20.ロイ男爵
ロイナート・バーナ男爵16歳
元はイバーナだよ。間違って無いよ。
領地持ち貴族として完全に認められると家名が必要になる。
イバーナが別々の領地なのに同じ名前が並ばれると面倒。
元々家族?関係無い、区別しにくいってことで家名を変えさせられました。
正直考えるのが面倒だったんだ。これでいいだろう?
シュバルト侯爵一派の参謀?
平民落ち予定の子弟を貴族に返り咲かせた天才。
王家に献金してすり寄る、領民を家畜として扱う鬼畜貴族。
「地獄でしたね。この隣領イバーナに入ってようやく安心しました。」
「相変わらず臭い不味いの王都生活だった。」
ロイ傘下の部下全員引き連れて王都へ行ってきた。
ヴィル君だけの予定だろう?護衛?冒険者に依頼する。
最初はそんな予定だった。だが対面もあるから従者が要る。
そう対面上の問題が発生したのだ。そこで売り買いされる裏切りお断り文句の応酬。
領を出る。それは領内の物が使えない。領法に触れてしまう。
率先して守ってきたものをここで自分達が守らなければ。
流出させて減収になんかなってみろ。
あっという間に高位貴族から技術を取り上げられ爵位落ち平民落ちの未来が待っているのだ。
ロイはヴィルだけで良い。そう思っていたが。派閥には一度報告しに行ったほうが良い。
技術秘匿で家族に言えない事も多いが、ロイ様が普段からやっている事を素直に報告すれば良いのだ。
ヴィル曰く。文字通りに秘匿部分を隠して報告するとこうなる。
曰く、貧民街や孤児院から人をかき集め開墾させ森を切り開かせている。
曰く、育てた麦の殆どを税として納めさせている。
曰く、強面を捕縛して手下にし、領民に脅しをかけ黙らせている。
曰く、高価なパンを餌に冒険者に魔物狩りを強制させ、領民になることを強要し従わせている。
曰く、商人と繋がり卸す麦を高額にさせ上前をはねる、領内の物流を掌握している。
曰く、高価な岩塩を領民にやるわけがない。海水塩で十分だと領民に与えている。
曰く、領民達には家畜の餌で十分だと飼料を主食にさせている。
まったく反論の余地もない。あれ、俺貴族らしく領民虐げてんじゃん。
そいうことで家族に報告すればより怪しまれず。間者の心配もない。
派閥の一員であるとアピール出来る。
実際貴族に成れたという結果で示せている。
今は力の付け時だ。行くだけで家族が安心してくれるのだ。
変な横槍の心配を作る必要はない。だから全員でゴミ食いに行こう!
僕だけゴミ食うのは嫌なんだよ!
皆道連れにしてやる!ヴィル君が最後にゲロった。
それって俺は?
俺筆頭だからこういう時、今後全部行く事が確実になるんだけど。
その結果旅は道連れとなったのだ。
山道を抜ける。ようやく帰ってきた。時間かかった。半年近く帰れない。地獄への往復。
それをやり遂げた。実際には半年も掛かっていない。二ヶ月程度だ。全員馬で飛ばす。
まさかの貴族らしくない行動。
ロイの面子が立てば良いのだ。ヴィル達は手下の如く付き従う。領地に領主が不在の所を抜ける。
基本領地持ち貴族は王都へ向かうとなると長旅だ。
そしてロイは一番遠方。本来一番早くに移動し領主に挨拶する筈である。
だがロイは違った馬移動での時間短縮を選んだのだ。
領主館には泊まらないよ?こっちは王様直下の貴族様だぞ?てめえが下なんだ。
領地持ち貴族が領主に挨拶に伺う。でもいない。相手を出来る者がいないのだ。
不義理を働いているのは相手。そう印象付けて回る一行。
たかが移動に馬車を使うからいけないのだ。
そもそも領主が年末の御機嫌伺いで領地にいない可能性。
常に王都から離れない領主。そこらの可能性を使い。
馬で乗り込む無礼をどっちが無礼なんだ?状態で逃げ回った。
ヴィル達も不味いのではと最初は思ったが、実際にはロイの予想通り相手が慌てふためいた。
領主が屋敷にいないのにそこに居座るのはそこの領主に無礼であると宿屋で宿泊。
当然引き止められはするが常識的にはロイが正解。向こうが費用を持ってくれた。
常識の矛盾を付いて荒らし回る一行。非常識だがない訳ではない理屈を押し通した。
「ロイ様の言う通りタダ飯最高ですね。あんな物に金を払う気がしれない。」
ヴィルを含めた皆の感想。遠乗り早馬の訓練も兼ねている。
馬車に男がワラワラと?絵面がよろしくない。馬車で長時間耐えるのと馬の訓練どっちが良い?
完全に染まってしまったようだ。家族には文字通りの報告をし、安心を与え、貴族に成れたことを喜ばれた。
ロイとヴィルは侯爵に報告がてら取引をする。
金は潤沢に有るという印象付けの建前だ。
香辛料を売ってくれ。使い方の研究をする。技術が確立したらその技術売るから。
実験に失敗は付き物と大量の香辛料買付の交渉を行い。大金をはたいて交渉成立。領主が散財、贅を求めている。
建前印象付けには確実で事実の証拠付き取引が完成した。
部下達も黙っていない。例の勧誘作戦を再び敢行。ある程度の人数を集める。
冒険者を物色、良さげな者達に金を使って護衛移送依頼。
取り込む気満々で策略を巡らせる。貧民にとって腹一杯が幸せ。冒険者にとっては信用有る戸籍を手に入れる事が願い。
言葉巧みに罠を仕掛けて回る。それが正しいことだと信じて。
実際領民になった連中幸せそうじゃん?だからこれは正しい事なの!
領民を幸せに安心して暮らさせる。
それが貴族の役目だ。正しいことを行うのが矜持だ。
自分達は貴族になったのだ。矜持大事!
人足を集め労働力とし金を稼いでいる。言葉にすれば普通の事だが他の貴族にとっては不都合極まりない。
労働力を奪われているのと変わらないのだ。実際にはその土地では労働力にも成っていないのだが。
悪評を広めロイの足を引っ張り始める。家畜として扱われるのだぞと、家畜の餌を与えられるのだぞと。
不味い物を無理矢理腹一杯食わされ開拓させられる。
ロイへの悪い噂は貴族パワーでまたたく間に王都に広がった。
貴族として違法な事をしている訳じゃないロイは当然呼び出しも何もない。
それどころか王様に献金までしているのだ。
結果噂だけが。広まった。
そしてそれを加速させる部下達。
真実である。(元は)不味い家畜の餌を腹一杯食わせる。無理矢理(に仕事を選ばせて与え)開拓(と言う名のお仕事)をさせる。
完全に事実であることを認めそれでも勧誘して回ったのだ。
当然反応は別れた。
領民を人とも思っていない酷い領主であると絶対近づかない平民。
明日をも知れぬ身。それが腹一杯食える。働くだけで良いんだろ?
今なんて一日パン一個が限界だ。
俺なんか残飯漁っているんだぜ?
そんなの付いていくに決まってんじゃん。という貧民層の平民連中。
確実に食べ物を腹一杯食べられるという確証された。認められた噂の流れは早かった。
ロイ達が去った後も、その時決めきれなかった飢えていく貧民層は悩んだ挙句の果てロイの治める領地に向うことを決意し始めた。
その後、続々と貧民達が命掛けでロイの領地を目指す長い旅に出る事になる。
貧民街から平民が消えた。王宮勤めの法位貴族達は驚いた。治安が良くなると喜ぶ貴族もいれば仕事が無くなると慌てる下位法位貴族。
王都に住むのは戸籍の有る普通に仕事があって普通に生活が出来る平民が残ったのだ。
雰囲気の悪い連中が消えただけ。
鬼畜領主様様だと喜んだ。
どちらも喜ぶ結果になったのだから良い事ではないか。
評されて勧誘事件は幕引きされた。
今後その未来がどうなっていくのかは誰にも予想できない。




