競ドラゴンと盲導ドラゴン
青いドラゴンが空中散歩をしていると、飼い主に連れられた赤いドラゴンの憂鬱そうな表情が目に留まった。身体をひねって旋回し、青いドラゴンは地上へ舞い降りた。
「やあ、随分と暗い顔をしているね。一体どうしたんだい」
「ご覧の通り、わたしは彼を導いているのさ」
赤いドラゴンは飼い主の男性を翼で指した。まだ若そうな青年は黒い眼鏡をかけ、杖をついている。
「何か嫌なことでもあったのかい」
青いドラゴンが尋ねると、
「彼が映画を観たいと言うものだから、シネコンに行ったのさ。しかし施設のオーナーが、ドラゴンは大きいから入れられないというのだ」
赤いドラゴンはしかめっ面で鼻から炎を吹いた。
「それでは彼が歩くときに先導する者がいないじゃないか」
「それが現実なのさ」
ふいに地響きがして、黄色いドラゴンが猛スピードで駆けてきた。
「おいらの話も聞いてくれ」
たくましい後ろ足をぶら下げた黄色のドラゴンの目には光るものがある。
「落ち着いて話してくれたまえ。頼むから泣くんじゃないよ」
辺りが浸水してしまわないよう、青いドラゴンはなだめた。
そして冷静になった黄色のドラゴンは語り始めた。
「今日おいらは職を失った。酷いんだ。もうレースは開催しないって言うのさ。馬鹿げてるだろう。産まれてからずっと競ドラの選手一筋だったのに。生きる理由がなくなっちまった」
「どうしてそんなことに?」
「競ドラは厳しい接触がある。鱗が衝突で取れたり、角が折れたりする。それが動物愛護法違反に抵触するから、全員解雇だとさ。おいらはレースが好きだし怪我も覚悟でやっている。それなのに人間たちは一方的な考えを押しつけて、まるでおいらたちのことを想っているつもりでな。ほとほと呆れるよ」
黄色のドラゴンは尻尾で涙を拭う。
「昔からそうだ。人間は共感できないんじゃない。理解をしようとしないんだ。弱い立場のことなんてお構い無し。その代わり自分が窮地に立たされたときだけ吠えるんだ。闘牛だって似たようなものなのに、愛護家だけど牛は特別なんて宣う不届きものもいるし」
三色のドラゴンたちはため息をついた。
赤いドラゴンは通行人の邪魔にならぬよう翼を縮めて歩行し、黄色いドラゴンはハローワークへ向かった。
青いドラゴンの趣味は不平不満に耳を傾けることだ。そしてあらゆる問題が何百年、何千年と変わらない世界に嘆きつつ今日もまた安心するのであった。




