14. 〈ダンジョン・シーカー〉とは
両断されたゴブリンの死体を見つめ、優奈は呟くように言葉を漏らす。
「す、すごい……」
「だから言ったじゃん、大丈夫って。」
「今までも他のダンジョン・シーカーたちに着いて行ってゴブリンを退治をしているのは見た事あったけどここまで圧倒的なのは見たことないよ。」
「だから俺すごいんだって。」
「で、でもどうやって……」
「あ、勝手にお借りしました。」
そう言って圭祐は手に持つサバイバルナイフを優奈に見せる。
それを見た優奈は自分の腰に手をやる。
「え!うそ!私のナイフ!!」
圭祐はゴブリンが襲いかかって来た瞬間優奈の腰に提げられたサバイバルナイフを引き抜き、ゴブリンの前まで移動。その勢いのままナイフを振るいゴブリンを両断したのであった。
「でさ、優奈。ダンジョン・シーカーがダンジョンで死ぬことをどうしてそこまで恐れる?」
「そ、それは……」
「ダンジョン・シーカーがダンジョンで死ぬことなんてそんなのダンジョンに潜った瞬間に薄々と勘付く事なんだよ。ごく自然な事だ。なのになぜそれと向き合わない?」
「逆にわからないよ。どうして死ぬことが怖くないの…?」
「死ぬことが怖くない?そんな訳ないでしょ。みんな死ぬのが怖いから、死にたくないから必死でもがき苦しんでモンスターを殺して強くなる。違う?」
「そうだけど…」
「だけどじゃない。そうなんだよ。」
ダンジョン・シーカーは死が怖くない訳では決してない。
怖いからこそ、強さを求め、さらに深部を目指す。
たしかにダンジョンの魔素により、恐怖心は薄まっている。それでも怖いものは怖い。
ダンジョン・シーカーはダンジョンで初めて敵を前にした時にダンジョンでモンスターに殺される夢を見る。そして悟る。自分の死に場所はダンジョンなのだと。それを分かった上で、それでもダンジョンに潜るのは何故か。ダンジョンの魔素に侵された結果なのか。はたまた、死に直面した時に分泌される大量のアドレナリンやドーパミンの作用に快感を覚え、またその快感を求めてしまうからなのか。それともまた別のなにかの作用があるのか。
「でもね、今日君がしてくれた心配はすごく嬉しかった。あの時の優しさに、そして君のそのまっすぐな心にお礼がしたい。」
「…え……?」
「だから君がもう困らなくて済むように。自分の無力さに嘆かなくて済むように。強くなることに協力したい。」
「わたしでも強くなれるの…?」
「当たり前だろ、優奈を鑑定した時に見えたあのステータスを生かす術を探そう!絶対にあるはずだ!」
「鑑定…それでわたしの名前を知ったのね!」
「そうだ!さらにほかにも色々見えた!例えば今日履いているパンツの色とかな!今日は白だ!」
「う、うううううそっ!!?当たってる!!?」
「凄いだろう鑑定は!」
「やだ!すごく嫌なスキル!」
「まあ本当はさっき優奈を引き摺ってる時に見えただけなんだけどね!」
「なあんだ!それなら安心だね!」
そう言って笑い合う。
その後振り返り歩きだそうとする圭祐を優奈は背後から蹴飛ばした。蹴飛ばされた圭祐はダンジョンの壁に激突した。
「いや、何見てんだ変態!はははじゃないわっ!」
「痛い…。」
「絶対許さんからなぁ〜!強くなったらぼこぼこにしたるからなぁ〜!」
そう言って朗らかに笑う優奈の笑顔を見て、圭祐はやっぱりこの子の笑顔は癒されるなあとしみじみ思うのであった。
…………………………………
「で、先生!今から何をするつもりなのです?」
「魔素ってのの存在の感知はできるのか?」
「わからないんだよね。」
「うーん、とりあえずLv10まで上げてクラスを取得してみよう。」
スキルの使い方がわからない以上は鍛え方もない。
クラスを取得することでスキルの使い方のヒントだけでも得ようと考えた圭祐は優奈を連れ、地下へと下っていく。
途中で現れるモンスターとの戦いは、杖よりも物理攻撃の威力の高いサバイバルナイフに持ち替えさせた優奈をメインに立て戦わせた。
ダンジョン・シーカー専用タブレットにあった情報では、レベルアップに関する経験値の取得は、特定の条件を充たさない限りはモンスターへ与えたダメージの割合により経験値を分配されるようだ。
優奈のレベルアップを狙う圭祐は、【Another Myself】を使用し、ステータスの低い分身を使ってサポートに回ることで与えるダメージを極力減らし、優奈へ分配される経験値を増加させた。
圭祐が目的とした階層は地下9階層である。
タブレットの情報によると、地下9階層にはダンジョンウルフが出現する。このダンジョンウルフというモンスターは素早さと攻撃力に優れているが、防御とHPが低く優奈でも討伐しやすいとにらみターゲットとした。
また圭祐自身も押し入れのダンジョンでこのモンスターとは戦っており、ATKの値がそこまで高くない圭祐にとっても相性のいい相手で、Lv14までこのモンスターでレベルを上げていた。
地下9階層までは3日で到着することが出来た。
押し入れのダンジョンと比べると階層ごとの面積は狭く、またタブレットから得られるMAP情報によりこの短時間で9階層まで到達出来た。
情報って大事だな〜としみじみ思う圭祐であった。
飛びかかってきたダンジョンウルフの攻撃を圭祐の分身は手に持つ杖で受け流し、地面へと叩きつける。
地面に倒れたダンジョンウルフに素早く近付いた優奈はその首元へナイフを振り下ろしダメージを与える。
地面を蹴り、よろよろと立ち上がるダンジョンウルフへ急接近した分身は足払いを掛け再びダンジョンウルフを倒す。
優奈はそのダンジョンウルフへもう一度ナイフを振り下ろした。
ダンジョンウルフが息絶えたことを確認した優奈が立ち上がり圭祐を振り返る。
「圭祐!Lv9になったよ!!」
「おぉ、もうちょっとだな!」
圭祐へ親指を立てグッドサインを送る優奈に、圭祐も同じように返す。
地下9階層でモンスターを狩り始めて10日程経った。
初めの頃、モンスターへ攻撃することに躊躇していた優奈だったが、ある日優奈が躊躇した事で圭祐がダンジョンウルフから攻撃を受けた。
「ごめん!」と慌てる優奈に、ちょっとした意地悪で「もうちょっと強い相手だったら俺死んでたな…」と呟くように言った圭祐の言葉が響いたのか、それからの攻撃に躊躇が混じることはなくなった。
この10日ほど、圭祐は優奈を見ていて思ったことがある。
どうやら優奈にはダンジョンの魔素の影響があまり見られない。
圭祐が10日以上、それもほぼ一日潜り戦い続けていた時は眼に殺意を浮かべていたものである。
それなのに優奈は敵が息絶えたことを確認すると少し悲しげな表情を見せることがあった。
最近はモンスターを狩ることに馴れたのか、悲しげな表情をすることは無くなったが、変わりに朗らかな笑顔でレベルアップの報告をすることがある。
またその影響は圭祐にも及んでいた。
圭祐自身も1人で押し入れのダンジョンへ潜っていた時とは違い、連日潜り続けている今この時も攻撃的衝動に襲われることはない。
圭祐はこれも優奈の持つ【魔導】というスキルの効果の影響ではないかと考えているが、未だにそのスキルの使用方法の理解への取っ掛りすら掴めずにいる。




