自分の名前が光るやつ。
血を使うため針にプスッと指を刺す。棘が刺さったみたいに地味に痛いやつ。
作り直すとしたら4000回アレをロイ様が再びやることになる。
みんなの顔がうわあって顔になった。
自分達は良い。一回で済む。4000回。
「し、仕方がない。皆を守る為だ。何、既に有るんだ。当面はそれで代用し順次交換する事としよう。」
何だろう。貴族ってもっと偉ぶっているとか。大人達に色々聞いてきたけど。
ここの貴族様が特別良い貴族様って感じる。というか可哀想。
「イ、イバーナのままでも問題ないんじゃ?」
領民の一人が声を上げる。確かにその通りだ。私達は領さえ出なければ困らない。
「大変申し上げにくいのですが基本的に無理だと思われます。買い物をする時や食事をする時水晶にカードをかざしますよね?あれ挨拶代わりに最近なっていますが。」
商人の人がそういう。食堂の人や警備兵の人達も肯いている。
「あれは鑑定の水晶を真似して作られた。判別の水晶。領民であれば名前と照らし合わされ合っていれば水晶自体が白に輝く。他領の貴族だったりそれ関係の間者であれば赤に。旅行者には緑。領民でない冒険者や商人は青に光る様に作られいる。検問所や領主館で滞在許可カードとして配られている。カード不保持者には物を売らない。憲兵が捕縛する。通報する。」
そういう決まりらしい。領民以外には決して領内の物をそのまま見せない。
余所者として仲良くするために皆が行動するのだ。
キンさんが困った顔をしている。
今後水晶は作り変えられる。ロイナート・バーナに反応する水晶になる。相手には名前が光って見える。
色々な意味でマズイ。
「あ、あの、イバーナのイだけ消すって出来ないんですか?」
思わず私も叫んでしまった。領主様が私に気付き。じっと見つめてくる。次に手招きした。
「君は?」
「な、ナナって言います。領主様。」
領主様が私のカードに手をかける。何か細い棒状のものでちょっとカリカリとする。
魔力を通せと促されてカードに魔力を送ってみる。
浮かび上がるロイナート・バーナとナナという私の名前が。
直ぐに終わった。簡単だった様だ。
「解ったか騎士ヴィル!こういう事だぞ!新たなる発想。視点!」
「何がこういう事なのかは解りませんが。そう思うなら褒美でも与えればよろしいかと?」
ロイ様は嬉しそうに私を脇に手を入れ抱き上げてグルグル周り出した。
よっぽど嬉しかったのだろう。こっちはちょっと、いやかなり恥ずかしい。
「褒美を与える!何が良い!」
私は願った。




