圧倒的戦力
ダンジョンの中はほかのダンジョンと変わりなく、薄暗い洞窟であった。
「とりあえず目標は地下10階層だね。」
「そうなのか?」
「ダンジョンの調査というと、大概は10階層のボスの確認、及び撃破のことを言うんだよ。そのボスでダンジョンの難易度が大体わかるんだ。」
「へえー、なるほど、知らなかった。」
「なんでよ!配布された冊子に書いてたでしょ?まさかまだみてないの!?」
「よ、読んだよ……?……知ってたよ?」
2人からジトーと厳しい目を向けられ慌てて誤魔化そうとする圭祐。
当然2人はそんな圭祐の言葉を信じてない。
「じー」
「やだ、なにその顔!可愛い!天使みたい!」
「こらこら2人ともそんな遊んでると危ないよ…全く、幾ら低階層とはいえここはダンジョンなんだよ?」
2人の緊張感のなさに呆れる遠藤。
これは試験に通るか危ういな…と考えていた。
しかし
「圭祐。モンスターの気配。」
「既に分身を、先行させてる。対処出来るよ。」
「え?」
「大丈夫おじさん、もう終わったよ。
この階層の敵はスライムだ。相手をするまでもない、さっと2階層に向かおう。」
「2階層の敵はコボルトだね。よし、3階層に向かおう」
「くそ、優奈感知でそんなことまで分かるようになったのか…!」
「ふふん。お姉ちゃんすごいねって言ってもいいんだよ?」
「お姉ちゃんすごいねっ!!!」
「やだ!お姉ちゃんって言わないで!」
「3階層レッサーインプ!はい!次!!」
「4階層ウルフ!おっけいだよ!」
…………
………
…
「あの、おじさんなにかすることはない?」
敵が現れた瞬間、なんなら視界に入る前に分身や魔導を使い倒してしまう2人に遠藤は声を掛ける。
初めの心配はなんだったのか、あまりに圧倒的な戦闘能力に為す術もなく倒されていくモンスター共。
遠藤はこのダンジョンへ潜ってからまだ1度も敵と戦っていない。
「まあ、今のところはないかな」
「でも僕何もしてないんだけど…」
「遠藤さん!それっていい事じゃないですか!盾役の人が必要なのは敵に攻撃された時でしょ?攻撃させる隙を与えてないってことですから〜」
「おじさん、自分で言ってたでしょ〜。役割分担だよ。」
納得は出来ないがその通りだと遠藤は思う。
たしかに戦士はパーティの盾だ。攻撃さえされなければ盾のすることは無いのかもしれない。
せめて、攻撃を受けそうになった時にすぐさま守れるように警戒だけはしておこう。
それにしてもだ、この2人、到底ブロンズランクのメンバーで構成される、自分の所属するパーティと比べると圧倒的なまでに強すぎる。
もちろん、自分のパーティでもこのクラスのモンスターに苦戦することはまず無いだろう。
自分の所属するパーティメンバーのレベルは10〜20に満たない程。それでもブロンズランクのなかでは十分に強い部類である。
だからこそ今現在、シルバーへの昇格試験を受けているのだ。
だが、この2人はそれ以上の余裕がある。このレベルのモンスターなど敵としても認識しているかどうかさえ不明である。
長年生きた勘では、彼らは間違いなくゴールドランクへ到達する。彼らがパーティを組んだ時にはもしかするとそれ以上、ダンジョン・シーカー協会の最強パーティとして君臨するのでは無いかとさえ思える。
………………………
8階層へ到達した圭祐たちは、そのフロアの探索を行っていた。
「いないね」
「だな。」
「とりあえず、まずは下へ続く階段を探そうか。途中にモンスターと遭遇するかもしれないしね。」
「あーい」
ダンジョン内には音が一切なく彼らの足音が響く。
「おかしいな。モンスターはいないのか?」
「ほかのシーカーたちもいないね…」
「他のパーティはここまで辿り着いているのかな。」
「まあ優奈の感知能力と俺の分身で相当早くは進めてるだろうな。」
「………待って。なにかいる…。」
そう言って優奈は周りを警戒する。
遠藤もそれに倣い周りを警戒するも何も感じない。
「うーん、俺には何も感じないけどなあ」
「たしかになにか感じた…」
「僕もわからないな…」
「うーん……」
そう言って圭祐はその場を離れフラフラと歩き出す。
そして、壁に近付いたその時
「圭祐っ!壁っ!」
「っ!」
優奈が声を上げると同時に、圭祐もその気配を感知し、咄嗟に腰に提げた小太刀を抜き払う。
すると壁から突然湧き出た触手を切り落とした。
「え、気持ち悪っ」
「壁から触手がっ!?」
「ミームウォールってモンスターらしいぞ。壁に擬態し近付いてきたシーカーを取り込むみたいだな。毒を持ってるがステータス値は低い。警戒さえしていれば毒もそこまで強いわけではないから簡単に対処出来るな。優奈頼む。」
「はーい!」
鑑定を掛けた圭祐は、優奈に魔法で倒す様指示をする。
優奈魔法によって一撃で討伐されたミームウォールは空気が抜けたように小さくなり、その擬態を解く。
「これは新種のモンスターか?」
「そうだね、まだ発見された事がなかったモンスターだ。」
「やったね!お手柄じゃん!」
圭祐と優奈は簡単に対処していたが、遠藤はもし自分のパーティであったらと想像すると背中に冷たいものが流れるのを感じる。
圭祐は簡単に対応していたが突然襲われ、反撃を行うのは自分にはまず不可能であろう。
さらに優奈のような敏感な感知能力もほとんどの人物は持っていない。
このダンジョンは、少し危険なのではないかと、遠藤は感じ始めた。




