第六話 雨の日の過ごし方
ざーざーと音を立てながら、雨が降っている。
朝からずっと降り続けていて、いい加減うんざりなんだけど、雨は結構好きだから良しとしよう。
でも、正直言って、雨漏りが心配だった。
結構古い建物でしかも木造だし、隙間なんか一歩歩いただけで最低三つは見つかる。
クロは相変わらず部屋の隅で丸くなっている。
しかし、ここ最近人の姿以外のクロの形状は鎌しか見なくなった。
僕は暇をもて余して、先輩の方に這っていく。
「せーんぱーい」
「……そういう感じに呼ばれた記憶がある気がする」
「呼んだんじゃないですかね
あ、僕に確認取らないでくださいよ
覚えてないんですから」
「……人任せめ」
「人任せじゃないですよ」
あはは、と笑うと先輩はそっぽを向いた。
「ツンデレですか?
猫だけに」
「関連性がよくわからん」
「気まぐれ」
「…………そうかい」
先輩ははぁ、とため息をつくと、窓に目をやる。
雨は弱まることを知らないかの様に、強さを増していた。
窓枠ががたがたと音を立てていて、今にも壊れそうな勢いだ。
「雨、嫌いなんですか?」
「ん」
「何でですか?」
「髪と尻尾がへたれる」
「……それだけで?」
僕がそれを聞いて笑うと、先輩は苦笑した。
「湿気がな、やばいんだ」
「どういう風にやばいんですか?」
「さっきから質問ばっかだな
毛が湿気を吸いとってふにゃってなるんだよ
見たことないか?
普段はふわふわの天パが雨の日は誰ですか、ぐらいにぺったんこになってんの」
「クロは猫っ毛になりますよ
ほら、ぴょんぴょん飛び出してるあれ、猫っ毛です」
僕はそういってクロを指差す。
クロはきょとんとした顔でこっちを見た。
「ほーぅ」
「先輩は猫っ毛なんですよね?」
「また質問か。
一応猫っ毛。多分。
見事にへこたれてるけど」「というよりは猫なんだから猫っ毛じゃないとおかしいでしょう」
「あーハイハイそうですか」
先輩は面倒くさそうに言った。
「僕と話すと面倒くさいでしょう」
「かなりな」
「……僕、先輩のことやっと好いてきたのに、残念です。」
「俺が悪かった」
やっぱ面倒くさい、と先輩は小さく呟いた。
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「…………」
この人は一体何なんだ。
「ちょっと先輩、そこ僕の場所です」
先輩が我が物顔で居座っているのは、じめじめした教室の隅っこだ。
僕はどちらかというと湿気を好むから、隅っこという場所は好きだ。
その場所は、湿気を嫌う人に占領されている。
「湿気、嫌なんじゃないですか?」
「いや?」
「さっき嫌いって言ったじゃないですか」
「雨は嫌いと言ったが湿気は嫌いと言っていない」
「……ひねくれ者め」
「なんか言ったかー?」
「いえなにもー?」
こういうどちらにも利益が無い会話は極力避けたかったんだけどな。
「隅っこくれないんだったら暇潰しに付き合ってくださいよ」
「ぁあ?」
「取り引き、です」
「しゃーねーなぁ」
雨は激しさを増していたが、僕と先輩はそれに気がつかないくらいに、話し込んでいた。
クロがしつこく構ってくるスイにうんざりして、僕らを見つけるまで。