129.会議中
夜も更けた頃。
バーナ領領主館のとある一室でその会議は行われていた。
出席者は3名。家臣団筆頭ヴィル。補佐サバート。補佐フェイ。
家臣団序列トップ3による会議。
「という訳でこちらの者とは違う思考による行動。ちらほら出てくる言動から考えるとやはり危険人物でござる。」
フェイの報告書を読み進める。言動。貴族に対する反応。生活態度。そこまで可怪しいものでもない気はするが。
「蒸気機関。電気に銅線。国ではまだ普及率の低い絡繰弓に対する戸惑いもないと。愛人殿と同郷、、、」
サバートは報告書にある名称に引っ掛かり考えているようだ。消すべきか、それともまだ様子見か。一点。自分の恩人であり主たるロイ様を笑わせたという点は評価出来る。
「愛人殿と同程度の知識、技術の先を知っている雰囲気から考えると表に出し過ぎるのも危険かと思い。キンにそれとなく接触させ続けているのでござるが。」
ヴィルは黙考している。ロイ様は彼に興味を抱いている。その内なにかの役に立つかもしれないし立たないかもしれない。
「問題はこの領に様々な貴族が集まっているという点でござる。そこまでの技術力発想力が無くとも先の形が解っているなら気付きの点で見れば他領、もしくは他国にとって有益になる可能性があるでござる。」
「引き抜き、か。」
ヴィルの言葉にフェイが肯いて肯定する。貴族に対する反応からみて、貴族の権力を理解している。理解しているという事は他家の貴族に脅されれば、当然付いて来いと言われれば付いていくし話せと言われれば話すだろう。
この領に居れば安全と判断しているところから己から出ていく判断はしないとは思う。報告によれば貴族を避ける傾向がみられるが金という暴力に負ける可能性もある。
この領の技術内容が話せなくともキッカケを作る可能性は充分ありうる。
国内の他家程度ならどうとでもなるとは思うが他国はまずい。
「ロイ様の反応は?」
サバートにとっては何よりそれが肝心。
「報告書には書けなかったでござるが禁書まで写本させたのでござる。間違いなく気に入っているでござる。」
二人が額に手を当てた。消せないではなく完全に消しても良いものかという考えに変わった。このロイ様の対応はロイ様にとって何かを感じる面白い物を手に入れた時の反応と思われる行動だ。
消せば問われないだろうががっかりする。それはこちらとしても避けたい話だ。ヴィルは確認するようにフェイに問いかけた。
「問題は彼の身分が平民というところか。」
「しかり。故に万が一の時の為。入所期間中のロイ様の指示に紛れ込ませ警備兵訓練6日間。退所後も合わせて衛兵訓練30日を体験させているでござる。」
問の答えを聞いてさらに考え込む。万が一の手を打つ方針としては間違いない。が、しかし。
「万が一に間に合うのか?」
「立場的に危うく行動も可怪しいので某がお願い(脅迫)して仕事をしてもらっているでござるが。かなりの綱渡りかと。」
報告書にあるキンの報告では多少抜けている面はあるが素直で勤勉。抜けていると書いてあるが率直に言えばアホな面があるという事だ。
どこで変な失態を犯すかわかったものではない。そう捉えるとヴィルの頭が痛くなる。
「フェイなら手綱とれるか?」
「一時的には可能でござるが。あの反応から察するにロイ様以外には無理であるな。」
ヴィルの問に自分では無理。ロイ様なら可能という言葉でサバート目が細まる。
信者なら問題ないか?信者なら手駒の一つとして扱う事も可能だろう。だが、ロイ様ならという点が気になる。ロイ様の為と変な暴走をされても困るのだ。
あーあーあ。コレじゃロイ様が描いた脚本通りじゃん。修正有るなら今のうち~って感じでござろうか。
「フェイ!可能な限り彼奴と接触くし続け我が領の、国のための者に育て上げよ!」
は~い言質1。
「本当に大丈夫でしょうか。彼はミサに一度も来ていません。邪教徒と決まった訳ではありませんが、、、」
参謀役がそれで良いんかよ!宗教ベッタリでござる。
ロイ様が行ってきた政教分離政策を忘れてるな。
「更生施設で職員に交際の申込む。女性に妄想する内容を広報で広げる頭の可怪しい者と思っておりましたが。仕方がない、教会には警戒レベルを一つ下げ。要人レベルを一つ上げさせますかね。」
言質2~。
単純でござるなあ。小難しい話が好きな二人は扱いやすいでござる。まあ、最初から決まりきった話であったが面倒でござる。
そもそも禁書を写本させるのを促したのはヴィル殿。警備兵衛兵訓練を促したのはサバート殿ではござらんか。
情報の共有。三人での確認。解るでござるが遊びで会議されるのは面倒でござる。言質2つまで引き出してお遊び会議はようやく終了でござる。
お仕事なので仕方ないけど。何も課業後にやらなくても。
残業代って出ますかねえ。出ないよなあ。
えっと。次は各法規の写本。専門学の試験。さらに試験でござるか。
面倒でござるなあ。侯爵様の話し相手って立場もかなり強いと思うのでござるが肩書的に弱いんでござろうか?
公式的にロイ様の話し相手という肩書。かなり強力だと思ったので勧めたのでござるが、、、
彼もかなり領主様を気にして行動しているようだしそこまで心配するほどの事でもないような。
二人共仕事に煮詰まったんでござろうなあ。こんな小者の話までしてお遊び会議がしたいほどに。
真面目であるからなあ。得意な者に任せるのも一つの手法であるとロイ様もおっしゃられておられたのに。
拙者なぞ早々にこちらに来た弟妹に代理業務を押し付けた。いや任命したのでござるが。
毎回責任持てないと書類持って突撃してくるのは叱責ものでござるが。あの程度の責任は貴族として生き残るのなら被れというものでござる。
胃が痛い?知らんでござる。貴族に女も子供も関係ない。役目を全うせよ。
拙者は最後の書類確認して押印すれば終わりでござる。対応如何では絶対押さぬがな。貴族なのだから責任を持てと言うのだ。なに、これも修行の一環。鍛え上げるでゴザルよ。
拙者の現在の肩書でござるか?ロイ様の護衛関係はもちろん海の街の守護でござるなあ。所謂領主代行だとか。




