哀れな英雄に死を 2
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「お前が、我々を地獄へと導く悪魔だ…、こんな奴、人間などではない!人間の姿をした恐ろしい化け物目が…。これ以上、仲間を無意味に死なせてたまるか!これ以上…、罪のない人々を殺させてたまるか!」
「ぐっ…!き、貴様…今何と言った?私が、悪魔だと…?」
裏切り行為を咎めるもなく、今自分を地に伏せたその新米の青年にただ思った疑問を投げかける。
見下す黒髪の青年。漆黒の瞳が蔑むように細められる。
「お前があの日…、何の前触れもなく唐突に表れ…俺の故郷に火を放ち、村人達を切り刻んだ…。そのせいで、何にも知らない俺の、家族が…!妹が…!目の前で…!」
(————ああ、そのような奇襲作戦をとある異教の地の村にて決行したこともあったな。確かにあの時は多少は無理なことをしたが、それが戦争というものだろう。仕方があるまい)
三年前。その作戦では、異教民の地を征服し領土の拡大と、帝国の信仰を脅かす者達の抹殺、及び侵略軍の排除が目的という一方的な蹂躙だった。
帝国の蹂躙と征服に手が付けられなくなった異国の王は、帝国にこれ以上の侵害を今後一切与えないという条約の下、その国土を手放す代わりに亡命国として国民の命を救い、国王は後に処刑。かつて栄えた王国は帝国によって消滅した。
(————なるほど、その奇襲作戦において死んだ家族の仇、今まさに、その報復が叶ったという訳か)
「その後のピレーヌス山峡での戦いで、領土防衛軍にいた父も兄さんも死んだ。そうだ…貴様が殺したんだ!その時、兵を率いて亡くした二人を胸に…、愛する祖国と罪のない民を、守るため戦った団長である我が父と兄さんを!」
その事実を知って、多少、可哀相だと思った。だが分らなかった。あの、奇襲作戦はまぁ…仕方のないことだと思う。しかし、山峡での戦いは圧倒的に帝国騎士団の方が優位であった。
騎士の数と兵力は倍であったし、何より決定的だったのはその地形。傾斜が高く、左右にそびえる山岳。その地を下るは帝国騎士団。上りくる防衛軍はまさにハチの巣であった。
結果こそすべてであった彼にとって、軍の行動はあまりに愚かで無意味なものだった。だから、彼はこう解釈したのだ。
——————あの者等は皆頭が悪いのだと。