9. ダンジョンボス
振り下ろされた棍棒をショートソードで受け流し、さらにその勢いをショートソードに乗せ、モンスターの身体へと廻す。
【廻剣士】としての戦い方をモノにしつつある圭祐は、【ダンジョン】の地下14階層にてオークと戦っていた。
悲鳴のようにも聞き取れる咆哮を上げ、のしかかるオークのその攻撃すらもオークへ廻し返す。
顔から地面へと叩きつけたオークの首をショートソードで斬りつけ、オークは息絶える。
「この豚、棒振り回して運動してるだけあって美味いんだよな…」
10日前のこと。
地下8階層を抜け9階層へ到達した圭祐は少しの探索の後、ダンジョンを徘徊するオークを発見した。
この日は泊まり込みでのダンジョン探索の5日目であり、持ち込んだ携帯食料も残り少なく、空腹状態での探索中であった。
オークと戦っている最中。オークの、豚のような顔に光る2つのつぶらな瞳から発せられる眼差しが(ボクハ……オイシイヨ…。)と語りかけて来ている気がした。
気付けば【ファイアーソード】のスキルを使用してオークを倒しており、こんがりと焼けた美味しそうな切り口が圭祐に「こんにちは」と挨拶した。
堪らずかぶりついた圭祐だったが、味の濃い豚のような味でとても美味しく、動けなくなるまで食べ続けた記憶がある。
ちなみにダンジョンの外へは、5階層にて発見した魔法陣に魔力を流してみると入口へ戻ることが出来た。
再び探索する際はまた1階層からの探索であるため、圭祐はあまり戻りたくはないようだが…。
結局1キロ程に切り取ったブロックをリュックに入れ、探索を再開した。
更に地下へ通じる階段を見つけたのはそれから3時間ほど経った時であった。
いつもの様に階段を降るとその先にはほかの階層にはなかった大きな扉が設置されていた。
「……ゲーム的に考えると、この先にいるのはボスだよな……。」
ボス戦だと仮定し、扉前で1度休憩を挟むことにした。
先程拾った(狩りとった)オークの肉を切り分け、魔法で焼き、そして食べる。
「ステータス」
田中圭祐 クラス 〔廻剣士〕♂
Lv 22
〔ステータス〕
HP 105/121MP 110/115
ATK 87+11 DEF 70+14
AGI 117+58 MAG 69
TEC 125
所持スキル
〔ユニークスキル〕
【Another Myself】(-)【韋駄天】(-)
〔EXスキル〕
【スキルポイント】(-)【略奪の魔眼】(Lv10)【剣術:廻】(Lv8)
〔Evoスキル〕
【詳細鑑定】(Lv9)
〔Nスキル〕
【身体強化】(Lv10)【火魔法】(Lv8)【気配感知】(Lv7)
青いゴブリンとの戦いよりおよそ2ヶ月弱。その間ダンジョンへ潜り続けていた圭祐のステータスは大きく変化した。
1階層ではもう上がらなくなっていたレベルだが、地下へ潜るに連れ、モンスターのレベルも上がり、それらを倒すことで再び圭祐自身のレベルも上がり始めた。
またモンスターのレベルが上がるにつれて【略奪の魔眼】によるスキルポイントの取得量も増加した結果、全体的スキルのレベルは上昇し、いくつかのスキルは進化した。
【Another Myself】は【分身】が進化することで取得したスキルである。
自身の能力の3割を持つ分身を作り出すことは同じだが、時間による消滅はなくなり、また、圭祐の持つスキルを使用することが可能になった。さらに、思考の分離とステータスの共有という特性を持つことから、夜間圭祐自身が寝ている間もダンジョンの探索が可能というチート性能を秘め、スキルポイントの獲得に大いなる貢献をした。
【韋駄天】は、【反射神経】と【動体視力】。またすばやく動くことを意識しながら戦っているうちに取得していた【疾風】というスキルの3つを全てLv maxまで育てたことでスキルが統合され派生したパッシブスキルで、反射速度と動体視力、さらに自身のスピードが大きく上昇した。
【気配感知】はその名の通りまわりに近付く気配を感知する技能スキルで、周りに意識を向けることで自分以外の存在の気配感知をすることが出来る。このスキルもレベルアップとは関係なく、気配を探り、探索に集中しているうちに気付けば手に入れたものである。
このスキルを取得した時に圭祐には気付いた事がある。
スキルには2種類ある。
1つはレベルアップやボーナスにより取得するもの。
これは今までは出来なかった技能がスキルを手に入れることによってある日突然出来るようになるのだ。
もうひとつが既に身につけた技術がスキルとして現れたものである。
本来はスキルによって得た技術や自分の持つ技術を自分の努力で、さらに磨き上げ成長していくものなのであろう。
しかし圭祐には【スキルポイント】がある。スキルさえ手に入れてしまえば、簡単に熟練度をあげ、ステータスや威力を上昇させることができる。
この時初めて自分の持つ【スキルポイント】というスキルの反則さを自覚したのであった。
……………………………………
休憩を終えた圭祐は扉を開き警戒しながら中へ入る。
中は50メートル四方の部屋になっており、中央には3メートル程の大きさのゴーレムがいた。
「【詳細鑑定】【略奪の魔眼】」
〔ゴーレム Lv25〕rank D
HP 300/300 MP 50/50
ATK 200 DEF 250
AGI 5 MAG 30
所持スキル 【土魔法】
スキルポイント 残35
弱点属性 水
硬い岩で身体を覆うモンスター。
身体を覆う岩の成分によりステータスは左右される。
身体が重く、動きは遅い。
圭祐の背後の扉が閉じると、ゴーレムはその巨体を持ち上げる。
先に動いたのは圭祐であった。
頭に響く略奪のログを聞きながした圭祐は、その場の地面を蹴ってゴーレムへ一瞬で接近し、【身体強化】を付与した蹴りをゴーレムの胴体へ叩き込む。
「硬ってえッ!」
ゴーレムは少しよろめくも、大したダメージにはなっていない。
攻撃され、腹を立てたゴーレムは圭祐へ向け拳を放つ。
圭祐はサイドステップで攻撃を躱すも、打ち下ろされた拳は圭祐のいた地面を打ち砕き、その破片が圭祐へ微力ながらダメージを与えた。
「えげつない攻撃だな!?…でも、その勢い利用させてもらうぞッッ!」
再び圭祐へ繰り出された拳を圭祐は受け流し、ゴーレムへ廻そうとする。しかし、今までとは次元の違う威力に上手く対処できずに吹き飛ばされる。
「クソッ!もう1回!」
再びゴーレムへと接近する
(あいつの攻撃をよく見ろ。瞬きもするな、軌道を予測しエネルギーを誘導しろッ!)
打ち下ろされた拳を見極め、受け流そうとするも再び吹き飛ばされる。
「ハハッ!さっきよりは廻せただろ!!」
口の端から流れる血に気付いた圭祐はポケットから薬苔を取り出し口に含む。
「まだまだ用意はあるぜ!さあ!殺り合おうか!」
何度も吹き飛ばされ、またゴーレムへと突撃する。
意識は更なる戦いの中へと沈み、集中力はより研ぎ澄まされる。
研ぎ澄まされた集中力は交差するその一瞬を引き伸ばし、流れる景色を線から点へと変える。
そしてついに圭祐はゴーレムの攻撃を完全に捉える。
ゴーレムより伸びてきた拳に乗るエネルギーを自身の持つショートソードへと受け流し、そのエネルギーをゴーレムの腕へと廻す。
【剣術:廻】により増長されたエネルギーにより、ゴーレムの腕は切り飛ばされた。
『ッ !?!?』
何が起きたか分からないゴーレムは咄嗟に【土魔法】を使い、地面から土の槍を生やして圭祐を遠ざけようとする。
土の槍を素早いステップで躱した圭祐は地面を蹴り一瞬でゴーレムへ接近する。
圭祐を危険因子と判断し、今まで以上の力を乗せ、残った腕でストレートを放つ。
「ここだッッ!!!」
放たれた拳に乗るエネルギーを見極め、そしてゴーレムの胴体へと廻す。
ゴーレムの渾身のエネルギーは圭祐を通して廻り、そして自身の胴体へと返ってきた。
胴体を切断されたゴーレムは地面へと倒れ、そのまま息絶えた。
《エリアボス ゴーレムを討伐しました。》《エリアボス討伐報酬として【ダンジョン内転移】を取得しました。》《レベルアップ!Lv23になりました。》
倒されたゴーレムは突然現れた魔法陣へと沈み、代わりに黄色い箱が魔法陣の上へ現れた。
「これは!もしや!宝箱!?」
傷付いた体の痛みにも気付かず宝箱へ飛びついた圭祐は蓋を開ける。すると中には1本の小太刀と赤と青の液体が1本ずつ入っていた。
小太刀を手に取り鞘から抜く。片刃のその刀身は黒く光る。
鑑定を掛けると
〔黒の小太刀 レア度 A〕
ATK + 5
黒い刀身を持つ小太刀。
敵を倒すことで切れ味は上昇していく。
とあった。
続けて液体を鑑定すると
〔ポーション レア度D〕
傷を癒し、HPを回復する。
部位欠損の修復不可。
〔魔力ポーション レア度D〕
使用したMPを回復する。
と表示された。
(あぁ、やっぱりポーションってあるんだな。)
鑑定も終わり、気の抜けた頃に戦いの痛みと疲れが押し寄せてくる。
(今手に入れたポーションを飲めば治るのかもしれないけれど…この疲れと痛みが強敵と戦ったって証なんだよな…。
少しだけ、戦いの疲れに浸ろう…。)
痛みに耐える圭祐はダンジョンの床に大の字に寝転び、少しの間目を瞑り、勝利に浸るのであった。
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