135.潜入魔道具研究所
薄明りの通路の壁際に背を預け、慎重にすり足で進む。
やあ、みんな。今回はバーナ領最新技術の心臓部。魔道具研究所への潜入ミッションだ。
曲がり角の先で安全確認。
安全確保後、後ろを振り返って手をくいくいっとする。
「お前は何がしたいんだ。」
いや、罠とかありそうじゃん。
「普通に許可証提示して入って来て罠仕掛けられるとお前は思うのか?」
、、、無いな。でも魔道具工房じゃなくて研究所だぜ?最先端の技術研究所だぜ?
「はあ~。だから許可証が必要なんじゃないか。しかもお前の許可証は領主様直々の特クラスの許可証だぞ?視察だぞ?視察相手に喧嘩売ってくると思うか?」
キンさん相変わらずツッコミ厳しいおw
ってわけでやって来ました魔道具研究所。この施設のココを見てこい。って指令なわけですが。ワイ視察責任者。他に視察者無し。ええんかいのう。んで護衛付き添いキンさん。キンさんて結構偉い立場じゃなかったっけ?
コネという事で許してくれ。
でだ。今回の視察対象なんだが回転機構なんだそうだ。
、、、回るんだってさ。魔力の力。魔石をエネルギーにして回転動力を得るんだとよ。なんの役に立つんだよ。水車動力や風車動力あるやん。意味あんの?
今は意味がなくともとりあえず研究するんだと。それで領主様から予算もぎ取ったんだってさ。しつこくてぶっ飛ばしたかったけど言ってる事は面白そうだから許可したらしい。
でワイに視察して来いと。
第4研究室。ここだな。
部屋に入る。うん。ナニコレ。
ワイの入室に気付いたのか一人の女性が走ってきた。
「お出迎えせず申し訳ありません。私、第四研究室主任のパナスです。」
、、、結構なものをお持ちなようで。
深々と感謝のお辞儀をしながら右手を差し出しワイも自己紹介をする。
「当研究では魔力をエネルギーとして抽出し、回転機構の動力として扱う事の研究をしております。」
キンさんを見る。うん。知ってる事前情報だよね。
「げ、現状といたしましては、そのまだ、これといった決定打的結果を出せてなくて。」
せやろなあ。鉄の歯車を回そうとしているヤツや。蒸気機関擬きを作ろうとしているヤツや紐をグルグル回しているヤツ。
ああ。カオス状態だ。奇行集団にしか見えない。
「普段からのお前の奇行も変わらんがな。それといい加減手を放してやれ。しょっぴくぞ。」
おおっと失礼。握手したままでしたね。デートしてくれんやろうか。おっと仕事仕事。
「この後時間あります?食事でもしながら今後のお話しませんか?」
「だからお前はなんで仕事中に女口説いてんだよ!」
キンさんにすかさず殴られたお。違うねん。本当はこの後の時間はどういった形の研究についての説明か教えてほしいのと。今後の研究の方向性を聞きたかったんだよ。
なんかごっちゃになっただけだお。
しっかし魔道具なあ。、、、やっぱり刻印術式の延長やんけ。しかもクソ遠まわしで偶に間違ってるし。こんなんで良いのかね。研究所。
しかもさ。魔石とか魔力とかを使って動力を得るって意義は小型化とか持ち運びの利便性の追求ってのが本来の方向性なんじゃねえの?
なんで大型化しようとか大出力を得ようとかしてるんかね。
「俺を見るな。そういうのは専門外だ。」
ですよね~。キンさん肉体言語派だもん。
「えっと、小型化と持ち運びの利便性ですか?それになんの意味が。」
そこからなんですかねえ。研究者ってアホしかおらんの?
「半日持つ小型の現状の魔道ランタンと半月は持つ建物位デカい設備の魔道ランタンが有ったとします。どっちを買います?明るさはどっちも同じです。」
「メンテナンスや維持管理の点を考えれば半月ではないでしょうか。毎日魔石をセットするのも大変でしょうし。設備サイズはやはり設置場所や使う場面で変わるでしょうし。」
おおっと。言い返された。ワイの知的なところを見せつける場面だったはずなのに。
「小型の物から始めないと目標設定も方針も曖昧で予算がかかるだけだと思うのですが。」
「金食い虫と揶揄されているのは解っています。ですが大きい物で成果を出せれば見る目が変わると信じています。」
あかん。ああ言えばこう言う。面倒なタイプだ。とりあえず現状の研究物を見せてもらうか。
まずは大きい歯車を回そうとしているタイプ。組込型刻印術式のタイプでほうほう。この円盤が動力炉みたいなもんか。色々な円盤を交換しながら動かないか確認していると。
ところでコレ動いた事あんの?ちっちゃい歯車までは回ったと。大きくした途端動かないと。
当たり前だろうなあ。出力足りねえし。こんな回路じゃ高出力の刻印術の円盤ブッ込んで大きい魔石とか大量の魔力をブッ込んでも回路が焼き切れるだけだろ。アプローチ方向が間違っているとしか思えない。
回路の先の歯車を見る。刻印されている意味を読む。回転せよ、速度5にて、4転、5分、、、
なあ。回転すると思うか?人にこの指示出したとして指示通りに動けるヤツいんのかね?文字的な意味は間違っちゃいないけど。
刻印術式入門編で古代語なのか魔法文字なのかは棚上げされて翻訳はされてるからできなくはないよな。刻印術式とはいうが中級編か参考編だと数式に似たものではない。どちらかというと文章と数式の合作だって書いてあったよね。
プログラミングで使う機械言語みたいなものだ。これじゃあ動きようがねえだろうが!ツッコミたい。視察だからやらないけどね。
一応他も見るかって見てみたけどどれもこれも似たようなもん。なのに何で照明や風呂などの熱源の刻印術式は普及してるんだろう。
照明は昔から有って途絶えなかった。火関連も同様。必要性の高い物が生き残り研究されてきたわけだ。
領民証。コレは?ロイ様が開発したと。
魔道具開発の第一人者。孤高の天才。紙幣も魔道具みたいなものってか厳密には魔道具らしい。重要機密系はほとんどロイ様謹製。ワイ禁書写本して制作方法も改造方法も知ってるんですが、、、
紐がグルグル回る魔道具。コレが唯一回ってんね。代表の作と。ああ、糸紬の発展に使えないか研究してるんだ。紐なら軽いからなあ。
コレってそういう事なんかね。ロイ様。ワイになんかしろって事なんすかね?禁書見てるし内容教えて良いって事やろか。それともやって見せてやれって事とか?
出来なくはないんだよなあ。たぶんあの術式だろうし。そうなると材料は鉄?いやワイが解決したらアカンと思う。なら一番安い木だよなあ。
「あのちょっと自分も一応作れるんで材料と工具借りて良いですかね?」
ただの視察ならワイ指名のピンポイントでなんかやらせない。そういう事やろロイ様。
嫌だなあ。魔道具制作なんてワイの仕事ちゃうと思うんやけど。




