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目指せ楽隠居!埋火卿の暗闘記  作者: 九良道 千璃
第六章 予想外の火種
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第11話

 王都、クロークス公爵邸で行われているニーシャの誕生パーティで、使用人に連れられてクロークス公爵の元に案内され、今後の火種を一掃するために、自分の力を見せつけろとの指示を受けた。

 言葉にしてみればそれだけなのだが、ここに皇国の意図やニーシャの意図が絡んでくるから面倒なのだ。ついでに他の貴族、ニーシャの縁談相手の椅子を狙う者や、俺自身の行く末を画策してくる者がいるのが、話をややこしくしている。


 俺としては元々、ネルに見合った立ち位置さえ確保できればそれに越したことはないのだが。それに見合うちょうどいい手柄を挙げるのが難しく、挙がってしまえばタダでは済まない功績ばかりとなってしまっているのが事実。

 仕方ないから隠し誤魔化しはぐらかし、としてきた結果、さらに事態がややこしくなるに至っている。仕方ないと言えば仕方ないが、もう少し上手くかみ合ってくれないものか、と思う部分もあるのが事実だ。

 …気が重い。




「…ニーシャ様。ウルタムス様がいらっしゃいました。」

「通して。」

「かしこまりました。」

 しかし俺の心象とは裏腹に、端的な言葉でアッサリとニーシャの部屋の扉は開く。中に通されてすぐ目に入ったのは、先程会った時の姿と同じ、ドレスで着飾ったニーシャであった。

 先程会ってからさほど時間も経っていないのだから当たり前と言えば当たり前だが、気になるのは奇妙なまでに口角が上がっているところであろうか。居住まいを正して椅子に座っている。


「……なんか、妙にニヤけてないか?」

「…そう見えますか?」

「見える。」


 俺の断言で、少しだけ口元を指で触るような仕草を見せてから、ニーシャはこちらに再度向き直る。やはり口角が少し上がっているように見えるが、今それを指摘しても仕方ないだろう。

 とりあえず少しだけ話して、怪しまれないうちに会場に戻るに限る。そう思ってニーシャの前に座ると、ニーシャが口を開いた。


「この度は私の誕生パーティにご出席いただき、ありがとうございます。」

「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。そして改めて、お誕生日おめでとうございます。幸多き一年とならんことをお祈りいたします。」

「ありがとうございます。…定例通りの挨拶は、この辺りでよろしいでしょうか?」

「……分かった。まぁ、他言無用でよろしく。」

「承りました。」

 俺の言葉にニーシャはそう返して目線を移すと、俺をこの部屋まで案内していた小間使いが部屋の外へと退出する。扉が閉まる音が小さく響いた後、ニーシャが口を開いた。


「…急な話とは言え、随分と酷いことをされました。」

「それは悪かったと思う。だがこっちもいきなりの話で、最善になるように話は通したつもりなんだ。」

「それは分かります。皇国からのお客様ともなれば、下手に放置してパーティに向かったことが明らかになった時には心象が悪くなりますから。」

「…そうだな。まぁ殿下も喜んではいたようだから、そっちは一段落付いたと見ていいんだが。…今後のことは、何か聞いてるのか?」


「概ね。どこかの貴族家をお父様が焚き付けて、ウルタムス様に決闘を申し込むように仕組んでいます。多分先程見かけた変な言いがかりが、それの端緒になるかと。」

「…そう言うことだな。先程公爵閣下が、俺の実力を見せつけた上で勝て、って俺に依頼して来た。…確認なんだが、公爵閣下を脅したって本当か?」

「脅してなんていませんよ?ただ、私としては希望に沿う生き方が目の前に提示されているのに、望まない生き方になびきたいとは思いませんので、お父様にお願いしただけです。」

「…脅したんだな。よく分かった。」


 俺の言葉に微笑を返すニーシャ。雰囲気は穏やかだが、まだ何か企んでいそうな部分は残っている。タダでこんなに寛大にふるまう程、貴族と言うのは単純ではない。被った迷惑は倍でも三倍でも取り立てようとするのも貴族の習性である。

 まぁそんなもんだ、と諦めつつも、さっさと確認するだけしてしまった方がいいんだろうな、などと言う思考で、次の確認をニーシャに投げかける。


「…今回、公爵閣下がニーシャのエスコートを俺に任せるつもりだったって話をほのめかされたんだが、詳しい話は聞いてるか?」

「えぇ。私が提案しました。今回私のエスコートをお父様から依頼することで、私の婚約扱いとウルタムス様の叙爵を結び付け、決闘騒ぎを大きくするためにと。」

「…やっぱりか。今回ルリミアーゼ殿下が来て、俺の手が塞がったから、仕方なくルリミアーゼ殿下の歓待に重点を置いたと。」

「そう言うことですね。事前に連絡さえいただけたなら、早めに手を打てたのですが。」


「…まぁ、殿下に悪気はないから。あまり根に持つな。」

「分かりました。その代わりと言っては何ですが。」

「…無理なことは言ってくれるなよ?」

「…大丈夫ですよ。無理なことを押し付ければ、私も心苦しいのは本当です。」




 ここまで来て、ようやくニーシャの表情が屈託のない微笑へと変わる。まぁ、大体そうだろうな、などと考えている間に、ニーシャの要望は固まったらしい。

「…そうですね。今日導師様が身に付けていた、妖精の形をした髪飾り。煌びやかで、導師様に似合った、素晴らしい魔道具だと思っています。」

「…そうだな。」

「あの魔道具、ウルタムス様が作ったというのは、本当ですか?」

「…そうだ。」


「でしたら、私にも同じような魔道具を贈ってくださると嬉しいです。」

「…分かった。ただ、材料がいつ手に入るか分からないぞ。デザートリザードの変異種は、そこまで頻繁に出るものじゃないからな。」

「お金の問題であれば、多少は援助できますよ?」

「…金貨で殴るのは好きじゃないんだがな…。まぁ、何かあったら公爵に相談させてもらう。」

「はい、お願いしますね。あと、可能であれば今からでもパーティをエスコートしてくださると嬉しいです。」


「それは流石に無理だ。ルリミアーゼ殿下の応対に時間を取られる。殿下がいろいろこっちに要望を投げてきてる現状、変に刺激すると、軽視されてると取られる可能性がある。」

「分かりました。では近いうちにお願いします。」

「…エスコートは確定かよ。」

「当然です。魔道具のお披露目もありますからね?」

「…実質的に魔道具作成の締切が設定されてるってのはどういうことなんだ?」

「そこは、婚約者の可愛いワガママと言うことで一つ。」


 ニーシャの言葉に溜息を吐く俺。結局こうなるのか、と思いつつも、ある程度の方針は定められた。婚約の話が現時点でどう転ぶか分からない状態ではあるが、ニーシャとしてはそこを動かすつもりはないのであろう。

 要は、ネルにだけ魔道具を贈るのはズルい、と言うことだ。婚約の話を公爵に半ば強制的に取り付けた今、交友関係から優遇しているネルだけでなく、自分もきちんと優遇しろ、と言うことらしい。


 ある程度のことは話を聞くつもりでいたが、やはり斜め上の方向に話は進んでいた。何がどうあって令嬢が当主を脅すような事態になるのやら、と言いたいことはあるが呑み込み、諦めと共に割り切る。

 ともあれ、押し付けられる課題が、魔道具の作成だけで済むなら御の字だろう。早めにデザートリザードの皮なり、適度な魔道具の素材に見当をつけておく必要はあるだろうな、と思いつつも、念のために確認の言葉を投げる。


「…魔道具の機能に、要望は?ネルの方は方針がはっきりしてたけど、お前のは何も指針がないんだが。」

「…うーん…そうですね…。導師様の魔道具は、どんな方針で作られたんですか?」

「…護身と、攻撃補助だな。魔道具自体が、ネルの魔法をいくつか保持できるようにしてある。…体質的にも立場的にも、色々とあるからな。」

「そうですか。…うーん、すぐには思いつきませんね。いつでもお茶が出せる、と言うのは少し使い勝手が悪そうですし。」

「なんだそのビックリ髪飾り。」


 俺の言葉にクスリと笑いつつも、ニーシャは少し悩んだ後に立ち上がる。

「やはり、また今度にしましょう。今でなくても間に合いますよね?」

「…早めに要望は固めてくれ。間に合わなくなる。」

「分かりました。では、変に長居しても怪しまれますから、会場に戻りましょうか。」

「そう言いつつさりげなくエスコートさせようとするな。公爵閣下と少し話して戻るから、先に会場に戻っててくれ。」

「…つれないですね。でも、可愛い婚約者の我儘を、少しくらい聞くことに罪はないと思いますよ?」

「まだ何も確定してないからな。叙爵も、婚約も。」


 というか、そもそも決闘すら正式には成立していない状態だ。投げつけられた手袋は俺に触れることなく床に落ちて、準男爵が身勝手に俺に対してわめき散らしたという事実だけが残っている。

 準男爵が誰を代理人に呼ぶのかも不明だが、決闘が成立していないことが広められると、あの準男爵はどのような顔をするのかだけは、少しだけ興味がある。


 まぁ、どの道この決闘騒ぎ、ろくでもないことになるんだろうなとは思うのだが。

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