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哀れな英雄に死を 1

初投稿です。不定期になるかもですが頑張って更新していきたいです。よろしくお願いします。

1,

 

「何故、私は戦い続けたのだろうか…」

 地に仰向けに倒れた男は、震える声で呻くように口を開いた。

 彼が苦しそうに、息を切らして虚空を見つめているその原因は彼の腹と、そこに横たわる地面を見れば一目瞭然である。

 黒銀色に光る西洋甲冑の腹部には、どれほど大きな力で貫かれたであろう風穴が空き、そこから濁流の様に零れる鮮血で彼の周囲に、紅い湖畔を形作っていた。

 

 『————残りあと僅かで英雄、レブエルタス=トリュンフォは死にます』

 


 (はは…英雄だってさ。こんな私が英雄なんて本当、馬鹿げた世の中だ………)

 

 『————了解。これより、作戦名【黄金理想郷エルドラド】転送作業開始』



 騎士であり、英雄とまで民衆に謳われる程の実力のあるものが、どうして腹に大穴が空き、只今、死の淵に足を踏み入れているのか、その答えは非常にシンプルなモノだった。………仲間討ちの裏切りによるものである。


 英雄は、目の前より来る敵には無類の強さを誇っていた、それは何とも圧倒的なまでに。

 その活躍あってか、多くの犠牲を払いながらも、数多の勝利をつかんできた。今回だってそうだった。新米率いる、帝国の騎士団は分団長である彼が先導のもと、多くの死者を出しつつも、その強さは勝利を導いた。

 しかし、彼には一つ英雄と呼ばれるに至る理由でもあり、味方騎士から裏切られる、長所にして欠点があった。

 ——————人としての何かしらの部分が、大きく欠如しているのだ。

 

 戦う者全てに、大いなる決意や志がある。

 愛する祖国、愛する者を守るため、富や名声、怒りや憎しみ…。それ等があるからこそ、彼らが剣を振るう糧となり、原動力となるのだ。

 それは、迫りくる侵略者の軍勢であろうとも、罪のない異教の民への虐殺であっても、彼らは各々が秘めた信念を免罪符にする。それこそが、我らが信じる神の導きであり、帝国の為なのだと。騎士が剣を握る意味を与える。

 だが彼は、そのような感情が一切なかった。

 『皇帝への忠誠』、『帝国の繁栄と安寧』、『聖典の導き・神からの天命』、彼にはどうでも良いものだった。

 人形のように無感情に、敵の首を刈り、味方の死になど何の感情もなく、あまりに無謀で、残酷な作戦や命令を下せた。指導者としての鑑。しかし、それはあまりにも冷徹すぎたのだ。

 仲間の犠牲。そのようなモノ、どうでも良い。彼らもまた祖国の為に誇りをもって死んでくれる。例えそれが、使い捨ての駒の様な扱いであっても……栄冠であると思うだろう。

 彼にとって重要なのは、結果だけだった。勝利という名の結果だけがあれば十分だ。

 守りたいモノもなければ、愛する者もいない。歓喜という感情もなければ、畏怖も怒りも恨みもない。ただ、彼は勝利という結果が欲しかった。それが彼が唯一生きる糧であり、意味であるのだから。

 

 『磁器人形の死神ビスクドール』の異名を持ち、敵味方問わず恐れられたそんな彼の元、いずれ内乱が起こることなど不思議なことではなかった。生きる理由を得るだけに多くの恨みを買った彼が、この世から抹消されるのは正しき運命だったのかもしれない。

 紅い戦場に勝利の旗が掲げられる。英雄はまるで、作業を終えた農夫の如く平然としており、そこに喜びも悲しみに歪む表情もない。いつも通り多くの敵を殺し。多くの仲間を捨て駒として扱った。

 

 何事もなかったかのように、帝国へと向かう帰路、屍を軽く踏み超えている、その刹那の出来事だった。

 

 ————背後より、強烈な衝撃と熱が彼の腹部まで唐突に走った。

 一瞬、何が起きたのかと、言葉にならない吐息が細く発せられ、その熱の正体を探ろうと腹部へ目を凝らす。その元凶となる物が横腹から前方に向かって飛び出しているのが目に映ると同時に、大量の吐血を吹き出す。震える手で背後から一貫する物を触れて確認した。


 槍だった。重鉄で作られた全長、人の背丈程ある鋭く尖った凶器は、堅く分厚い鋼鉄の鎧を貫通させるには十分なものであった。

 崩れ落ちる膝。振り返るとそこに、獣のような形相で息を荒くし、怨恨の瞳で彼を見下ろす黒髪の青年の姿があった。

 

 「悪魔め………!貴様こそ、我等が神を脅かす悪魔!…そして、我が仇!」

 

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