145.虎穴に入らずんば
脅してません。
最初にそれだけは言わせてほしい。
件の蔵の買い取り額1億2千万。購入者ヴィル様。
評価額の理由は最低買い取りが不動産で1億。
場所は本当に良いらしい。土地代だけで今後1億どころかそれ以上の金額に上がり続けるだろうとのこと。
元の持ち主ロイ様。色んな場所に家やら小屋、蔵、庭園用や施設用の空き地を事前に押さえていた。そして売りつける。筈だったのだが。面倒になって放置。空き地に家を適当に建てて空き家物件にしてみたりして、、、最終的には普通に忘れた。
地価相場の実験だったようだが露骨に上がるだけの状態になると興味を失ったようだ。良い場所は売らず自分の物として売る予定ではあるが気が向いたら売る。
などと適当な理由をこじ付けて始めたは良いが興味を失い。面倒くさくなって。そして忘れたと。
上がり続ける土地の価格。そんなもん見張ってられるかって心情だったのだろう。そして面倒になって家臣の一人に任せて忘れたようだ。つまりもうどこにどれだけ土地家屋を押さえているか本人も分からないのだろう。
だって興味無いし。忘れてるし。なんか気に食わなかったら貴族の強権で買い上げたら終わりの話だし。
そしてそれを管理していた家臣は、ほぼ土地家屋を売らなかったようだ。だって常に上がり続ける価値。これが乱降下しているなら適当なタイミングで売る選択肢もあったのだろう。が、常に上がり続ける。
資金源の一つにするはずがそこまでお金に困っていない。なので運用は完全放置状態。なら売らないで賃貸で済ませてしまおう。
家臣も適当だな!
がその適当さが予想的中。例えば当時1千万の評価額の物件をある商人が2千万でどうですか?と交渉にきたが即却下。行商人が1億が限界ですと言われ平身低頭で値切った結果?販売に至った事があった。
現在その物件の評価額8千万。しかもいまだに地価が上がり続けている為あと数年で行商人は購入額を上回る資産を持つことになる。10倍で購入しても数年待てば評価額が購入額を突破。
そういう要所要所の土地をピンポイントで押さえているようだ。
実験なのだからそういう事なのだろうが。それにしてもピンポイントで押さえ過ぎだろ。
普通は乱降下で上り下がりが有るもんなのに上がり続ける。そりゃ任された人だって簡単には売れんわ。売って数年後10倍とかの価値になったりでもしたら無能と呼ばれ周りに後ろ指さされるわ。
ワイが1億以上で買ってくれる人いませんかね?でヴィル様が先の値段で購入してくれた。まだ価値は足らないが数年すれば超えるだろうとの見解らしい。というか確実にそうなる。だって場所聞いて眉間トントン。
『あのクソババア!』って低い声で言ったんだもん。
建物は蔵。所謂箱。取壊しも改築も楽な物件。そんなものをヴィル様の管轄の要所に構え。売らずに放置。売っていれば税収になるのにロイ様所有。つまり税金掛からない。税収にならない。
つまり隠し玉をいくつも持っているが手放さない。しかも陰口で『クソババア』ってしか言えないような相手らしい。
1億1千万提示されたがもっと上乗せしていただけませんかねえ?って言った。確かに言った。お貴族様涙目で1千万追加で許してくれんかって言われて。
そこでサバート様が2億で良ければと言われた瞬間。ワイの直感にヴィル様にしろと言われたのでヴィル様に決定。
そしてサバート様管轄で代替えの蔵購入するという事で手を打っていただいた。
1千万で土地付の蔵物件。
ああ、サバート様が宗教関連者という事をなめていた。
1千万で土地含めた蔵買わせて下さい。
OK。
即決。
ダンジョンが有る街、しかも一等地。家付きだそうだ。
ただし、教会の隣。
、、、怖い怖い怖い。
即決のハズが交渉決裂。
間違いなくサバート様領地で購入する事は前提にしたとしても教会付近だけは避けたい。なので粘り強く交渉を再開する。ヴィル様の立会いのもと。
だって1対1だとなんか嫌な予感がするんだ。教会信者云々が。
場所なんて外れの方で良い。物件は安い方が良い。何より教会近くに蔵を買った事をロイ様が後日知った時に、自分の立場がどうなるか予想できない以上許してほしい。
上記の事を遠まわしに伝えつつひたすら交渉だ。
領館隣とか勘弁してください。その何に使われてるか想像がつく集会場近くも勘弁してください。
最終的に比較的街の外延部で蔵付、ある程度大きい家に決定。価格。ピッタリ1千万。
おかしい。一等地外れても蔵付で家付という同じ条件のハズなのに。チラリとヴィル様を確認。頷いている。って事はおかしくはない物件のようだ。
って訳でお引越しですわ。やって来ましたダンジョン都市。街?ようわからんが。とりあえず購入物件に行く前に教会へ。
教会前をキョロキョロしながら素通りする。
ねえよなあ。教会隣りにそんな物件。
ん。んん。ようわからん。それらしき物件付近に無し。やっぱりサバート様すごく怪しい。
まあ良いや。
で、ワイの購入した物件へ突撃や。
示された地図で一応確認する。
地図上では要望通りに街外れの方ではある。
現地に到着したようだ。裏手側に大きな蔵が見える戸建ての家付き。木の塀が建物続きで敷地が覆われている。表札?なんか木の札みたいなのが扉にかけてあってその札下につるつるとした円形の板がはめ込まれている。
あ、これ魔道具や。
魔力視で回路をたどろうとするが起動していないのか反応が無い。もしくはただの装飾なのかも。
、、、ドヤ顔で魔道具って言った事は無かった事にしてくれ。自信なくなってきた。
両開きの扉を開いて早速内部を確認。玄関ホール。何も無いけどバカ広い。屋内駐車場か?
で、中へ突き進み奥の戸を開いて、、、左手側の土間はそのまま奥の方まで続いている。右手側には板張りの廊下。そして部屋が並んでいる。二階への階段もある。奥の方で更に曲がって別の設備への道もあるが、まずは真っ直ぐに土足で奥の方にある戸に向かう。
勝手口だな。戸を開け目の前にどでかい蔵。ああ、厩と車庫もある。馬も馬車も持ってねえけど。デカい両開きの扉を開いて蔵の内部を確認。ワイの依頼通りウスター様が詰め込まれている。
輸送費ケチろうかと身体強化使って持ち運べるか確認したが。移動距離。身体強化の持続時間。割れる可能性。想像して早々に断念し輸送依頼かけたんだわ。
とぼとぼと近寄り瓶に手を当てて膝から崩れ落ちる。
「頼むぞ、、、マジで。ワイ。オケラやねん、、、」
とうとうこの時が来た。銀行残高0円。
輸送費が1千万越えとか輸送費舐めてたわ。そりゃそうだよなあ。第一都市からダンジョン都市。片道数日。割れ物注意の重量物。中身も液体。税金怖さに即退去の特急便。
そして残った手持ちのお金。約2万。次の振り込みまでと半月。
家持ってても中に家具は無い。薪もない。あるのはお情けで運送屋が一緒に持って来てくれた布団だけ。
食糧無し。調理器具もない。ダンジョン都市には知り合いはいない。キンさんもいない。
半月寝て過ごせるだろうか。
待てよ?代官屋敷に泊まれんやろか?前回みたいに優ぐう、、、
ニタリと寄生虫的思考を持ちかけてハタとあることに気が付く。
無理だ。サバート様に現在のワイの活動予定がバレてる。下手したら滞在中の可能性もある。変に借りを作るのが怖すぎる相手だ。
そうなるとだ。
当然の事だが可及的速やかに活動資金を稼ぐ必要がある。
ならどうするって?手は一つしか思い浮かばない。
だってここダンジョン都市だし?
でもなあ。危険な事やりたくないんだよなあ。楽して稼ぎたい!
現実逃避でお家探訪開始&継続だお。
勝手口からお家の中へ。
土間横の長い廊下に靴を脱いで上がる。
1階に個室?部屋が5部屋ほど。調理場、水洗トイレ、洗濯場、そして風呂!しかも魔石と薪のハイブリッド方式や!
ちょっとテンション上がった。2階へ上がる。個室が立ち並ぶ。10部屋ほど。使い道がわからん。
、、、3階。広い部屋が一つと2階同様の個室が3つほど。イミフw
え?何がイミフだって?
ワイ個人所有の家やねん。これ。
ワイ一人ですがw
一国一城の主になりマスタw
ワイ一人暮らしですがww
しかも蔵付のバカでかい家!
ボッチ暮らしですがwww
うるせえ!そんだけ広い家にボッチとか言うな!




