「お前のダメボ(ダメージボイス)の音量がでかすぎてみんな気絶してんだよ!」と追放されかけたけど、大声出して誤魔化したら何とかなりました! 大声って最高! ~これからもこのパーティで頑張っていきます!~
「↑」
とパーティリーダーのサジュが言うので、言われたとおりにヲルトは上を見た。
するとその先の天井には、真っ赤なペンキでこんな文字が書いてある。
『お前のダメボ(ダメージボイス)の音量がでかすぎてみんな気絶してんだよ!』
なぜ購入したばかりのパーティ宿舎にこんなことを……。
呆れる気持ちで、ヲルトは訊ねた。
「どうしたんだ、急に」
「どうしたもこうしたもあるか! あのとおりだ!!」
サジュは勢いよくテーブルを叩いて立ち上がって、
「お前のダメボ(ダメージボイス)の音量がでかすぎてみんな気絶してんだよ!!」
急に狂ったのかな、とヲルトは思った。
サジュはその発言と動作によほどの気合を込めていたらしい。体力気力に満ち足りた若者にしては珍しく、ハアハアと肩で息をしている。
「まあ待て、落ち着け」
ヲルトは努めて落ち着いた調子で言った。
「座れ。そんなにいきり立っていたら話もできないだろう」
「……ああ。そうだな」
するとサジュも、流石Aランクの冒険者パーティを纏めてきただけはある。すぐに冷静な、いつもの調子に戻って、もう一度席に座った。
ヲルトは訊く。
「ダメージボイスというのは、何のことだ?」
「……人間、普通は痛かったら声が出るものだろ?」
「よほど我慢強くない限りはな」
「お前はそれが並外れてでかい。そしてそのでかさのあまり、仲間が気絶してる……そういうことを、俺は言ってんだ」
ヲルトは恐怖を感じた。
何を言っているんだこいつは……。
「そんなことがあるわけないだろう。人間の声がそんなにでかいはずがない。ましてや、鍛え上げられた冒険者たちが気を失うなんてことは……」
「ああ。俺もそう思いたかったよ……。クソッ!」
自棄になったように、サジュは片手で顔を覆った。
何を言っているのかはさっぱりきっぱりまったくもってヲルトにはわからないが、どうやら何か思い詰めているらしい。
Aランクのリーダーともなれば、心労も一際のものだろう。そう思って、ヲルトは優しく彼の肩を叩いた。
「疲れているんだよ、お前は……」
「お前のせいで疲れてるんだよ」
「まあそう言うな。薬草茶でも淹れよう。ストレスに効く」
我ながら完璧なメンタルサポートだ、と惚れ惚れしながら、ヲルトは給湯室へと入っていく。
ちょうど先ほど自分の分のコーヒーを淹れようと思って、ポットに湯を沸かしていたのだ。突然狂った人間が難癖をつけてきたときには何事かと思ったが、しかしタイミングはよかった。
茶筒を開けて、急須に茶葉を入れる。
ポットの下に置いて、スイッチをぐい、と押す。
とぽぽ。
ばしゃ。
「うわぁっちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「それそれそれそれぇえええええええ!!!」
ものすごい速度でサジュが給湯室まで走ってきた。
一体何事だ、と思いつつ熱湯のかかってしまった指先を流水で冷やしながら、ヲルトは彼に訊ねる。
「どうしたんだ急に。人を両手で指差すな」
「いや、今のだよ!!」
「何がだ」
「ダメボ(ダメージボイス)だよ!!」
「はあ?」
ヲルトは怪訝な顔で、
「私は何もやっていないが……」
「いやどういう言い逃れだよ! 聞こえねーわけねーだろ自分であんな馬鹿みたいな大声出して!」
「私は何もやっていないが!!!!!!!」
「大声で押し切ろうとするな!! 気付いているだろそれ!!!」
いいや、と頑なにヲルトは首を横に振った。
「私は何もやっていない」
「お前口にしたことがいつかすべて真実になるなんて政治家みたいなこと思うなよ」
「よしんば私が大声を出していたとしても、お前の言うことは間違っているだろう」
論理的に、ヲルトは言った。
「なぜならば、それを聞いたお前が気絶していないからだ。
フローチャートで言うとこうなる。
┌───────────┐ NO ┌────┐
│実際に大声を出してる?│――→ │やったね│
└───────────┘ └────┘
Y│
E│
S↓
┌──────────┐
│ 気絶は嘘 │
└──────────┘
どちらにせよ私に非はない。
Q.E.D.証明終了」
「黙れ!!! どうやって発音してんだフローチャートの部分!! あらかじめこんなこともあろうかと耳栓して来たんだよ!!」
きゅっぽん、とサジュは実際に己の耳から耳栓を取り出してみせた。
妄想が行動に現れ始めたらいよいよだな、とヲルトは思っていた。
「おい、黙って聞いていれば随分なことを言ってくれるじゃないか」
「全然黙ってねえだろ!!」
「言いがかりもそこまでくれば大したものだ。そこまで言うなら、実際に迷宮に行ってお前の言うことが本当かどうか確かめてやろうじゃないか」
「ああ、望むところだぜ!」
頷き合って、二人は競い合うように走り出した。
+++++
「さて、というわけで金髪碧眼長身美形の私ことヲルト(元騎士)と黒髪ギザ歯三白眼のサジュ(成り上がり系戦士)の二人(遠巻きにされているためにそうとは気付いていないが、どちらも実は冒険者ギルドの中でかなり人気がある。二人が肩を並べて会話している様子を眺めては溜息を吐いたり、何やらノートに色々と書き込んでいる乙女も結構いるトカ……)は近隣のダンジョンにやってきたわけだが」
「ど、どうしたお前。急に中高生がやる二次創作にありがちな設定を図々しく自称し始めて……。急に狂ったのか?」
「狂っているのはお前だ」
ちらり、とヲルトはその先に広がる空間に目をやった。
「このダンジョンに来るのは初めてだな」
「ああ。なんでもこの間俺たちと同じA級パーティが挑んで敗退。そのあとショックで全員冒険者を廃業して、代わりにもつ鍋屋を開業。それぞれの店の立地があまりにも近すぎて互いにギスギスしてるらしい。へへ……腕が鳴るぜ」
なんでただのテストでそんな危険な場所を選んだんだ、とヲルトは思ったが、あえて口に出しはしなかった。どうせ馬鹿だからそこまで頭が回らなかったのだろうな、と予想が付いたためである。
「よし、行くぞ!」
「ああ、行くぜ!」
てくてくてくてく。
「む、敵だっ!」
「よし、迎え撃つぜ!」
じゃきじゃきじゃきーん。
「よし、勝ったな!」
「ああ、進むぜ!」
てくてくてくてく。
「よし、着いたな!」
「ああ、攻略完了だぜ! ってバカ!!!!」
ぎょっとしてヲルトはサジュを見た。
「どうした急に」
「なんで攻略完了しちゃってんだよ無傷で!! テストに来た意味がねえだろ!!」
「思ったんだが、お前の方がだいぶ声がでかいんじゃないか?」
「お前のは一発がでけえんだよ!! そしてそのでけえ一発をここで出さずにどうすんだ!」
そんなことを言われても、とヲルトは戸惑いながら、
「冒険者が無傷でダンジョンを攻略できるのはいいことだろう。頭がおかしいのか?」
「………………」
「というか、たとえ私のダメボ(ダメージボイス)がでかかったとしても、そもそもダメージを負わないのなら何の問題もないのでは」
「………………いや待て!」
サジュは悪足搔きを始めた。
「このレベルのところで傷を負わないんだったら、今までやってたのはなんだったんだ! 俺たちへの意図的な攻撃か!」
「いや、それは単純にメンバーの盾になって攻撃を受けていたからだ。今回は回避能力の高いお前と二人だったから……」
「ほれ見ろ!」
鬼の首を獲ったようにサジュは叫ぶ。
「そりゃ二人のときは無傷だから構わねーかもしれねえが、全員揃ったときに傷を負ってダメボ(ダメージボイス)が出るならやっぱりてめーはどうしようもねーだろ!」
テストは失敗だったが、と彼はここまでわざわざやってきた意味を根本的に消し去るような前置きをして、
「てめーみたいな野郎は「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうちおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおのパおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーティおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおに置おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいておおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおけおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおねえ!追おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお放おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおだおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおァおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うるせーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!! 大声でなかったことにしようとするんじゃねーーーーーーーーー!!!!!」
ぎょっとした顔でヲルトはサジュを見て、
「どうした急に大声で……発作か?」
「こっちの台詞だわ!! なんなんだてめーのそのキョトン顔は! 大声出してる間の記憶全部170歳のジジイの未練みたいに綺麗さっぱり消えてんのか!」
「そうだが」
「自覚があるなら消えてねーだろ!!!!!」
そんな話はともかくとして、とヲルトはカミソリじみた切れ味で話題転換をして、
「別の人間と来たときにダメージを負うなら意味がないとお前は言ったが……その心配は一切ない」
「はあ? なんだそりゃ。今度から他の奴らを盾にするから平気ですってか? 正気かお前」
「いや、私とお前以外のパーティメンバーは全員退職した」
「正気かお前!!!?」
「証拠にこうして退職届をすべて貰ってきている」
ほら、と小さなナイフなら容易く受け止められそうなほどの厚みの紙束を、ヲルトは懐から取り出した。
それをバッと奪い取って、バラバラバラ、とサジュは素早く目を通す。
「ぜ、全部にサインと印鑑が押してある……。マジじゃねえか……」
「シャチハタでよかったか?」
それから、キッとヲルトを睨みつけて、
「てめーのせいだろコレ! あんだけ馬鹿みたいに気絶してたらそりゃ退職もするわ!!」
「言いがかりもそこまでくれば大したものだ」
「正当な抗議だろーが!」
チッチッチッ、とヲルトは舌を打ちながらサジュの目の前で人差し指を立てて揺らした。
ブチギレた顔のサジュがそれを圧し折ろうとしてきたので、すかさず後ろ手に隠した。
「全然そんな理由じゃない。私は奴らが退職届を出す場面を見ていたからな」
説明してやろう、とヲルトは言う。
「まず今朝方に、ノノが事務方に退職届を提出した」
「……ああ。まあ、それは仕方ねえ。あいつ、結婚して遠くの街に引っ越すって言ってたからな。事前に聞いてる」
「それにショックを受けて私以外の全員が泣きながら退職届を書き始めた」
「正気かお前!!!?!!?!??!?」
思わず飛びのいて、サジュは言った。
「お前が狂って見た幻覚じゃなくてか!?」
「私が狂って見た幻覚じゃなくてだ。全員『ノノがいなくなるなら冒険とかやってる意味ないし』と言っていた」
「ありえねーだろ! どんだけショック受けてんだ!! 脆弱なオタサーじゃねえんだぞ!!」
「そう言うと思ってな」
もう一枚、ヲルトは懐から紙を取り出して、
「ギルドに寄って、パーティ名を『脆弱なオタサー跡地』に変えてきた」
「余計なことばっかテキパキやってんじゃねえ!!! バカ!!! ブチ転がすぞ!!!」
サジュはそれを奪い取ると、ビリビリ破ってダンジョン内に不法投棄した。
はあはあ、と肩で息をする。
「冒険者なんざ……みんなカスだ」
「サンプルに偏りがある気がするが」
「じゃあ俺に寄ってくる冒険者は全員カスだ!!!」
まあそれはそうかもしれんな、とヲルトは頷いた。
それから、ものすごく馴れ馴れしくサジュと肩を組んだ。
「まあ諦めろ。諦めて二人で仲良くやっていこうじゃないか」
「誰がやるかバカ!!」
その手をサジュは乱暴に振り払って、
「これからパーティを立て直さなくちゃならねえのに……どうすんだ、お前みたいな奴抱えたまんまで! 『ダメボ(ダメージボイス)がでかすぎて人を気絶させることもある先輩があなたに付きっ切りで優しく指導!』とか求人チラシに書く気か!?」
「事実に反したことを書くと行政指導が入るぞ」
「事実に即した物言いだろうが!!」
「いや、少なくとも『優しく指導』の部分が」
「そこはてめーの匙加減一つだろうが!!!!」
わはははは、とヲルトは笑った。
「サジュだけにか」
「死んでくれ」
寒いギャグで場が凍り付いたところで、はぁああ、とサジュは深く溜息を吐いた。
「もういいや……。帰って崖から飛び降りて死のうかな」
「そうだな。私もギルドの真ん中でおもむろに大爆発して周囲に秒間3.8×10^26J ほどの熱量を撒き散らしながら死ぬかな」
「テロリストかつ太陽そのものかお前は」
てくてくてくてく。
その途中で。
「お、ドラゴンだ」
ヲルトが気付いた。
「んー?」
けだるげに、サジュもそちらに顔を向けた。
「グルルルル……ニンゲン、ホロボス……」
「ドラゴンだ」
「そうだろう」
「珍しいな」
「ああ。この間隣の国が急に滅ぼされたときに見て以来だな」
へえー、とサジュはぼんやりそのドラゴンを見つめて。
急に、正気に戻った。
「ドラゴンじゃねーか!!!!!!!!!」
「だからそう言っているだろう」
「何落ち着いてんだバカ!! 街全部滅びんぞ!!」
「どうせ私がギルドの真ん中でおもむろに大爆発して周囲に秒間3.8×10^26J ほどの熱量を撒き散らしながら死ねば滅びる」
「それはてめーの匙加減一つだろうが!!!! ――クソッ! もつ鍋屋が急に増えた本当の理由はこいつか!!」
走るぞ!とサジュは言い、自分もまた走っていった。
ヲルトは命令されるとやる気をなくすタイプで、実を言うと騎士から冒険者にキャリアダウンした理由も『「やる気がないなら帰れ!」と騎士隊長が叫んだのに「やる気がないから帰るか」と思ったものの、言われた通りのことをするのも癪なのであえて職場最寄りの駅から自宅とは逆方向に向かう電車に乗り、その終着駅のコンビニで発泡酒を調達したあと海を見ながらぐびぐびやってぐでんぐでんになっていたらいつの間にか三ヶ月が経っていた』からであり、またそうした筋金入りの性格はたとえ命の危機であってもすぐさま変わるものではないので、あえてその場でゆっくり三回まわってオットセイの物真似を練習することにした。
途中で引き返してきたサジュが「何してんだバカ」とその胸倉を掴んでダンジョンの出口まで引っ張っていった。
「ハア……ハア……畜生! 追ってきてやがる!」
「羨ましいな。ドラゴンには追い求めるものがあって。それに比べて私たちと来たら……」
「やかましいわボケ!! 人生について真剣に考えるのは深夜三時の部屋の中だけにしろ!!」
急げ急げ、とサジュが走り。
急ぎたくないなあ、どうせ人間なんていつか死ぬんだからどうだっていいだろうと考えながらヲルトがその背中を追いかける。
「なあ、考えたんだが」
「何だよ!?」
「村のことを思うなら、俺たちは村から離れるように山の中とかに入った方がよかったんじゃないか」
「んなことできるわけねーだろ! ダンジョンから村までの間の道路は完全に舗装されて左右を高さ333mの壁が囲ってんだからよ!!」
馬鹿の作った国だな、とヲルトは思った。
二人はキリン(50km/h)のごとき素早さで野を駆け、やがて村の入口に辿り着いた。
そこに立っている衛兵に向かって、サジュが必死で叫ぶ。
「おい!! ドラゴンが来てる!! 早く村人を退去させろ!!」
「ここは、ロクデナシの村だよ」
「ダメだ!! こいつ人格が存在してねえ!!」
狂った世界だな、と思いながらヲルトはそれを見ていた。
ついでにポケットを探ったらロング缶が入っていたので、プシュッと開けてぐいっといった。
「ヲルト!! このままじゃ――何飲んでんだお前!!」
「酒だが」
「何を飲んでるか訊いてんじゃなくてなんで飲んでるかを訊いてるんだよ!!」
「手と口でだが」
「何を使って飲んでるかじゃなくて、どういう理由で飲んでるかを訊いてんだよ!!」
言葉とは難しいものだ、とヲルトは思い、この世界のいたるところで日々繰り広げられるディスコミュニケーションについて思いを馳せた。
ちなみにどうして飲んでいるのかといえば、いずれ人間は死ぬからである。また、世界は醜く、正気でいては耐えられないからでもある……。
「そういえばお前、宿舎前のコンビニに新しく入ったマーボーカツ丼はもう食べたか? 1+1が1.6になったようなすごく反応に困る味だからぜひ食べた方がいい」
「微妙なものを勧めてくるんじゃねえ――いや違え!! そういう問題じゃねえよ!! バカ!!! どうすりゃいいんだ!!」
残念ながら状況は逼迫し、サジュの脆弱な思考回路では処理し切れなくなってしまったらしい。
仕方ない、とヲルトはそれを飲み干して、
「私に考えがある。任せておけ」
「二缶目を平然と開けながら言うな」
ヲルトはその言葉を無視して、村の中へと入っていく。自警団が制止するのもものともせず、村の物見台へ強引に上がっていった。
物見台は高さ634mであり、村の景色が一望できる。
ちなみに振り返ると、ドラゴンがトコトコこちらに歩いてきていた。
「お前、まさか……」
察したらしいサジュが、怯えたような声を出す。
「ああ、そのまさかだ。……私はお前の言うことなど初対面の頃から一度も信じたことはないし、通帳に毎月振り込まれている給料もいずれ『手違いだった』と回収されると思っているから、貰ったその日に使い果たしてはいるが……」
「カスみてえな生活を俺のせいにするんじゃねえ」
「お前が私の声をそれだけでかいでかいと言うなら、それを信じてみようじゃないか。
――――おーい!!! 今日も大して生産性のないくだらない日々を過ごしている、いてもいなくてもこの世界に何の影響も及ぼさない役立たずども!!!!! 取り柄のない者同士で群れて傷舐め合って生きてる意味があるなんて錯覚しようとして、恥ずかしくないのか!?!!?」
「こいつの隣にいるのが人生最大の汚点」
するとヲルトの罵声に反応して、たまたまサッカーをするために全員が全員外に出てきていた村人たちが皆、その物見台を振り向き仰いだ。
だからヲルトは、深く息を吸って、叫ぶのである。
「ドラゴンが来るぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
逃げろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「全員気絶した……」
「だろうよ!!!!!!」
サジュが頭を抱えて言った。
「一発目の音量でよかっただろ!! なんでそこから先でさらにバカみたいな音量にしたんだよ!! バカ!!!!」
「面白いかと思って……」
「せめてよかれと思って言え!! ボケ!!!」
クソッタレが!と叫びながらサジュは剣を抜いた。
「こうなったら、俺たちでやるしかねえ!!」
「ああ。ドラゴンが村人を食い散らかしている間に、私たちも自分の足で隣の国まで逃げるしかない」
「紛うことなきクズかてめーは!! 俺たちでドラゴンをぶっ倒すって言ってんだよ!!」
「酔っているのか?」
「てめーだろそれは!!」
えっほ、えっほ、と二人は634mの物見台から降りていく。
すると、そこにはドラゴンが待っていた。
「へへ……震えてきやがった」
「アルコールを摂りすぎるからそうなる」
「だからてめーだろそれは!! ――チッ、癪だがお前の力だけは認めざるを得ねえ。背中は任せたぞ!!」
「ああ、任せておけ」
うおおおおおお、とサジュがドラゴンに突っ込んでいく。
ヲルトは「背中を任せる」というのが具体的にどういうアクションを期待しているかよくわからなかったので、あいつ背中綺麗だな、ニキビとかできたことなさそう、と思いながら、ズタボロにされていくサジュをぼんやり三缶目を開けつつ眺めていた。
やがて、ずんずんずん、とサジュが戻ってくる。
そして、バッとその三缶目を奪い取り、ぐびぐびと飲み干して、
「――――何眺めてんだ、バカ!!!!!」
「お前すごいな。ドラゴンと一対一でやって生き残ってる人間なんてそういないぞ」
「えっ、そうかな……?」
「ああ。すごいと思う。だから頑張れ」
「へっ、そう言われちゃあな……!!」
うおおおおおお、とサジュがドラゴンに突っ込んでいく。
すごい馬鹿だなあいつ、と思いながらヲルトはおもむろに四缶目を取り出し、プシュッとやってグビッとやって、五缶目、六缶目、七缶目……
ゆっくりと、立ち上がった。
「サジュ。よく時間を稼いでくれたな」
「な――」
サジュは驚きながらも、しかしすぐにヲルトの思惑を察した気になって、
「へっ、俺を囮に使って大技の仕込みをしてたってわけかよ――。この貸し、高くつくぜ!」
「いや。酒量が嵩んで全体的に曖昧になってきたから、別にドラゴンと戦ってもいいかなどうせ人間なんてみんな死ぬんだし、という気分になっただけだ」
「ぶっ飛ばすぞマジで」
「まあ任せておけ」
下がっていろ、とヲルトは言った。
言われた通り、サジュは下がった。
「おい、大丈夫か」
「何がだ」
「千鳥足になってんぞ」
ふん、とそれを鼻で笑って、
「東洋の言葉にこんなものがある――曰く『酔えば酔うほど、ひどくなる』」
「アル中の一生を表した名言か?」
「行くぞドラゴン!! 大学院卒の力を見せてやる!!」
「世も末」
うおおおおおお、と槍を片手にヲルトは勇敢に突っ込んでいった。
「くっ、足がもつれて平地で盛大にコケた!!」
「だろうよ」
そしてその隙をドラゴンは見逃さなかった!
「くっ、無防備なところをすかさずドラゴンに食いつかれた!!」
「そうだろうよ」
「うぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「なんで一拍置いてからダメボ(ダメージボイス)が出てんだよ!!!!!!! しかも二回分合わせて!!!!!! その場で出せ!!! 痛みのその瞬間に!!!!!」
「わざとやってんだろ!」と叫んでサジュは律儀にも、ヲルトの援護に入ろうとした。
しかし、すぐにそれが無意味であることに気付いてしまう――。
「お、お前、まさか……」
そう、目の前にいる光景を理解してしまえば。
「し、死んでる……! 残念ながらドラゴンの方が……!」
「ああ。私のダメボ(ダメージボイス)がでかすぎてな……」
さらさらと――。
死んだドラゴンは、灰になり、風に巻かれ、遠くの空へと消えていく。
それがやがてどこかで、花を咲かすことだろう……。
そのことを思いながら、二人はその風の行く末を、静かに見守っていた――――。
+++++
「えー、このたびは御パーティ『脆弱なオタサー跡地』のSランク認定記念インタビューということで、長い時間を割いていただきまして、ありがとうございました」
小太りの記者が、額の汗を拭う。
「……や、別に」
「お気になさらず。これもいい思い出になります」
その向かい側のソファには、いつも通りの恰好のサジュと、露骨に成金みたいな恰好をしたヲルトの二人が並んで腰かけている。
「最後になりますが……お二人にとって、お互いはどんな関係でしょうか」
少しの沈黙があって、
「あ、私から?」
「ええ、お願いします」
そうですねえ、とヲルトはもったいぶってから、
「頼りになるリーダー、無職だった私を拾った物好き、卓越した戦士……色々ありますが一言で表すとするなら……」
「一言で表すとするなら?」
「駒、ですかね。便利な……」
「ぶち殺すぞ」
ははは、と記者は鷹揚に笑って、
「大変仲がよろしいようで……。では、サジュさんはどうでしょう?」
「……あー。答えなくちゃ、ダメすか。……ダメすよね」
ぜひ、と促されて、
「まあ……なんだかんだありましたけど、最後まで残ってくれたのもこいつだけですし。性格が終わってることを除けば、まあ、なんつーか、それなりに……」
ふ、と隣でヲルトが噴き出せば。
何笑ってんだよ、とサジュも照れ笑いをして。
「頼りになる、仲間ってやつです。これからも頼むぜ、相棒」
そう言って、サジュは。
とん、とヲルトの肩を、叩いた。
「うぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うるせえええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
完