15.念願の海
見渡す限りの水平線に皆が息をのむ。
臭い、磯臭い。ってかマジ臭い。
あれ?こんなに臭かったっけ?って思えばこの人生で初めての海でした。
「これが海、ですか」
ヴィル君も14才になりました。自分15才、年子ってやつか。
「シーサーペント見えないねえ。」
なに?なんでみんな黙るの?誰かなんか言えよ!
「あのロイ様?」
んん?良いね、良いね!流石最年長!サバートさんよ、なんか文句あんのかよ!
お前らは部下!シーサーペント見つけたら、やんのか?ああん!タマとったらあ!ってやるチンピラ要員よ!
「一応試作兵器の大型絡繰弓と投石機はあちらに。魔弾と炸裂矢の準備が出来ましたがどうしましょう?」
うん。シーサーペント見えないもんね。静かなものだ。
「シーサーペントいませんでしたって言ったら、兄上信じてくれるかな?」
「実験で全て失敗して失った。廃棄したと言えばなんとか」
ヴィル君それ良いね!
「あの方に秘匿は愚策。正直に、まだ発見出来ません!という事を強調しみてはいかがでしょうか?」
サバート君。パーフェクト!こんぐらっちれーしよん!涙でそう。拍手してみるが気がかりが。
「全部食ったとか無いよね?って疑われたり、最悪決めつけられて取って来いなんて無いよね?」
嫌だよ?部下を存在するかもどうかってシーサーペントを探す為に大航海させるなんて。
え?俺?俺領主。行くわけないじゃん!
地球人に解りやすく言ってやろうか?○リ○ベ○女王が大航海時代に自ら行くか?
そういう事だ。解らなかった奴。強く生きろ。
いつの間にか部下が青くなっている。せやで行くなら君等やで?絶対に行かせないけど!
「そもそも兄上の戦力なら兎も角、ウチの大事な戦力割くわけないじゃん」
海から少し戻って森を更に切り開き、陣地を先ず作る。
「さてどうすっかな。」
兄上が来るまであと猶予は半年。街道?んなもん本当の全力投入で一年半で終わったわ。
海を見つけた。切り開いたでは普通。ハッキリ言って誰でも出来る。
シーサーペント研究を終わらせて初めて兄上は驚いてくれる!気がする。
久々の天幕の前で切り株に座りながら考える。何故か領民がわらわら集まって建築を始めようとする。
っておいもう少し北側に戻れ。そうそうちょっと上がったその辺り。え?かなり離れてないかって?良いの!
調理法ねえ。取り敢えずシーサーペント有りきで考えるなら。誤魔化しありきで唐揚げかな。唐揚げなら肉が何であれうまくなるんじゃね?
幸い森の中で偶然、菜種の群生地を発見出来た。
領の農家が冒険者引き連れて森の中へ通っているなんて些細な事だ。
絞り器って一応ワイン作るかも用で買った物を放置してたのによく見つけたな。
いやいや、現実逃避いくない!どうしよう。
お願い!シーサーペント!シーサーペント様御身をこの前に!
って違う。何かしなければ変わらん!切り株から立ち上がったりその辺をウロウロしたり。
奇声を上げてみたり。うん、変人みたいだけど。意識は普通に有るんだよ?
本心では面倒くさくて。発狂してしまったフリしたいけど絶対バレそうだし。
シーサーペントの影もない。
せや!釣りや!って思っては見たものの。よく考える。
普通の餌だと小さい気付かない。
せやな!船を襲うらしいし餌小舟にしたろ!
「小舟を餌として海竜をおびき寄せる!」
こんな事もあろうかと川で使ってた小舟持ってこさせといて良かった。
本当は海だから船要るよねって一応持ってきただけなんだけど。
でもよく考えたら問題が、、、
日焼けした男がギュインという勢いで寄ってくる。
「糸は?、、、だから釣り糸は?どうしますか?生半可な糸じゃ切れちまいやすぜ?」
たしか漁師志望だったやつだな。
いや近い。おいおい、近づきすぎ。
なんなのこの漁師志望!やんのか?ああん?
「御領主様!ただの糸では持たぬ、縄は千切れるのみ。口伝ではそう言われてやしたぜ!」
んん?なに?なんか使えそうなのあんの?
「代々伝わるこの縄が!」
どう見てもただの縄に魔力糸を織り込んだものやね。未来型ロボットみたいに出すな。
「必ずや奴を仕留めてみせましょうぞ!」
お、おう。熱いやつだな。奴て言ってもまだ姿形も見えないし数すらわからないんだが。
せっせと小舟に縄を括り付け、更に船横に悲鳴を上げる何かを括り付けている。
海に浮かべて、槍?で数突き。蹴って海へ押し込んだ。
遠のく小舟。バシャバシャ暴れる哀れなオークたん。
待つ事半刻。海面にいくつかのバカでかい影が浮かび上がる。
水飛沫を上げて現れた姿は巨大だ。ソレが数匹。
普通に海上で遭遇したら絶望するなあ。
ってか魔力糸織物の反物って確か2年前以上に出来てたよな?激高だけど。
普通に総魔力糸製の縄も超高額で領内で買えるよな?
ちょっと良い縄買ったのを使ってみたかっただけじゃないの?
突っ込んだら負け。突っ込んだら負け
「来ましたぞお!」
船ごとオークに食らいついたシーサーペント。
嬉々として縄を引っ張る漁師志望。
もうヤダ。なんなのこの人
おい!そこのマッチョ加勢に行くな!
ってなんで既にマッチョ軍団が加勢してんのさ!
オーケー、オーケー。把握した。
領民が偶然特産品の糸を使って釣りをした。大物だったからマッチョ軍団が同じ領民に加勢した。
それだけのことだ。
オーエス、オーエスってなんでその掛け声なんだよ!
巨大な一頭対マッチョ軍団。悲鳴をあげる縄。とうとうその時は来た。
ブチン。あっさり切れる。
魔力糸は本人が魔力を込めたり、魔石を取り付けて魔力を流すことによって強度や性質が変わる。
当然平民の魔力量や魔石から供給される魔力量などたかがしれている。
たとえ集団でやったとしてもだ。
冒険者とかの魔法師一人でもいれば。いやちょっと良いだけの安物の縄だ、結果は変わらないか。
その結果、引き寄せられた巨体。
巨大な姿はすでに砂浜近くまで引き寄せられている。
見つめ合う巨体と漁師志望とマッチョ軍団。
そう、そもそも釣り上げてどうする?
陸に上げたらピチピチと何も出来ない魚じゃないんだぞ?
ある程度海辺でも活動できるんだぞ?事前の打ち合わせで判っていたことじゃないか。
お?新しい餌がいる。とでも思ったんだろう。大口開けてキシャアアア!って吠えている。
シーサーペントから見ればオークも人も変わらんもんね。
「ひ、ひいぃぃぃ!領主さまああああああああ!」
脱兎の如くロイめがけて逃げてくるマッチョ共。
普通領主を守るために盾になるもんじゃないの?
いや、良いけどさ。
「ロイ様。始めますがよろしいですか?」
「うん、やってくれ。普通の矢からよろしく。」
こんな事もあろうかと。ではなく試射は既に終わっているし家臣団の練度も間違いない。
問題はあの巨体に通用するか、強固と名高い防御力を突破出来るかである。
「通常矢用意!、、、射て!」
魔力糸、水車による歯車機構の実験検証によってもたらされた新兵器。
魔力糸の強力な張力。金属を折り曲げて作られた弓。
それを引くための歯車による力の変換。試射では余裕で鉄製の鎧をぶち抜いた。
デッカイ弓から放たれた腕ほど太いその矢はまっすぐにシーサペントへ向かい命中。
ただ、
「なんか針刺した程度だな。」
そうプスっと刺さった程度なのだ。
「通常弾用意!、、、射て!」
同じく新技術搭載の投石機。テコの原理を利用した物を遠くへ飛ばす兵器だ。
通常弾。とは言ったもののただの石。それはキレイな弧を描き。シーサペントへ命中。
「痛そうじゃないか。ちょっとのけぞったぞ?」
そうちょっと小突かれた程度っぽい。
そもそもさイメージしてみ?鎌首もたげた蛇にその蛇より小さい小石投げてみ?痛くも痒くもないべ?
「多頭矢用意!、、、射て!」
うん、針まみれ。何本か針が刺さったレベル。ほら浜辺にこすりつけられたらもう取れた。
「散弾用意!、、、射て!」
何個か当たったその程度。
いや、しかし家臣達の動きが良い。
持ってきたそれぞれ五台の兵器を扇状に展開し、魔力供給が一人と向き調整が一人、装填が二人に指揮が一人と。それを魔力切れが無いようにクルクル変わっている。
さらにシーサーペントの気を引くためか、波状で次々と絶え間なく攻撃している。
「ロイ様、魔法矢と魔弾の試射に移りますがよろしいですか?」
ロイが頷くと嬉々として用意し始める家臣団。
刻印術を使った矢と弾はそれ自体が魔道具である。
「火炎矢用意!、、、射て!」
え!それから行くの!巨体に吸い込まれた矢は刺さると共に大きな炎をあげる。
シーサーペントが悲鳴をあげて頭を左右に振っている。家臣団が拳を揚げている。
「炸裂弾用意!、、、射て!」
おいおい!ちょっと待って。
キレイな弧を描いて頭部向かいそのまま命中。着弾後頭部が燃え上がり爆発した。
崩れ落ちるシーサーペント。歓声をあげる領民達。手を高々と揚げて咆哮する家臣団。
海竜退治の成功。数百年ぶりの快挙。それは名誉の一つだ。
サバートがロイの表情に気づく。
何故か愕然としているロイ。普通なら間違いなく英雄と呼ばれる手柄だ。
「ロイ様、いかがなさいましたか?」
「に、に、に、」
恐る恐るといった感じでシーサーペントの亡骸に近づくロイ。
爆散したシーサーペントの頭部片。
「頭の肉があああああああああああああああああああ!」
本当に楽しみにしていたのだ。身体の肉も美味しいだろう。
だが海産物の楽しみといえばお頭付。兜焼きを楽しみにしていたのだ。
何故、他にも貫通弾として強固の魔法が刻印されたものや風魔法でスッパリなんて弾も遭ったはずなのに。
何?貴族は焼くのが好きなの?爆発がロマンなのか?
「まだ数頭いるではないですか。」
ヴィル君が呆れたようにロイを慰める。
ハッとしたように希望の、欲望の眼差しを海に向ける。
静まり返った海。残ったシーサーペントの首無し巨体。
交互に見る。
「いないじゃないか。」
「再度釣るという手があります。」
「来ると思うかい?一度同族がやられたの見てるんだ。対処しない馬鹿なら良いが。」
「取り敢えず帰投しませんか?幸い海まで来れたのですし。」
海まで出られただけで快挙。シーサーペントを倒したという大金星のおまけ付きだ。
シーサーペントの血抜きが終わったらしい。ある程度の大きさに切り分けられ防布に包まれ荷車に乗せられていく。
まだ食えるか判らないのに。
頭近くの胴体の部分を持って来させる。そもそも本当に食えるのだろうか?
というか革が固くて輪切りが精一杯か。それにしてもでかすぎる。幅だけで自分の身長以上ある。
取り敢えずに少しでいいから肉片を取り出そうナイフを突き立てる。
刺さらない。グイッと押し込み。そのまま戻った。
中の肉は硬くはないが刃が通らない程に固い?どういう事?
ちょいちょいとサバートを手招き。
「どうやって切ったの?」
「え?硬かったですが、身体強化した領民が大鋸でガシガシやって切っていました。」
旋盤の原理か。ん?もしかしてコレもいけるんじゃ?
手に持っていたナイフを風魔法で動かしてみる。うまく動かない。
そりゃそうか空気の受け場が少ないんだ。なら魔力操作で直接。
お、おお!いい感じ。魔力は第三の手だ。サイキックと名付けよう。
ナイフはクルクル回転を始め、やがて円にしか見えない程に回転する。
ナイフを肉に近づける。
通った!肉の切り出しに成功した。
左手で火魔法を出す。その上に肉の塊を覚えたてサイキックで持ってくる。
「普通に肉の焼ける匂いですね。」
ボタボタと焼ける側から肉汁?油が焦げる匂い。
ヴィル君も興味津々、っていうか家臣団一同がロイを囲っている。
普通に火は通った。後は食えるか。美味いかだ。
伝承通りなら食える筈、美味い筈!
焼けた肉の塊に刃を突き立ててみる。普通に刺さった。
「あっさり切れた。」
呆気ない程に。しかも切った感触ではかなり柔らかい。
「「「「毒味は任せてください!」」」」
「あ!」
止める間もなく家臣達が焼けた肉をさっさと切り取り。口に放おり込んでいく。
「「「「「うまい!」」」」」
口々に美味いと言って焼けた肉を更に切り取っていく。
毒味って食べてしばらく経たないと意味ないんじゃ。
全員が摂取量調査しかしてない。領民までワラワラ集まってきて肉をねだり始める。
快く焼けた肉を切り出し分け与える家臣達。
ロイは悲しそうに。少し肉を切り取り一口。美味しい。
領主なんですけど。美味いんですけど。
「あたまにくううううううううううううう!」




