12.ロイ12才
12才になりました。
うん、家臣も従順になったし。領民の健康状態も良い。
税収も上がってウハウハですわ。
嘘です。税収は上がってますがさほどでもない。むしろ水車技術を売っただけの金で黒字なだけ。
献金と領内必要経費で目減りする一方です。
献金と言ってもの無理のない範囲。男爵位が納める大金貨100枚分を納めるだけ。税収の麦8割は父に売って換金。
帳簿見られても怖くないもんね。領内で作った技術を売った。その金を税収に当てた。ただそれだけ。
男爵位になれば准男爵1名に騎士爵5名。
名誉騎士爵、名誉准騎士爵なら金を払っている実態さえあれば乱発し放題。
名誉付きでも貴族は貴族だもんね。
問題があるとすれば、一度名誉爵位を国に提出して登録すると本人が死ぬか犯罪でも侵さない限り登録は取り消せない。
俸禄は国で定めている金額を領主が支払う。
そうなると追加で領の固定支出が発生。
金が無いと献金どころか納税出来ずに爵位が落ちたりする。
逆を言えば金さえあればなんとかなるのだ。
一個下の准男爵は縁戚関係が無いと認められないし。実績マジ大事。
「ロイ様、街道開拓は順調。米への主食変更も完了。領民誘致として王都や他のスラム街からの誘拐も順調です。」
「サバート君言い方!ただ腹いっぱい食べられるようになるよって勧誘しただけだろ!」
年上サバートの言い方が最近厳しい。ヴィル君もだ。
「付いて来い。飯食いたいだろう。の先がこの領でなければ。固いパンを与える度の疑惑の眼差し。貴族だから逆らえないと不安を背負った瞳。ザザの実を食わせると言った時の絶望した表情。相手する自分達の身にもなってください。あとせめて行く時には精米を持たせてください。パン食キツすぎる。」
お米大好きと化した領内人達は領外へ行く時には米を持って行きたがる。精米は持ち出し厳禁となっている。
領法でそうしている。抜け道も有るけどね。ザザの実を飼料として持ち出し自力でゴリゴリ精米する。
でも見つかってみ?税の対象となればあっという間に巻き上げられ領民はまた飢える。
献金不可で貴族位が遠のく。どっちが良い?
「駄目。税収の要!君達を確実に貴族にするには米技術の秘匿は大切な事!」
「その為にザザをコメと隠語にしているのでしょう?コメを数ヶ月食えない絶望分かります?」
「秘匿は二重三重と必要な方法だよ。気持ちは分かるけどさ。」
「分かっています。ただコメを食えない悲しさをぶつけただけです。」
サバート自身も分かっている。従者達でさえ連携しロイが陞爵するまでは報告禁止と談合した。
一丸となった合法脱税なのだ。
労働人員の補充も飼料なら食わせるぜ。って事で領民を家畜として扱う極悪領主の完成。
来る人間なんて当然食い詰め人だけだ。
神童の弟は狂人。馬鹿と天才紙一重。秘匿すれば当然の評価だ。
しかし規定の税金を納められたら爵位を上げるしか無い。実績だけは順調だ。
子弟実家の人間には水車技術で売った金で献金し様子を見てるという報告しかしていない。
一見順調だ。しかし問題が発生した。領内に冒険者がやってきたのだ。物見遊山で。
村から食料の補給は受けられる。商人用の宿も使える。飼料じゃなく一応パンも売っているからそれを買えば良い。
今迄狩れなかった魔物の剥ぎ取りが出来るかもしれない。そう冒険者とは一攫千金を求めロマンを求める自由人。
しかも後ろ盾が世界に股をかけるギルドって組合があるときたもんだ。
技術流出危機である。
という訳で打ち合わせと相成りました。
「冒険者を受け入れないという手は有りますが噂になります。しかし領民の雰囲気で貧しくないと分かれば」
「脱税方向で査察官が送られてきますね。一時は合法で行けますが後の事を考えればマズイですね。」
サバートもヴィルも唸っている。せやな、さてどうしたもんか。
「領民にしか精米したご飯を出さないというのは当然で、何か手はないですか?ロイ様」
待て待て考え中です。
「もし冒険者が増えてくれば商人も増えます。次々と増えれば領民と判別出来ません。」
そんな予想は既に判ってるわ。ほんとどうしよう。
何か無いかな。思いつかない。皆も必死に考えている。村長達も来ているが不安そうだ。正に大問題。
打つ手がない。もうこの間作った魔道具(笑)を手元で弄るしか出来ない。
出来損ない魔道具。木の板に魔石を砕いた物を塗料として塗りつけ灯りの刻印を刻み自分の血を反応させる。
ただそれだけ。ペカ、ペカ。うん淡く光るだけ。
鑑定の魔道具も有るけど領民とは区別出来ない。せいぜい悪意犯罪判断位しか役に立たない。
ペカ、ペカ。ちょっと当主を睨むなよ。今考えているんだから、、、
「このてでいくか。戸籍台帳」
「戸籍台帳?ですか。」
カリカリと板を削り刻印を追加する。そこにヴィル君の血を一滴垂らしてもらい魔力を注いでもらう。
何ということでしょう。家紋とロイナートの名前が青、ヴィルの名前が赤で光っている。
他の者が魔力を流しても反応しない。ロイの血で青の反応。繋げてヴィルの血で赤の反応。
家紋の偽造は国法で重罪。
「つまり領民全てにカードを作り。それで領民判別を行う。カードの発行はココの仕事だ。」
買い物をする時等にこのカードを光らせてみれば領内の物をほぼ制限なく買える。見せなければ制限がつく。
簡単な話だ。領民同士も疑心暗鬼に陥ることなく。一丸となってよそ者を笑顔で疑われる事なく排他出来るというものだ。
細かい制限の打ち合わせは必要だろう。だが何もしないよりは良い。
「で、ロイ様が作ってくださるんですよね?間に合いますかね?」
ヴィルの一言。うん無理。
「手伝ってよ。一人で1000枚近くなんて出来るわけ無いだろう!」
「ですが出来ても刻印迄ですよ?ロイ様の血じゃなきゃ意味ないんですから。」
せやった。自分の血を1000滴垂らす。プスプスと針を使っての自傷1000回。治癒魔法使っても痛いものは痛い。
領民の為なら喜んでやる?冗談じゃない。自分はマゾじゃない!
「では、協力しますのでその方針で。取り敢えず冒険者と接触の可能性が濃厚な人間から優先して作りましょう。」
サバート君、何勝手に話進めてるの?痛いの嫌なんだけど。
「ですね。村長!規制品項目の詳細を直ぐに詰めましょう。村の者には冒険者に対して要警戒。取引は村長を通す事の周知を!取り敢えずそれで凌ぎましょう。」
ヴィル君成長したね。でもね、痛いのは嫌なんですよ。
ちょっと待って。なんで当主無視して一丸となってんの?いや頼もしいけど。
急ぎなんだから仕方ない?冒険者が狩りから戻る前に終わらせないと?
いやまだ数名だろ?顔なんか分かるじゃん。まだ他の方法も、、、
実行可能なんだし準備にも周知にも時間がかかる?いやそうだけどさ。
痛いのは嫌なんだって。
ちょっと聞いてる?ねえ、痛いのは嫌なんですけど!




