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13.冒険者

13歳になりました。


はい。開発は順調です。


領民も大分増えました。税収も右肩上がりです。




本当です。嘘ではありません。


簡単な話です。入って来る冒険者を次々と領民にしました。









「くそ、ふざけんな!パン1個小銀貨二枚ってボッタクリじゃないか!」


金属製の大盾を背負った筋骨隆々の大男が領民に詰め寄ります。仲間と思しき者も取り囲んでいます。


「ここじゃそう決まっているんですよ。」


涙目の領民。うんそういう決まりなんだ。他領の十倍以上の値段でパンを売る。


麦の税金が8割という重税から出てくる当然の値段。そしてパンを売る店は領公営その一軒のみ。


宿で出るのはうっすい麦粥か糠臭い粥。味付け無しの肉と野菜。我慢できるわけないよね。


塩の販売も領民商人にしか販売許可されていない。値段は当然十倍以上。




うん切れるなって方が無理だな。へい、カモンカモン。


はよ手を出せや。


お、抜いたな。武器抜いちゃいましたね。


家臣を連れて馬で特攻!


「何事だ!」


お、驚いてるが。ガキ相手だから睨んできてるね。


「な、なんだてめえ!やるって、、、言いますか?」


おい、後ろ見てびびんな。


「この地の領主。ロイナート・イバーナである。」


ババーン。カッコイイ。ってならないかな。おい、お前らもなんか盛り上げろよ!え?さっさとやれと。はい。


まず従業員に話を聞く。値段間違いないね。


うん。領民だって同じ値段で買っている。本来予約制だし領民ほとんど買わないけど。


わざわざこの為に事前に準備したのだ。そして彼等は領公営のパン屋さん従業員。


公務員ってやつですね。公務執行妨害って知らんよね。


でも兵士に歯向かうって行為が貴族に逆らうのと同義くらいは知ってるだろう?


そして領主にむかって、てめえ扱い。


うん不敬罪。冒険者は自由かも知れないが身元不明の根無し草で流浪の民が多い。


大半が誰も保証してくれない。ここにはまだ冒険者ギルドの支店はない。


つまりどこの領民だったか知らないが他領で貴族関連の問題を起こした平民に金だして守ってやろうなんて殊勝な人格者がいる訳がない。




結果土下座状態の冒険者の出来上がり。


いや、音を上げるの早すぎません?手間がかからなくて良いけどつまらない。


もっと色々用意したんですよ?一生懸命。具体的には領民の為にプスプスと。


冒険者の泣き落としが始まった。


『当然です。不敬罪なんて平民の首が簡単に飛ぶ重罪なんですから』


小声のヴィル君の囁き。せやな。世知辛い世の中やで。まあ残りの策は今後に活かすとして参りましょうか。


領民冒険者への道の勧誘を。




領民には優しいんだ私は。軽いささやき。


領民なら仕方がない。今後は私の顔を忘れるなよ、見間違えるなよで済ますかもなあ。


なんて言いながら彼等の周りを歩く。


彼等は領主館という増築を重ねた継ぎ接ぎの一軒家の会議室の一室の椅子に座らされている。


先ず話を聞け。口を開くなと。


全員顔が真っ青だ。


圧迫面接真っ最中。面接という名の脅しだけど。


領民なら一度や二度の失態位寛容でありたい。


領民なら私が守ってやらなければなあ。


要約すると領民なれ。税を納めよ。自由な冒険者の立場を捨てろと。奴隷になれと聞こえるだろう。




「怯えることはない。冒険者をやめろとは言わない。領民となり領法を守ってくれれば良い。他領に行く時には身分の保証書を発行しよう。」


身分の保証をする。他領ではありえない破格の条件だ。


不敬罪をちらつかせ縛り付ければ良いだけの話を好条件で領に迎い入れると言っているのだ。


彼等の目が希望に満ち始めている。よしよし、付いてこいよ。


「それだけではない。現在この領にはまだ冒険者ギルドも無いしほとんど商店が無い。つまり君達はここでは換金するすべがない。時間はかかるかも知れないが。当然魔石や素材取引の為に誘致する予定ではあるのだが。」


しばらくはそんな気ないけどね。


「領民は仲間で身内だ。仲間は助けないとな。君らが狩ってくる素材をこちらで他領に出荷する。その代金を税金天引きで、そうだな税率は」


もったいぶってウロウロしてみる。


「2割で良い。さらに、さらに借金にはなるが格安で家も用意出来る。領民価格だ。他領より安いぞ。借金だって私の立替だ。」


冒険者の肩に軽く手をのせる。ビクリとしてこちらを見る。


うんうん、身元不確定者じゃ普通家持てないどころか借りれないもんな。


「いきなり取り立てるなんて真似はしない。利子も付けない。領民の生活を守るのが領主の勤めだからな。」


おお、泣き始めた。はい、サバートひっでえって顔しない。ヴィル君詐欺師って目で見ない。




うん、完全に落ちた。ここからは先に領民宣誓と宣言を行う。


領民に成るにあたり領法の遵守と仲間を裏切らないという事を自分自身の血と名前を持って声に出して宣言してもらう。


戸籍台帳の控えとなる血判状に自身の血で持って拇印をする。


戸籍台帳が目の前で作成されたあと、更にここで領民カードが作成される。


最初に魔力を流しても何も起こらないただのカードで有る事を確認させる。


ロイが先に血を垂らしロイだけの名前が浮かび、次に自身の血を垂らすと自分の名前も浮かび上がるのを魔力を通させて確認させる。


「さあ、君もこれからはこの領の領民。この領にいる領民全てが皆仲間だ!」


立ち上がって冒険者達とそれぞれ握手していく。


感涙状態の新領民冒険者。その後ろで引きつっている家臣団。


「これからは我が家臣が領法について説明する。何誰でも簡単に覚えられる程度だ。その時そのカードの使い方も教える。サバート頼む。」


俺かよって顔しない。ここまでやったんだからな。心からこの領に尽す様に躾けないと。









「領主様!この領最高っす!」


二ヶ月後の素材換金後のロイと面会した時の言葉だ。


本来冒険者ギルドでは手数料として5割程取られている。その中から2割を国が領地が3割として税金として徴収されている。


この領では領民なので換金後の金額から国納税分の2割。そして領内税金の6割が取られるので2割しか手元に残らない計算だ。一枚目の明細がその金額。


そしてもう一枚。領の仕事を完遂したとして領民支援金という名でその6割のうちの4割分が返ってきた。実質普通の冒険者の金額と変わらない。いやそれ以上だ。


しかも領民という信頼の証と保証付きだ。彼等は家購入の借金返済の為。嬉々として早速金を納める。


最初は不安そうにしていたがコメ食って。家貰って。領民に通常価格で野菜を分けてもらい。領民が同じ物を食い。


同じ値段で固いパンを予約して買う姿を見る。自分達と同じだ。仕事が違うだけ。と胸を撫で下ろした。


「家畜の餌だけどね。」


「家畜の餌万歳!」


ご飯めっちゃ安いもんな。美味いし。うん。米に取り憑かれるが良い。


魔獣を狩って肉を卸し、魔石と素材を領主館に持ってくる。肉だけ交換しても食っていける。


素材と魔石で金が入って借金が減る。結構良い額で売れた。珍しい素材も混じっていたらしい。


この領内であれば消耗品はあれどさほど食うには困らない。領民だから最悪怪我して冒険者に復帰出来なくてもこの領内であれば簡単に転職出来ることが分かっている。


なら自分達はどうすべきか。領主様はこの領維持の為に金を欲している。領の維持には金がかかる。仲間(領民)を守る為には金が必要。


当然の事と考えたらしい。借金とは別で領主様に献金をと更に追加で金を置いていった。





ロイの実験による秘密兵器が冒険者どころか領民、家臣の心を完全に掴んだ。


酒だ。ザザの穂に病気が付いたらしい。黒く変色した実を選別し。回収。病気の原因の究明。


砕いたり燃やしたり炙ったり燻したり。虫に食わせてみたり家畜に食わせてみたり。色々やった。


うん、久々登場のおっさんがそれ麹カビや!と一言。


なんとか繁殖させようとおっさんの魂がロイに働きかけ。知識を押し付けてきた。


米を蒸して菌を振りかけ一定の温度に保つ。魔力が有るんだから簡単だろ?


米炊いて水入れて麹入れて温度保て。とつぶさにうるさい。米の時もうるさかった。


大豆?とにかく豆だ芋だと本当にこの領に来て色々言ってきた。米を食べてからは少しおとなしかったのだが。


出来上がったのはどぶろく。いわゆるにごり酒だ。




どぶろく完成で領民と家臣が大歓喜。甘みがあって酔える。いい酒らしい。甘くてイマイチって人もいたが。


当然の増産と改良が進む。酒造り用の建物が作られ。どぶろくの増産と研究、味の改良。


熟成期間として適当に放置したら一樽が酸っぱくなった時、他の樽が酒精が強くなった時、煮たらアルコールが飛んで酒ではなくなった時。


大人達の顔が一喜一憂する。


当然失敗したものを廃棄する度、領民にはロイ様はわざと失敗しているんではないかって見られたりもした。




あのね、実験ってそういうものなんだよ?


その完成した透明な辛口の日本酒。米酒を領民になった冒険者が初めて飲んで虜となり領から出ないと心に誓った。


売り出せば金に成るのでは?ヴィル筆頭の子供組の当然の反応。


ロイの反応は難しい表情だ。


「家畜酒って名前で売ってみる?飼料酒ってだけで売れないかもだけど。貴族って新しい物好きだから影でこっそり試す。技術捜査に間者いっぱい来るかもだけど。ああ、そしたら米にも目を向けられるか。そしたら色々課税対象になるかもな。技術をどこまで秘匿し続けるか、いつまでもいけるかって問題もあるよね。」


そう、献金ができなくなればいずれ平民落ちなんて可能性も有るのだ。力が足りない。ロイの計算はそう語る。


追いつけない生産力、技術を持たねば毟られるだけで意味がない。そういう事だ。


何より。サバート筆頭大人組の圧がすごい。


ロイの言葉に大義を得たとばかりに頷く。


そしておっさん。お酒を売るなんてとんでもない。ってなんですか。飲めたとしても僕が結局飲むんですが。









数名の冒険者が領民になって暫く経つと他の冒険者も入領し始める。そこに商機を探すように追従する商人達。


対応するのは領民。そう領民が一丸となって勧誘する。


ある冒険者は高額の宿泊施設をわざと横切り家へ向かってみせたり。


ある者は物々交換を突っぱね。


ある者はよそ者を横目にカードを見せ精製した飼料を買い。


よそ者はカードを見せれば良いのかと安心してギルドカードを見せながら同じ価格で未精製の飼料を買う。


煮炊き場に来て粥を作って吐き出すよそ者にこれみよがしに粥を食ってみせる。


そう勧誘行為なのだ。だから余所者も我儘は言えない。同じことをしているはずだ。


それに耐えねばこの領では生きていけない。しかし領民は健康で幸せそうだ。


そこに現れる先住領民の者や冒険者達が甘い言葉を囁く。


「領主様が領民には色々支援してくださるんよ。」


「教えてくれ、どうすれば良い!金か?」


金なんかくれなくても教えると首をふる。


領主が自分の領地で領民を優遇出来るように支援するのは問題無い。


この領地の税金は8割。高額な税金を取り立て領民にのみ支援という形で金を配る。


そうなると領民以外は高額な税金を取られるだけとなる。


なら領民になるのが一番良い方法だが、領民というものは戸籍上の信頼などもあるのでどの領地でも冒険者や行商人は簡単に領民には成ることが出来ない。


それこそ税金を何年も納める続けた実績を証明出来たり、多額の献金という名の賄賂を領主に納めれば成れるだろうが。


「領民になるのは無理だろう!」


「いや、簡単に成れるぞ。面接と簡単な説明で終わったし。ああ、領主様が領主館にいない日は無理らしいな。」








実際面接と例の儀式と説明だけ。一日もかからなかった。


そして食らう米と米酒の洗礼。家のプレゼント。


領法縛りがあるが。


領法以前に自身の名と血を掛けた誇りが領民仲間を売れない。


そんな決意に領民同士の結束。元仲間、同業者を横目に甘露を味わう。


馬鹿だな。さっさとこっち来いよ。本気でそう思う。


領法と自身の誇りがネタバレを阻止し。遠回りな勧誘へと変わる。


結果領民冒険者と領民商人が多数誕生する。




「人はそれをミイラ取りがミイラに成る。もしくはねずみ講と言う。」


ポツリとロイの一言。入った物を引きずり込み囲う。意思を洗脳?先導し仲間意識を持たせる。


正義は自分にあるのだと。幸せになれるのだと。


商人は商人で独立し店舗をこの領に構え、元々他領が本店の商人は本店こちらへ移動させたりしている。


「なんですかソレ?」


「ん?さあなんだろうな。よくわからないが勝手にでた。」


冒険者問題が余所者を駆逐した。狂信者に近いのでは無いだろうか。


「詐欺師の手口ですよ。」


ヴィルがつぶやく


「彼等は不幸そうかい?」


「、、、いえ、幸せそうです。」


「なら問題無いね。騙し続ければ良いだけなんだから。」


本当に頭がおかしい。騙されている方が幸せなんて。そもそも騙しているのか?


家畜領民と世間に言わせ、極悪領主と呼ばせて嬉々として喜ぶ領主。


領内では舌をだして腹一杯に美味しい物を食べる領民。


重税じゃ重税じゃ!と麦への税金を下げないで満足している領主。


知っている者だけが幸せで知らない者が実は不幸。




ねえロイ様。本当にこのままで良いんですか?ヴィルは言葉をのみ込んだ。

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