4. 新たなダンジョンの出現
例年よりも温度の高い今年の夏は、人々の生活のために建てられたビルやマンションによる陽の光の反射や、こもる熱の影響で起きたヒートアイランド現象はここ名古屋の地をさらに暑いものへと変化させ、人々を苦しめていた。
暑さから避難し、地下街を歩く人々の額には外の暑さを物語るように大粒の汗が光っている。そんな地下街で清掃員として働く一人の男性 大貫田博も連日の暑さに嫌気がさし、倉庫で体を休めていた。
「ったく…こんな暑いのに仕事なんてしてられるかよ。」
倉庫で煙草をふかす彼。倉庫へ物を取りに来る人はいても彼を注意する人物はいない。それもそのはず。彼の素行は最悪で注意して来た人間へ嫌がらせを繰り返し何人もの同僚をやめさせて来た。さらに新しく入って来た新人へそのことを誇らしげに語ることから、誰も自分からわざわざ彼へ話しかけることはしなくなった。そのことをいいことによく倉庫へ来ては、仕事をサボっていた。
「ちっ、タバコが切れた」
そう言って立ち上がり、倉庫から出て扉を閉める。その直後大貫田博を謎の揺れが襲った。
一瞬の揺れだったが、大きなものであった揺れに大貫田博は情報を得ようとポケットを探るが、目当ての携帯は見つからなかった。
「あぁ?携帯ねえぞ?…そうか、倉庫に忘れて来たか。」
そう言って倉庫を開くとそこには、洞窟の入り口が大きく口を開いていた。
================
ダンジョンの発見に世間は震撼した。
中へ入ると今まで見たことのない生物、青いゲル状の生物がダンジョン内を徘徊していた。人はそれをスライムと名付けた。また、それを倒すことでレベルアップの恩恵を受け、力が強くなったり、足が速くなるとの情報が流れると連日大勢の人がダンジョンへと押しかけた。
さらにそのダンジョン内で死んでも何故かダンジョンの前に戻されるだけと知り、ノーリスクでの自身の強化に人々は沸いた。
そんなある日、人々はさらに下へと続く階段を発見する。地下2階層では1階とは違う緑の生物、ゴブリンが生息しておりスライムより少ない数でレベルアップできると多くの人が地下2階層を探索した。
そんなある日事件が起きる。ダンジョン内での殺人未遂事件だ。ダンジョンを探索していたものたちが獲物を取り合い、さらにそこから刃物を取り出し相手の胸を刺したとのことだった。ダンジョン入り口近くの事件で目撃者も多数いたことから犯人は大貫田博という人物であることが判明した。
また同時期、2階層を探索していたものがゴブリンに殺された。その死体は入り口へ転送されることがなく、そのまま帰らぬ人となってしまった。
報告を受けた政府は至急を閉鎖し、〈ダンジョン調査委員会〉を設立。自衛隊員100人よる探索がされた。3ヶ月の調査により地下10階層までの攻略ならびに調査結果が公表された。
① 1階層では死亡してもダンジョン入り口へ転送され復活する。ペナルティもなし。しかし2階層以降で死ぬと復活することはない。
②階層を下るごとにモンスターの強さは上昇する。
③地上からの武器の持ち込みは可能。モンスターへ通用する。しかしATKの値が50を超えた以降は拳銃より素手の方がダメージが大きいものとなる。
④レベルアップによるステータスの上昇は地上に上がってからも認められた。しかしその上昇率はダンジョン内部と比べるとおよそ1/10である。
⑤ダンジョン内でモンスターを討伐しレベルアップを繰り返す、または特定のアイテムの使用でスキルを獲得することができる。スキルには様々なものがあり、なかにはダンジョン外でも使用することが可能なものも発見された。
⑥ダンジョン内で見つかるステータスが上昇するアクセサリーや、傷口を治すポーションの効能はダンジョン外でも変わらず発動する。
⑦ダンジョン内部の空気には、人の闘争心を刺激、興奮作用があり、攻撃的な性格を引き起こしやすい。
ダンジョンの外に出た後もしばらくはその状態にあり。他、効果は未だ不明。ダンジョン内空気に含まれるその成分を〈魔素〉と名付ける。
⑧これらの情報により、ダンジョンには危険因子は多く認められるものの有用性は認められる。
よって、〈ダンジョン・シーカー協会〉を設立を決定する。
身体能力や過去の犯罪歴の調査。そして適性検査の後、適正ありと認められたものの協会所属を認め、〈ダンジョン・シーカー〉の資格を与えるものとし、ダンジョン内の探索を認める。
この情報が広まると、大勢の人が協会へと殺到し、そしてその中から選ばれたものたちがダンジョン・シーカーとなった。
ダンジョン・シーカーたちは、多くの資源を提供し、そして協会から多額の報酬を得た。
その後いくつものダンジョンが世界中に発生し、ダンジョン・シーカーたちは各地のダンジョンへと挑戦する。それに合わせ、ダンジョン・シーカー協会もさらに大きな組織へとなっていくのであった。
〈ダンジョン・シーカー協会〉が始動。
次回、圭佑視点へ戻ります。