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14.視察

家族が黙っている訳がない。


特に隣領であり、神童と呼ばれたランナートなら尚の事。


「私は出資者だよね。ロイ?」


兄上の鶴の一声。


「大丈夫。育て中の苗は刈っては意味がない。ただの確認だよ。」









「私も15歳だ。来年には王都の学園に向かう。」


そうですね。学園で3年掛けて読み書き計算、歴史と武術と魔法。領地経営学や法学。専門学を習う。


貴族子弟はそこで優秀な成績を収めれば文官武官への推薦が貰える。


家庭教師が雇える貴族からすればハッキリという。


入学試験が卒業試験なのだ。


ソレって意味あんの?




学園の名目は広く開かれた門戸にし機会を与え広い視野を与える。


全ての王国民に平等な教育の機会と優秀な者への後押しをする。


平民でも優秀なら上にいけるんだよって話。貴族子弟に言えば箔付けと社交に婚約者探しだ。


「私に必要か?」


神童と称されるランナート兄上に?


箔、有る。学力、有る。将来、子爵家当主。社交、結婚相手が勝手に寄ってくる。


「兄上なんで行くの?」


マジ不思議~。って顔すればランナートも苦笑する。


義務じゃない。なんで行くの?基本的に貴族子弟が入るだけだよね?現に当主の自分行かなくて良いし。




「イバーナ領は、ああ、ここじゃない父上の領だ。自由がきかん。」


ある程度発展した土地は変化を嫌う。


「なるほど。」


「瞬時に理解するとは。流石弟だ。血は争えんらしい。」


兄上、ぶっちゃけたところ。


父上の規制が激しくて実験出来ない!もっと好き勝手やりたい。


でも監視の目が厳しい。うるさい。好きにさせろって事らしい。


「王都となれば学園内とはいえ、父の目がない。ある程度好きに出来るだろう?」


ですよね。でも兄上忘れてませんか?


「叔父上が監視の可能性。父上の監視の従者。学園内の禁止事項と」


「寮に入れば訓練として一人暮らしが可能だ。金の無心は監視が厳しくなるからな。」


「送れと。」


頷く兄上。流石兄上。無心ではない。投資の回収かよ。


「何そんなにかからん。一応怪しまれん程度に少し持っていく。だから月大金貨100」


「無いっす!無理です!」


「冗談だ。そんなに金が動いたらバレるだろうが。少金貨数枚で良い。」


それでも日本円で月数十万円を弟に集るって剛気っすね。メシ学費必要経費は先払いなんでしょ?


まるまる研究費に使う訳でしょ?




後ろで聞いている家臣達が兄弟の会話に引いている。神童の弟への金の無心。学園の否定。


父親をウザい邪魔と言い。実験がしたいと宣う。


今回ランナートが派閥視察官であり、仲間であり情報漏洩の心配はないとされている。


むしろ盾の要だ。とも。


「私が問題ないと言えば疑いようはないさ。何より子爵領の方は大した変化はない。」


そう、疑いようが無いのだ。情報封鎖をロイの実家が行い。投資の結果も間違いなく発展している。


まだ力が足りないから表に出せない。そういった理由だ。それだけでヴィル達の実家は安心する。


「派閥が水車の増産成功により他家の開発は頓挫した。」


朗報だ。大貴族による水車の大量生産。価格競争においても開発費に見合わない。粉挽きだけに開発費は回せない。


しかし転用可能な事を体験している自分達からすれば滑稽だ。


こちらの思惑通りに事が進んでいる。おもしろくて仕方がない。


落ちぶれ前提の自分達が、今最先端を突っ走っているのが実感できる情報なのだ。




「ロイ希望の海へはどうだ?」


「思わしく有りません。街道は順調で進むのですが。海も見えなければ匂いすらしません。」


そうなのだ。あまりに進展が見られない為、気晴らしに領内の街道整備に手を付けてみたがそれも既に終わり。


公共事業としてできる事を減らさない為に穴掘りを始めたくらいだ。


「地図上ではこの辺りか。」


優雅にグラスに入った米酒を傾けるランナートがロイ手書きの写しの地図の一点を指差す。


絵になる光景だ。真似してグラスに米酒を入れて傾けるロイ。


自分は絵にならないかとチラチラと家臣を見るが皆無視している。酷い。


実際にはランナートの発言に注意している為そんな余裕が無いだけなのだが。


ロイも絵になるよ?でも二番煎じって霞むよね。そういう事。








色々言いたい事がある。海塩は苦くて使えたもんじゃない。シーサーペントの恐怖も有る。


なのに何故頑なに街道整備を推し進めるのかと。


忠言出来ない理由も有る。反対しても実行し結果を出してきた自分達の旗頭。


失敗しても仕方がない。だから言ったじゃないですかで済むレベルだ。


例え海にたどり着いて目的に失敗しても何かを後でこじつけしてくれる。大丈夫なはずだ。


今までの結果がそうだったのだから。




「シーサーペントの肉って極上らしいですよ?海産物の良いものばかり食ってるから。」


ロイが突然とんでもない事を言いだした。


「王国記三巻のアレか。眉唾だな。巨体の動物は基本大味で臭い。だが試したいものだな。」


「この数百年記録が無いですからね。ガッチリ締めて血抜きすれば」


まさかの海竜討伐目的だった!しかも食い気の味見で興味本位。


そして嬉しそうに賛同する兄。


「しかしこのままでは私は食べられる可能性が低いな。学園行くのも考えものだ。」


天秤相手が酷すぎる。学園が海竜の肉以下扱いだ。


「お任せください兄上。シーサーペントの群れは間違いなし。調理法の確立の時間も必要と思われます。」


「なら休みが有れば来て楽しめるな。」


聞きたくなかった。シーサーペントが目的の街道だったなんて。普通塩じゃないの?


岩塩ってここじゃ輸送費が嵩んで激高じゃないの?


苦くて食えたもんじゃ無いです!ってセリフ準備したのに無駄にするの?


よりによって味見じゃ、固くて臭くて食えなくても。残念の一言で済ませちゃいそうじゃん!


兄弟の味見。その為に自分達や領民駆り出されてんの?




「あ、あの」


「なんだね?サバート殿」


「海水塩や海産物が目的ではなかったのですか?」


よく言ったサバート!ちょっとランナート様は雰囲気が怖いから言えなかったんだよね。


なんなの笑顔のみの表情って。


「ん?、、、ロイ?」


「そ、そうですね。海塩と海産物が目的決まっているじゃないか。」


ハハハと笑う二人。


絶対違う。この二人。ただ海が見てみたい。シーサーペントって食えるの?


それ位しか考えていないのが今わかった。ならどうする?


中止?する訳がない。なんとしても海水塩に興味を持たせ研究させて塩利権に食い込み名声を手に入れさせる。









不意にバタバタと廊下が騒がしくなった。


「冒険者からの報告です!」


勝手に入ってくんな。


「領主様が海を求めて街道を整備している事を知った冒険者達が」


いやいや普通分かるだろう?


「集団で先行し、探索し、海を見つけました!」


マジか!ちょっと不安だったんだよね。方向間違って無いかとか。そもそも虚偽の地図だったんじゃないかとか。


音はおろか匂いもしないんだもん。


「距離は?」


「現在の街道と同程度の距離と」


お、おう。遠いなあ。


「そうか、日数計算して褒美を出してやれ。」


普通勝手にやったら金なんて出ないんだぞ。


「それで?ロイ、あとどれ位かかる?」


ですよね。そうなりますよね?えっと。確認出来たってことは労力増強しても良いって事だから。


この領地へ来て3年半。毎日進んでいたわけだけど。


「全力投入しても最短あと2年はかかると自分は予測致します!」


ヴィル君計算早いね。自分の計算でもそれ位だ。


「そうか、2年は海を見れないか。学園の休暇中には見れる事を期待して良いかな?」


さて、なんと答えたものか。入学が1年後。学園の1年後に休みになる季節。しかも長期休暇が取れる季節。


王都からのこの領ではなく海までの日数。兄上なら平気な顔して早馬を乗り継いで来るとしても片道一月はかかる。


うん無理。


「兄上。卒業まで時間がとれないのでは?」


「最初に受けた試験が単位認定ならほぼ自由登校だろう?」


せやった。貴族の裏技兼次期当主特権。下手したら2年後この領に早々に籠もる可能性も出てきたな。


別に良いけど。面倒見るの家臣団の誰かだろうし。


「御意」


その言葉しか出ねえよ。


「楽しみだなあ2年後が。2年後には海が見れるのだね?ヴィル殿」


上司の査察確定しました。ヴィル君引きつっているねえ。海が見れなかったらどうなることか。


2年って言質作ったヴィル、後は頼むわ。


部屋のドアへ向かう。さながらヴィルの肩に手をのせ耳元で一言。


「穴掘りに回した暇人合わせたら1年工期減るんじゃね?まあ、後は頼むぞヴィル。」


さらに肩を二度程軽く撫ぜてから退出する。




期間は自分に余裕を持てるように計算して加算した上で伝えるもの!

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