10. ダンジョン・シーカー協会
失態だ。どうしてこんな当たり前のことに気付けなかったのだろう。
圭祐は現在名古屋の街にいた。
仕事を辞めて以来、およそ9ヶ月振りに来たとはいえ名古屋の街は大きく変化していた。
ファッションやインテリア雑貨、飲食店が軒を連ね、連日人がごった返していた街は今や、発生したダンジョンを中心にダンジョン用であろう武器屋、防具屋。
さらにはダンジョン雑貨と称したダンジョン探索に役立ちそうな雑貨を集めた道具屋や、ダンジョンブームに乗っかったお土産屋、さらには様々な露店が建ち並びそれらを目当てとした大勢の人が訪れるテーマパークのような街へと化していた。
そしてダンジョンから500メートルほど離れた場所に建てられた大型の施設。〈ダンジョン・シーカー協会〉。それこそがまさに圭祐が目的とする場所であった。
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ゴーレムの討伐後も連日ダンジョンへと潜り続けていた圭祐であったが、先日、7階層で出現するホブゴブリンの攻撃を受けてしまう。
幸い大した怪我は負わなかったものの、完全に舐め切っていた相手からの攻撃を受けてしまったことで自分の集中力が散漫になっていることに気付く。
思い返すとココ最近は録な休息も取っていないことを思い出した圭祐は最低でも週に1日以上は休息日を作ることに決めた。
ダンジョンを出て、自宅へ帰ってきた圭祐は身体の疲れを取ったあと、何気なく付けたテレビでほかのダンジョン、またダンジョン・シーカー協会の存在を知る。
そして冒頭へと戻る。
(どうして気付けなかったんだ!当たり前じゃないか!何故ダンジョンがここにしかないと思っていたんだ!!)
圭祐は頭を抱え後悔する。
SNSの情報によるとダンジョン・シーカーとは"かなり"稼げる仕事であるらしい。それもそのはず、ダンジョン・シーカーとは自分の身の安全と引き換えにダンジョンより情報や今まででは考えられない効果を持つアイテム、さらには未確認生物の素材を持ち帰る職業である。
協会が誕生してすぐの頃はゴブリンの死体でさえ1体につき10万円近い報酬を得ることが出来ていたらしい。
(早い段階で気付いてダンジョン・シーカーになって倒した敵の素材を売り払っていれば今頃は億万長者になれてたじゃないかああああ)
圭祐とて、働いていた時の貯えに加え、祖父の遺産も入ってきていた為ある程度のお金は持っている。しかしそれで一生暮らしていけるのかと言うと不可能だろう。良くて3年程だ。
(ま、まあまあ…まだ間に合う…。これからでも登録し、ダンジョン・シーカーとして探索をしていけば十分な稼ぎは得られるはずだ。まだ今気付けただけマシだと思わないと………)
そう考えた圭祐は、翌日には〈ダンジョン・シーカー協会〉へダンジョン・シーカーの登録試験を受けに来たのだった。
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ダンジョン・シーカー協会の施設に入るとすぐに案内係が待機しており、受付の場所を圭祐に教えてくれた。
圭祐は教えてくれた受付へ足を進めながら、協会内を見回す。
ここ、ダンジョン・シーカー協会本部はまだ完成していないようで、色々な箇所で工事が進められている状態であった。
それでも、このエントランスだけは急ぎで作られたようで大理石のタイルが敷きつめられた床を大勢の人が右往左往している。
教えて貰った受付に到着した圭祐は最後尾に並ぶ。受付には既に多くの人が列を成しており、圭祐は自分の順番が来るのを待った。
並んでいる人の多くは20歳前後の若者だが、中にはまだ中学生であろう少年少女や60歳位のおじさんの姿も見えた。
圭祐の順番が回ってくると、これだけ多くの対応をしているはずなのに疲れの見えない受付嬢が「いらっしゃいませ。ダンジョン・シーカー協会へようこそ。」と声を掛けてきた。
ダンジョン・シーカーの簡単な説明を受けたあと、いくつかの契約書にサインをし、試験についての説明を受ける。
説明を聞き終えた後、指定された試験会場へ向かう。
どうやら簡単な身体能力の調査と適正検査を受けるのだそうだ。
身体能力に関しては、既にダンジョンの探索をしているが、はたして合格ラインに到達はしているのだろうか…。
指定された会場へ到着すると、
「名前を呼ばれた方から順番に別室へと移動して頂きます。」
案内係はそう言ったあと順番に受験者の名前を読み上げていく。
待っていると横に居たとおじさんが話しかけてきた。
「おにいさんはここに来るのは初めて?」
「そうだけど、おじさんは初めてじゃないの?」
「おじさんは2回目だよ。前回の試験は落ちちゃってね、はは」
……
おじさんの話を聞いていると、いくつかの情報を手に入れることが出来た。
話をまとめると、まず、ダンジョン・シーカーは思っていたよりもなる事が難しいらしい。
今回募集が掛けられているダンジョン・シーカーは第2期という扱いのようだ。
前回、1ヶ月程前に募集された第1期ダンジョン・シーカー試験では、およそ10万人の応募の中500人ほどの選ばれた人しかダンジョン・シーカーとなる事が出来なかったとのこと。
このおじさんは1度目の試験では不合格となったそうで今回2度目の試験を受けに来たとのことであった。
今度の募集は、第1期のダンジョン・シーカーによりダンジョンの調査が進んだこと。また各地にダンジョンが出現しているため、募集人数を第1期より大幅に増やし、2000人の増員が見込まれているとのことだ。
おじさんは今回こそダンジョン・シーカーになれるかもしれないと張り切っていた。
話をしていると名前が呼ばれたらしく、おじさんは先に別室へと向かった。
(そうか、思ってたよりダンジョン・シーカーを目指す人って多いんだな。2000人か…。なれるかな…。)
そう思案しているうちに圭祐の順番が回ってきたらしく名前を呼ばれた。
(…身体能力の調査と適性検査があるって割には人の流れが早いな。)
圭祐は案内係のもとへと行き、そして指示された別室へと入っていくのであった。




