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第二話 少女と死神

この作品は少しばかりグロテスクな表現があります。ご了承の上、ご閲覧下さい。


 もう、ずっと昔のことだ。


僕がぎりぎりで覚えていられる程昔にあったこと。


僕は、一人の少女に出会った。


 「私、もう少しで死んじゃうんです」


 そう言った少女は、笑顔で。


「怖くないの?」


僕は思わず少女に問う。


だって、死ぬ、ってことは、自分の存在が無くなってしまうことでしょう?


「全然、怖くない。

自分がいなくなるのにね。」


そう言って、くすり、と笑う。


「僕は怖かったよ」

「そう」

「……男なのにね」

「みんな死ぬのは怖いよ」

「でも、君は怖くないんだろ?」

「個人差」

「そういうものなのかな」

「多分、ね」


そこまで言い、話し疲れたらしい少女は、ベッドに埋もれる様に身体を後ろに倒す。


「疲れた?」

「ちょっとだけ」

「……そう」


僕はそれだけ言って、無言になる。


少女は僕を見据えたまま、無言になる。


 沈黙を破ったのは、僕だった。


 「……黙られると困るし、後、そんなに見られても困る。」

「ごめんなさい、ついやっちゃうの」

「昔からの癖?」

「でしょうね。

ほら、病院って暇じゃない。

やることと言えば、手術とか治療とか食事とか。

暇潰しと言えば、誰かと話すこととか本を読むことぐらいしか無くて。」

「……へぇ」

「あ、でもね、誕生日はお母さんがちっちゃなケーキ買ってきてくれるの」

「そう」


僕が短い返事をしないことに何か思ったのか、少女は眉をひそめた。


「……お腹でも痛いの?」

「違うよ」

「そう?

じゃあいいけど」


たとえ口が裂けたって、「僕は死神で、君を殺しに来ました」、なんて言えるわけ無いだろ。


「……あなた、」

「うん?」

「死神ね?」


一瞬窓の縁から落ちかける。


「……何で分かったの?」

「何で、って

そんな長くて黒いローブ着てて、そんな大きな鎌持ってたら、死神です、って言ってるようなものだよ?」

 僕はそれを否定するように言う。


「……サタンかも知れないだろ」


 少女も言い返す。


「サタンはもっと怖いよ」


僕はそれを聞いて、ため息をつく。


「幸せが逃げるよ、死神さん」


再び笑顔。


どうしてそんなに笑って居られるのだろうか。


「君は強すぎる」

「何処が?」

「何処って、口がさ。

おしゃべりな上に屁理屈をこねるのもうまい。」


僕は少し挑発的に言う。


「あらそう」


少女は何でも無い、という風に言う。


「あ、暇潰しでもう一個あった」


君は空気と言うものが読めないのか。

……まぁ、もともと読むものじゃないけど。


「星を見るの」

「……星?」

「そう、星。

綺麗だよ。特に月の無い新月は。」

「僕は月の方が好きだけど」

「そうね、死神には月が似合いそうね」


僕は一体何を話しているんだ。

さっさとこの少女の首を跳ねてしまえばいい。


それなのに。


身体がそれを拒否していた。


「あれがオリオン座、とか、自分に言い聞かせてる」

「そう」


自分の体の筈なのに、とてつもなく重い。


嗚呼、どうして。


少女の話をぼんやりと聞きながら、頭に浮かんでいる考えを必死に消そうとしている。


まさかそんな筈が。

 あるわけない。

あるわけない、筈なんだ。


「で、死神さん」


少女が首を此方に向け、にこりと笑う。

笑いながら、言う。


「私を殺さない決心はついた……?」

「……は…………」


息が苦しい。

こんなにも苦しいと感じるのは死んだとき以来だろうか。


冷や汗が、背中を伝う。


少女の表情は変わらない。


笑ったままだ。




 


 その笑顔は、本当に本物……?


 


 


 「━━━━━っ!!」


━━━━━━━━━━━━━━━


 自分の叫び声で目が覚める。


 「……?」


焦りながら傍らに居るクロを確認し、ほっと息をつく。


どうして僕はあんな夢を見たんだ?


なんで、あんなに昔のことを。


まだ、死神になりたてだった頃のことだ。


あのあと、少女の顔は溶け始めて、顔の一部だったものがベッドの上や床に落ちて。


皮膚の下の赤い肉や、剥き出しになった眼球や、まるで気が付いたように急に溢れ出す血や。

 色んなものが思い出された。


どうやら彼女は忘れさせてくれないらしい。


一人静かに笑っていた彼女。


その笑みは嘘か真か、ついに分からなかった。


ついでに言えば、彼女の最期も。


すべてが曖昧になっていて、もうとっくに忘れたと思っていたのに。


魂が何かを感知していたらしく、僕の周りに集まり始めている。


「何でもないよ。

起こさせてごめんね」


そう謝ると、すぅっと消えていく。


それぞれの持ち場に帰っていったのだろう。


僕は最後の一つが消えるのを見送った後、眠っているクロを一撫でして、再び眠りについた。


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