17.フェイ
フェルド・ハーナト。16歳 辺境伯家4男
ロイ様家臣団の名もなき、ではなくて名前は普通にみんなにあります。
名前が呼ばれていない?
呼ばれますよ?みんな普通に。ただ頻度が少ないだけです。
ロイ様が頭。
ヴィル様が家臣団筆頭。序列とはそういうものだ。
不満?最近某は父に感謝の手紙を書いているほど幸せです。
偶には帰省し顔を見せてくれ?
ハッハッハ。冗談はお断りです。米も米酒もない土地に何故行かなければ?
固いパンを食えと?それなんて苦行ですか?
貧しい土地?金が無い?
米食える。米酒のめる。肉も野菜も不普通に食える。家だって持ってる。
最近では貯金?というのも貯まっているらしい。
元々金がかかる武具も馬も既にある。何買えばいいの?
「フェイ、君ねえ。君だけ貯金手つかずなんだけど。なんか買わない?いや楽で良いんだけどさ。」
フェイそれがここでの自分の呼ばれ方だ。ロイ様がフェイとそれがしを呼んだ。それで決定でござる。
え?フェルじゃないのかって?ロイ様が呼んだ。決定事項だ。
「いえ、必要なものが既に有るので。というか皆どうしてるんだろう。」
生活必需品が既に有る。食事等の家事関連は全て公務員がやってくれる。
だが最近気付いたロイ様の屋敷は領主館として機能している。
部下として食堂でいただく賄いというタダ飯最高でござる!
「君だけ飛び抜けて貯金残ってるんだ。仕送りするわけでもないみたいだし。」
そんな金があったら自分の為に使う!使うでござる!
「最近の彼等は内服とか岩塩?香辛料とか?後はなんか色々領内で買っているみたいだよ?」
なんと!岩塩も香辛料もここの食堂に備わっているではないか。何という無駄なことを!
「教えたのは俺だし。皆知っているから良いけど。」
そうです。何故皆家に帰る必要がある?家とは掃除の為に有るものである。
「家なぞ掃除魔法と浄化魔法の訓練所ではござらんか。」
「いやいや、公務員が掃除も浄化もしてくれてるだろう?」
「それがし、公務員が掃除した後にクリーンを掛け、浄化後にピュリフィケーションするのが楽しみでござる。」
「は?何いってんの?公務員に金払っているの無駄になるじゃないか。」
「ロイ様がおっしゃられた。掃除魔法も浄化魔法も熟練と意識の差、認識の差で変わると。」
まさに天啓を得たような感覚だった。出力でも変わる。魔法は知識だけでなく。意識、認識、そして力だと!
一度清掃浄化魔法が施されていてもそれを上回れば結果が見れる!
これだから脳筋は、ですと!拙者ロイ様の教えを忠実に実行いたしているでござるよ!
「領の公費で無くて俺の私邸の食堂だから俺の懐が痛むんですけど」
「帳簿上は領主邸維持運営費ですな。経費にござる。」
無駄無駄無駄!経費計算を教えたのはロイ様でござる。忠実な家臣たる自分が忘れる訳ござらん!
「次いでにロイ様の護衛が自分の使命でござる!」
名目大事!それ位口を酸っぱく言われて知っている。正直宿直室を私物化している雰囲気でござる。
構わないよ?某に勝てたら変わってやると明言しているんだ。負けたら考えてやる!
いいねえこの語尾。目立ってない?ロイ様にも印象与えられたと
「公務員の仕事と給料減っちゃうんだよねえ。」
は?今なんと?
「仕事が少ないんだ。給料に差が出るのは仕方ない。事実既に削ったし。」
なんですと!それでは自分が恨まれるではないか!
「俺が視察しないとでも?監査でバレるよりマシだろ?罰則のが厳しい。」
酷いでござる!しかしそうか、仕事が減ると給料が下がる。
需要と供給の話でござるな。しかし、しかしぃ!
「領内に出来た商店にある内服。その素材は魔力糸。魔力を流すことで性質が変わる。」
魔力糸は高くて家臣団の装備の備品経費には計上されないでござる。嗜好品。自分で買うしかないでござる。
「魔力糸は魔力を通せば固くなったり熱くなったり。いわば快適な鍛錬用の訓練服だな。」
なにぃ!ただの魔物の糸を魔力を込めて紡いだ物ではないと!訓練でござるか。
「幸い食には困らないだろう?金が無くて仕方なく護衛を買って出ている。その方が聞こえも良いだろう?」
た、確かに。ここは飯には困らん。あの偶には護衛を変われって目も変わるはず。
「しかし、やはりお値段の方が、」
「なに、俺も口利きしてやろう。上下3着で金貨12枚のところを6枚にまけさせてみせる!」
金貨6枚、貯金の半分程度でござるな。
「いいのでござろうか。民に負担を強いるのは」
腐っても、落ちぶれても貴族である。矜持が
「民に必要なのは現金だ。現金なぞ回してこそ価値がある!貴族は不要なものを買ってでも民に金を流すもの!」
良いのでござろうか?良いのか?
「良いんだ。民の生活の為、経済を循環させる為に貴族が金を注入する。それも貴族の仕事だ!」
天啓でござる!正に天啓でござる!
経済の循環。その為に貴族が金を使うのだと。
そう考えると。あの肥え太った貴族がこれ見よがしに金を装飾品にバラ撒く姿。
経済よ回れ!回れ!と言っていたのでござるな。軽蔑の眼差しを投げた過去の自分を殴りたいでござる!
「貴族が金で無理矢理言うことを聞かせるってあるだろう?あれ、実はその庶民に金をあげたいけど理由がない。だから名目上無理矢理っていう建前なんだ。」
なんと、なんとお!確かに金の為ならば仕方なくというのが人の通りでござる。だが貴族は誇り高い者。
偉そうに名目無く分け与える慈悲深い聖女とは違うのだ。為政者としての建前がいるのだ。吟侍があるのだ。
そう考えると、無理矢理亭主に金を握らせ妻を連れ去った貴族。絶対誅するとヤッてしまったが、
もしかしてあの庶民に金を与える為の方便が無かっただけかも。
くそう!悔やまれるな!
「家臣団一の金持ちが何を買うのか掛けが始まる前に使ってくれると嬉しいな。」
「魔力糸製内服を4枚買いまする!」
部屋を辞した後。部屋の中から『脳筋めんどくせえええええええ!!!!!』
ふむ。自分は脳筋ではないので他人の事でござろう。
まったく。ロイ様を困らせるなど以ての外でござる。
「ロイ様。海水より塩を作ってみました。」
は?海水で出来た塩はとてもじゃないが。
「味見はしたのかい?毒があったら怖いんだけど」
ヴィル殿常識ですよね?って、ああ!ロイ様に無理矢理食わせようとしない!
私はロイ様の護衛!
「うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
クソマズイ!何だこれ!
私が口に入れれば万事解決!など思って口に入れては見たものの。
何だろう。エグくて苦くて臭い、しょっぱくてもとてもじゃないが食べられたものじゃない。
口の中がいがいがする!。胃が熱い!
「はあ、なんで君達は塩一つ満足に作れないんだ。」
いやいや、海水から作った塩はこんなもの。それが海水塩。常識でござる。
「シーサーペントはとても美味でござった!」
うむ、海まで道を通したかいがござったな。
「海産物の獲得をしようにもシーサーペントが邪魔をし」
「出るのか!直ぐに行くぞ!」
そうなるよなあ。ロイ様がいる時は出ない。他の人間のみなら出る。
偶然だろう。判っている。偶然会えないのだ。
実際ロイ様の護衛としてつきまとっている期間中にシーサーペントは一度も出ていない。
ん?なら
「ロイ様がいる時に漁をしてみては?シーサーペントが出ればロイ様が出なくとも漁師が互いに嬉しい。」
ロイ様の目的はシーサーペント、漁師の天敵はシーサペント。
「ロイ様、塩の件はなんとかなりませんか?クリーンも意味を成しませんでしたし。」
まさかのするーでござるか!ヴィル殿、主君がシーサーペントを求めているのでござるよ!
「計画段階で塩の話があった筈です。シーサーペントが美味しいのは判りましたがそれだけでは。」
し、知ってるでござるよ。計画に有ったのは。
「シーサーペントは兄上が期待しているからなあ。因みにどうやって作ったのコレ(ゴミ)。」
「普通に濾してから煮詰めましたが?その後クリーンを掛けました。仕上がり後もクリーンを」
なんでござろうロイ様が頭を抱えた後。しばらくブツブツなにか呟いていますな。
なになに?おっさんがんばれ?おっさんとはなんでごさるか?
「ロイ様おっさんとは?」
ロイ様無視は辛いでござる。がんばれ、思い出せ、ヒントはを繰り返し呟いているでござるな。
お、何か閃いたようですな。ハッとした表情の後。何事か計算している表情でござる。
何やら紙に絵を書いていく。えっと?田んぼ?
おお横から見た断面図。線を引っ張って上から数日放置、下へ流して同じく数日放置。その後最後所で取水ですか。
目的。太陽光による水分の蒸発。塩分濃度の上昇。
一々区切るのは。水分の蒸発した物が混ざるのを防ぐため。
結果塩分濃度の上がった塩水が作られ。薪の消費量を減らす。
、、、味の話では無かったでござるな。
「先ずコレ実行させて。その後俺が直接作ってみる。」
鼻歌混じりに岩塩を駆逐、岩塩を駆逐、という言葉は怖いでござるな。
ヴィル殿が図面を渡されため息を吐きながら指示に向かった。
確かに製法が確立されたら岩塩産出地の貴族は干上がる可能性も有るでござるな。
それ某の実家も対象でござる。海もあり申すが。
同じ派閥だから助けてもらえるはずでござる。最悪拙者が縋り付いて是と言うまで離れなければ。
お優しい主君の事だ。情報開示の許可が出るはず。この間4着目は値引き対象じゃないと言われ、
同じ値段に成るまでロイ様の脚に抱きつき泣きわめいたら何故か4着で金貨6枚でござった。
ちょロイ様である。
ちょロイ様と言えば。寛容が代名詞と思う今日この頃。
「フェイ様に~敬礼!」
朝の申し送り事項や、注意点、法令遵守の誓い。所謂朝礼でござる。
拙者の現在の肩書でござるが。ロイ様護衛、警備兵管理副所長、衛兵管理補佐官でござる。
ロイ様の護衛が主である事をゴネて絶対長官にはならないでござるよ。
一番強い?ノンノン。だから一番この領で大切な方を護衛する。それが第一種優先事項でござる。
「楽に!えっと。夜勤中に領内突入を試みた落ちぶれ盗賊を確保。確保って人足確定じゃん。」
厳しい男共を睨む。顔だけを見れば盗賊にしか見せない。あくどい事をしてきた人間の顔だ。
一応小綺麗で装備も統一され同じ組織の一団と判る。実際元盗賊である。
盗賊捕縛。賞金首とか小遣い稼ぎとか。思わなかった訳じゃ無い。
なのになぜ面談始めるのですか。
なるほど、確かにあの領じゃ食い詰めちゃって盗賊成るしか無いわな。自分が生き残るために?
良いんじゃない?だがなあ。この領じゃ違法者だからなあ。え?死にたくない?
判るけどさ。この領の領民を守るのが僕の仕事なんだよ。
領民になったら守ってもらえますか?領民以前に君等犯罪者だからね。この領ではまだ未遂犯だ?
面白いね。確かにその通り。なら自分らならどうこの領に役にたてる?
暴力かあ、え?見た目?確かに普通の人見たら怯えるかもなあ。
僕領民に家畜の餌しかやって無いぞ?幸せそうで太ってる?飢えるよりマシ?
慣れればいける筈?判った判った雇うよ。そうだなあ。いきなり領兵はマズイから。
警備兵ってところかな責任者は、フェイが、嫌?副で良いなら付き合う?
仕事は領内の見回りと、入領事はホントは衛兵の仕事だけど。立ち会いって形でやッちゃう?
別組織が一緒にいる方が報告が別々に別の視点で同じ物について入ってきて面白いかも。
え?自分は罪人?一応そうだけどこの領じゃ失敗して軽犯罪扱いだよね?
頷く自分。そうだった未然に防いでしまった。
確かに領法では軽犯罪位だった。
「ムチ打ちだと領民にバレるから、牢獄で10日にしよう。」
確かにバレませんね。10日後には警備兵爆誕ですか。金が貰え、信用有る席を犯罪者に用意する。
ですが一度そういった事に手を染めたものは落ちるところまで。
貴族は平民を襲い奪うが当たり前。取り敢えず様子を見てみようじゃないかって?はあ。
なんか忠実な部下が出来ましたね。腹一杯美味しいお米を食べて。装備や泊まる場所は支給。
給料も出る。俺達と同じ借金スタートだったが。満腹に不服はないらしい。
領法の音読が基本鍛錬らしい。武力は?集団戦。殴り込みで数で威圧勝負。
領内がおとなし過ぎて練習だけで過ごすらしい。
彼等が敬ってくれる。ぞろぞろと引き連れて歩けば貴族が街を歩く光景と変わらん。
でもなあ。なんかイメージと違うでござる。
ん?まるでヤクザの頭領?頭領は所長のお主でござらんか!
副長が実務のほうが良い。書類仕事は嫌でござると言ったのは君だろうって?
そうでござるが。育ちというか所作が違うでござる!
鍛えれば良いだろって。なるほど自分もそういう教育を受けてきたでござる!
そう言えば最近彼等に救世主と呼ばれることがある。意味が分からん。
捉えた盗賊を嬉々として確保致しましたと報告してくる。
他領にまで忍び込んでいるらしい。何故所長でなく副所長の自分に来るのでござるか?
まあ良い、ロイ様の為に見苦しくない警備兵を育てるでござる!




