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終わりの直後

 むかしむかしある所に、金の卵を産むめんどりがいました。

 めんどりは「お腹の中にたくさん金の卵が詰まっている」と考えた飼い主によって、腹を裂かれて死んでしまいました。お腹の中は肉と内臓が詰まっているばかりで、何も入っていません。飼い主はめんどりを失い、二度と金の卵を手に入れる事も出来なくなりました。

 けれど、強欲な飼い主は諦めませんでした。きっと他にも「金の卵を産むめんどりがいるはずだ」と、彼は死んだめんどりの姿を頼りに探し始めたのです。

 男は市場を見て回り、それだけでなく森や草原まで探し回りました。腹を裂いて死んでしまった、鳥の姿を頼りに集めました。時には知人のめんどりを、高い金を出して買いました。一つの檻の中に、めんどりたちは押し込められました。

 けれど何も知らないめんどりたちは、暢気に鳴いています。ある日男は、檻の中から一匹を捕まえて、めんどりたちの目の前で、おもむろに腹を引き裂きました。

 めんどりたちは一斉に悲鳴を上げました。男が何をするかを理解してしまい、怖くて怖くて泣いています。男は全く無視して、ぷちぷちとお腹の中に手を突っ込みました。


「チッ……ハズレか」


 欲深い男は、命一つ奪っても毒吐くばかり。罪の意識も持たず、金の卵のない死体に唾を吐きます。そしてまた、たくさんのめんどりのいる檻に手を伸ばし、一匹の首根っこを掴みます。

 がぁがぁ、がぁがぁ。

怖くて怖くて、捕まっためんどりは泣きましたが、欲に取り付かれた男は、何も慈悲をかけません。引き裂こうとする腹へ、金が詰まっているのではないかと、ギラギラとした目で見つめています。怖すぎて気を失ってしまい、そのまま男に腹を裂かれて死んでしまいました。

 その恐ろしい光景が、檻の中のめんどりたちの目の前で、何度も何度も行われました。


 檻の中に手を伸ばし

 怖がるめんどりたちを捕まえて

 台に倒して腹を引き裂き

 金の卵のないめんどりに唾を吐く。


 積み上がるのは屍の山。無意味に死んで、無価値と捨てられる鳥の死骸。

 仲間たちの無残な死に、とうとうめんどりは耐える事が出来なくなりました。めんどりはもう数が少なくなっていましたが、このまま全滅したくありません。町で売られていためんどりも、野生で生きていためんどりも、みんなで協力して、一斉に男の手をつついたのです。

 男が悲鳴を上げ、隙をついてめんどりたちは逃げ出しました。少しでも遠く離れて、この恐ろしい所から逃げ出さなければ、腹を裂かれて死んでしまいます。そして人間の事を話して、仲間たちに逃げるよう伝えなければ……


 一方男は、怪我の手当をしながら考えました。

 めんどりたちが逃げたのは、あの中に「金の卵を産むめんどりがいるから」と男は思いました。意地悪な運命が、自分から金の卵を産むめんどりを遠ざけたのだ。そうだ、そうに違いない。きっとそうだ。黄金を産むめんどりが一匹いたのだ。一匹だけのはずがない。きっとどこかにいるはずだ。

 すっかり欲望に取り付かれた男に、それ以外の事は考えません。そして逃げられた悔しさから、男はめんどり達にとって、恐ろしい存在になったのです。


 男は銃を片手に、めんどりたちを探し始めました。彼はめんどりを見つけては、すぐに銃をぶっぱなします。そして死んだめんどりの腹を裂き、金の卵がないか探すのです。

 めんどりは震えあがりました。せっかく逃げ出したのに、強欲な男はどこまでも追って来ます。撃ち殺されないようにするには、人間おにに見つからないよう、かくれんぼするしかありません。何十匹も男に撃ち殺されながらも、ついに男から隠れ切ることが出来ました。

 すると男は、めんどりに拘ることを止めました。金の卵を産むのなら何でもいい。目についた鳥を、片っ端から撃ち殺し始めたのです。


 優雅に飛ぶ燕も

 身近に鳴くスズメも

 餌を食べに来る鳩も

 黒い羽を羽ばたかせるカラスも


 仲間を殺された鳥たちは、とてもとても怖がりました。あの男に見つかってはいけない。あの町に近づいてはいけない。やがて皆男から隠れるようになり、そして最後は飛び去って行きました。

 流石にそこまですれば、町の人たちも黙ってはいられません。生き物を殺して回る男の小屋へ、町の人たちが押しかけました。

 彼らが見たのは、血と内臓の海でした。

 男はもう、鳥の腹だけでなく、色んな動物の腹を引き裂いていたのです。牛も、ヤギも、豚も、羊も、目につく動物であれば、どんな生き物でも腹を開いていました。

 誰も男に話しかける事が出来ません。でも男は一人内臓を手に突っ込んで、ぶつくさと言いながら虚ろな目で探しています。


「あのめんどりは、金の卵を産んでいたんだ。絶対……絶対あの一匹だけじゃないはずだ。腹の中に、金の詰まった動物はいる筈なんだ……」


 血まみれの男が、ぎょろりと町の人を見ました。でも男は目を合わせていません。ちょうどお腹のところを、じっと見つめているのです。

 そして数日後……男の所へ行った町の人はいなくなりました。証拠は何もありませんでしたが、町の人は……金の卵を産むめんどりを失い、それでもなお探し続けるあの男の仕業だと、確信していました。

 みんな怖くなり、男から隠れるようになりました。すっかり町は静かになり、時々徘徊する血まみれの男が、生き物を見つけては家に引きずり、腹を裂いていきます。

 時に男に見つかり、時に引っ越して、徐々に町から人が消えていきました。


 そして町からは、人は一人もいなくなりました。恐ろしい所なので、もう誰も近づきません。人間だけじゃなく、鳥も、獣も、生きとし生けるものは、その町から距離を取るようになりました。

 ただ……その町を徘徊する、背を丸めた血まみれの何かの姿は目につきます。

「金はどこだ」と呟きながら、生き物の腹を裂く、餓鬼の姿が。


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