102.降り立ちて
地を覆う雨雲に穴が開き一筋の光が水面に差し込んだ。
光差し込む水面に立つ一柱に舞い降りた使徒様。
そのお姿は正に天より降り立った天使の如くなり。
使徒様に光が集まり辺りは薄暗くなり使徒様のお姿は影にお変わりになられた。
やがて使徒様より一条の光が雨雲に放たれる。
放たれた光により雨雲は分かたれ空に光の道が出来上がった。
これこそが本物の御業。
使徒様は仰った。人の身なれど御業を行使することは可能なのだと。正しくこの空の如く人を導かんと。
「書けたか?」
司教が道士に尋ねる。道士は書きあがったばかりの書簡を司教に渡す。
「うむ、まあまあの出来だな。もうちょっと添削してそれっぽくしておこう。雨雲も良いが雷雨の方が迫力が出ないか?」
おお!周りの修道士や修道女が集まってきて色々意見を言い始める。
「見たか?領主様が天を割って見せてくださったぞ。穴を開けただけでもすごいと思ったが。まさか天を割るとは、、、」
黒光りマッチョの集団がざわめいている。身振り手振りで大騒ぎだ。
「危なかった。フェイから連絡を貰っていなければ見逃すところだったな。」
ヴィルがサバートへ振り返りながら言う。
「まさかでしたね。大魔法の復活。再現。天を割る。天に穴を開けた時の爆風も凄まじかったのですが、この光景は、、、」
サバートはロイのいる方向を向くと膝を折り、祈りの姿勢をとる。
それに付き従う様に沈黙の野次馬領民。木の陰に隠れながらも膝を折って祈りの姿勢。
「えっと。大魔法?古代に失われた魔法だっけ?」
メグミがミネーヴァ達の方に振り返ると全員の顔が若干引き攣っている。
「クソやべえ。マジやべえ。私の恋人ぱない。天空割った。」
「本物の大魔法初めて見た。」
「魔法修練の極み。」
「使徒様の御業。」
「尊い。」
ハッとしたように四人が祈りの姿勢をとった。
実験からの帰り道。
海の領主館へ向かって馬を進める。ぽっくり、ぽっくりと。
うん。いつも通りの町の賑わい。
、、、じゃねえ。なんだ?領民達が一様に祈りの姿勢をとり、領主館への道が出来ている。
「あ、ああ、なんだこれ。こら!平民共!祈るんじゃねえ!跪け!敬え!そんな暇があったら働け!」
「まあまあ、ロイ様。たまには良いではござらんか。ここは寛大な御心を見せるのも貴族の在り方かと。」
フェイに宥められながら領主館へ向かう。
ロイよ。なんでそんなに祈られるのが嫌なんだ?
おっさん。わかるだろ?俺は神じゃない。この地に現存する一人の人間なんだ。貴族様なんだよ。おっさんの世界じゃ祈られるのは神や天に昇った死人なんだろ?
そんな事はないぞ。宗教のトップやらそれに取り次ぐ者なんかも祈られる。
うわ、気持ち悪。死人扱いされて平気だなんて神経がどうかしてるわ。
いや、だからな。神様により近い者を敬うって事でな。
そんなの礼儀の話だろう。なんで敬うが祈るになるんだよ。それとも何。サイコメトリーだっけ?テレパシー?で祈りを読み取って神に伝えて叶えらるとでもいうの?
お前本当に不信心だな。一応伝えられる。伝えるのを手伝っている補助しているとされている者達だ。祈られるのも仕方がないだろう。
最後の神頼み。努力の末に最後の運の部分を助けてくれるだっけ?運なあ。分かるっちゃ分かるけどさ。俺は祈られても運上げられないぞ。
ロイの場合は違う気がするが。ちなみにお前のいう崇め奉れって言葉は祈れって意味もあるからな。
ひでえ、揚げ足とられた。もうどうでも良いや。それより大魔法。あれ成功かな。
現実逃避か。まあ付き合うが。
文献通りに天は割ったな。制御方法。威力。纏めるべき事は検証を進めねばならない。やはり周囲、魔力保有量、エネルギー変換。この辺りの検証を多く行いたいところだな。
魔力操作練度。干渉範囲。そして変換。この辺りが重点的に実験したいところだね。魔力密度も気になる。魔石あるじゃん?あれって圧縮結晶化したものって予測は立てているけど。ゴブリン魔石程度じゃいまいちよくわからないんだよね。
魔力を抜いたゴブリン魔石に魔力込めるとすぐ弾けるもんな。一応極小の保有力しか無いという予測はたてられているが。ロイの極小魔力操作が極小でない可能性もあるしな。
魔力で撫でる、軽くつつく。近づける。全て弾けた。何なのゴブリン。謎生命体。
だからオークの魔石も試してみようって言ってるじゃないか。
なんか逃げた気がするからヤダ。基礎大事。
検証方法すべて駄目だと己の未熟さをだな。
残念おっさん。実は今回の実験で別の可能性を見つけた。
太陽光の話なら諦めろ。どうせ微弱な魔力波を浴びせ続けるとかだろう?魔力波飛ばす前に弾けたのを忘れたのか?
、、、そういやそんな事すでにしてたわ。
というわけでもっと強力な魔物の魔石で試そうぜ。どうせ魔石の魔力が空になったらただのクズ石なんだからな。肥料になってるらしいが。ゴブリン魔石が気になるならもっと練度が低くて保有量が少ない奴にやらせれば良いじゃねえか。実験方法だけ記しておけば領民が勝手にやるだろう。
それでも良いか。やりたい事、試したい事いっぱいあり過ぎて時間なくなるのもなんだしね。問題はダンジョン規制だよなあ。
ああ、この世界は楽しそうな事。興味深い事が多い。異世界の代名詞であるダンジョンが目の前に有るのに深くまで潜ってはいけないとか嫌がらせにも程がある。
あいつらの言い分も分かるけどさあ。この領で一番偉い俺の言葉を聞かないって酷くない?もう黙って入っちゃおうかな。
そうするか。仕事仕事じゃなあ。何の為の転生かわからん。つまらん。
せっかく異世界のなんでどうしてを試せる世界に来れたというのに。異世界ブラックお断り。
せやなあ。黙ってダンジョン行くかあ。貴族面倒くさい。




