日はのぼらない
予想以上に血みどろになってしまったようです。
烏がわめいていた。
魂が浮き足立っていた。
なんてのは、変わらない筈だったのに覚えた違和感。
その違和感は先輩が帰ってきても拭いきれなかった。
僕はもともと人に意見を言わないタイプだったので、その時も何も言わなかった。
言ったところで、あの人は何をしてくれるだろうか、と考える。
むしろ
「消えろ」と吐き捨てるのではないだろうか。
最高それだ。
最低は黙って首が飛ぶのを待つしかないだろう。
「先輩」
「なんだよ」
「なんでもないですよ」
「じゃあ話かけんなよ」
僕はそれ以上は話を続けなかった。
らちが開かない気がしていたから。
でも、やっぱりそれはやって来る訳で。
ぐぐ、と力をこめたクロに影がまとわりつく。
払っても払ってもそれはしつこくまとわりつく。
もうこれのことは気にしない。
気にしていたら負けだ。
殺られてしまう。
ざしゅっ、と小気味いい音がして、切っ先が床に触れる。
床に穴が空く。
「誰か転ぶなぁ」
僕はそう言いながら、影がまとわりついたままのクロを向こうに向かって振り回した。
びゅ、と風を切ってきぃん、と互いの刃がぶつかる。
もうダメなんだろう。
この時点で決まっていたんだろう。
計算づくだったんだろう。
だから僕の体は宙に浮いて、肩から血を噴き出して、クロを手放して、だんだん床に近づいて、ばん、頭をぶつけて、破片が顔に刺さって、クロはその穴により階下に吸い込まれて、僕の体は吸い込まれなくて、黒い影が僕の体を包んで、ぐしゃぐしゃに掻き乱しはじめて、
だから僕の体は赤く染まっていって、内臓がびちゃびちゃと音を立てながら床に落ちていって、次第に僕の体は軽くなっていって、魂が逃げ出して、血だまりができて、階下のクロはぴくりとも動かなくなってしまって、先輩はとうにぐしゃぐしゃに掻き乱されていて、原型も留めないような姿になっていて、中身が丸見えで、内臓がはみ出して、それでもまだ眼球は動いていて、気味が悪くて、
先輩の鎌のスイだって、教室で遊ばれたのか修復不可能なくらいに壊れていて、柄が折れて、刃がぼろぼろで、柄と刃は離れていて、じんわりと血が染み出していて、床が黒くなっていって。
この惨劇を産み出した張本人はニヤニヤと笑いながら、自らの喉笛にナイフを刺して自殺した。
ひゅぅーっ、と風が抜ける様な音がして、血が溢れ出る。
それを瀕死状態なスイが掬って飲み始める。
やがて、先輩も一緒になって。
がぶ飲みしている。
そんなに飲んだら口のまわりが赤くなって臭くなってしまうだろうに。
「ほら、お前もやれよ」
血を近づけられる。
鉄臭いそれは赤くて、とても飲めそうになかった。
ばちゃばちゃと先輩の手のひらから床に血が落ちていく。
僕はそれを必死に掬って飲み始めた。
鉄の味。
味は表現しがたいがこんな感じだろう。
水だと思えば結構行けるだろう。
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ある学校ではある噂がたっていた。
「旧校舎取り壊しやめたじゃん、あれなんでかわかる?」
「なんか出るからじゃないの?」
「違うよ、入ったら最後、戻れないからだよ」
「どういう意味?」
「入ったら死ぬんだよ」
「本当に死ぬんだよねー。
なんか人食い鬼がいるらしいよ」
「じゃあ今日あたり行ってみる?」
「おっ、いいねー行こう行こう」
「所詮、らしい、でしょー?」
あははは、と笑いながら旧校舎に入っていく少女たちの姿を舌舐めずりしながら見ている人物がいた。
数分後、旧校舎は血の海となる。