第1話
第六章!
というか、何とかひねり出して書いて久々に見たら
見ない間に凄く評価増えてますね。
ありがたやありがたや。
これからも少しずつ頑張ります。よろしくお願いします。
「…今回の事件について、有意義な話が聞けたように思う。協力に感謝しよう。」
「ありがとうございます、男爵殿。」
「…今回導師殿との協力などと見られている事から、功績大と世間から持て囃されることも多かろうが、自らの責務に背かぬようにな。」
訳:導師殿と協力してたって事だから今回批判するのはやめておくけど、平民風情が調子に乗るなよ、下手なことしたら蹴落とすからな。
「ご配慮いただきありがとうございます。幸い平穏に仕事を進められていますので。」
訳:今は仕事しかしてないですよ。気にし過ぎです。
フン、とこちらの返答に鼻で笑うように返して去る貴族。俺は貴族が去ったのを確認すると、詰めていた息を吐いて次の仕事に取り掛かった。
王都で起こった、魔王襲撃から早五日。王都に近い領地を治める者が、続々と王都に集まっている。現時点で事態は収束しているのだが、領地に私兵を持ち、しかしそれを振るう機会のない小身の貴族からすれば、こういう事件の情報が届いた後、いかに素早く兵を出すことが出来るかと言う点で、王家への忠誠を示すチャンスに映るのだろう。
ただ、現時点で事態が収束している関係上、こういった派兵などの行動で得られる成果としての功績はない。運が良ければ、自分がいかに王家に忠誠を誓っているかを自分の上司、つまりは寄り親や王族に覚えてもらえるだけ。
それでは納得いかない、と燻る者が、事件発生時の情報収集のため、事情聴取や会談などと言う形で功績を挙げた者に接触するのも、よく見る光景だ。
貴族としてだの誇り高き忠誠を誓う者としてだのという名目で、手柄を挙げた英雄を自分の評価基準で散々に酷評するのも、いつものこと。自分ならもっと上手く立ち回れた、こんな時にすぐに動ける自分にこそあの人の立場は相応しい、などと言い、あわよくば他人の功績を自分のものにしようとする者が出るのも、いつものこと。
そして自身が酷評した者が、実は聞き知った情報以上の影響力を持った者だと後から知ると、手の平を返すようにゴマをすり始め、自分の最初の悪印象を何とか払拭しようとするのも、いつものことだ。
だからこそ、俺にとっては。
「いえいえ、私など所詮どこにでもいる魔術師の一人に過ぎませんから、そのような光栄な立場など分不相応ですよ。準子爵殿もつい先日、そうおっしゃられたではないですか。」
訳:調子に乗るなよ平民が、って二、三日前に脅しに来たばかりじゃないですか。そんな態度を取られるとちょっと気持ち悪いんですが?
「いやいやいや、私も忠誠心が逸り過ぎた結果、ついつい余計な事や厳しい言葉を放ってしまったところがあるのですよ。同じ忠誠心を持つ者同士、ここは広い目で見ていただけるとありがたいのです。」
訳:いやぁ、あの時は私も、大人の事情で素直に褒めることが出来なくてね。立場上謝れないけど、敵認定しないでよ。
こういう、支離滅裂な手の平返しを行う変な輩に、嫌と言うほど巡り合う機会となる。
というか、謝罪ですらないこの程度の申し入れを簡単に信じるヤツの気が知れない、などと常日頃言っている連中が、自分の発した言葉の意味に欠片も気付いていないのは滑稽だ。
襲撃事件の直後から、俺の元に貴族やその側近からの突然の面会申し入れが増えた。呪い師としての仕事の合間で対応は進めているのだが、仕事が進まないことに歯がゆい思いを浮かべながらの対応で目にすることが多いのが、この態度である。
初対面の貴族やその側近だと、平民が手柄を挙げたことについての、貴族からの洗礼となることが多い。言葉や態度は十人十色だが、それの示す意味は一つ。要は、平民が貴族より目立つようなことをするな、身の程をわきまえた振舞いをしろ、と言うことである。
そして初対面から二、三日経過すると、大体同じ者、もしくはその上役から、慰労などと言った名目で面会が申し込まれ、そこで初対面の時からは想像もできない讃嘆の声を受けるのだ。
情報が伝わるのが遅い、と言うことが、どれだけ物事の障害となるかが浮き彫りになる事柄でもあるし、正直なところ後から笑い話にすらできるレベルのパターン化された行動であるのだが。
はっきり言おう。俺を酷評しに来るような暇な人間が、こんなに多いとは思っても居なかった。
「まず、メイドが部屋にいるのに仕事しないことに、欠片も気付かないのが凄いよね。」
「そりゃ仕事しない王城雇いのメイドを誉められないだろう、貴族的には。」
「そりゃそうだけど。なんかもっと、こう、さぁ。」
「獅子身中の虫が自己紹介しに訪ねて来てくれるんだから、ネルがワザワザ矢面に立って無駄に敵認定される必要もないだろ。ネルが前に立ったら、噛み付きに来てくれなくなるしな。」
メイド服を着て部屋に居座るネルのぼやきに、そう返す。不貞腐れたような表情をするネルだが、ここばかりは俺が譲れない。
俺のような小物の所にまで事件の功労者を労いに来るような輩は、俺が知る限り、やる気があっても評価される功績がないか、功績を残すための努力を怠るようなやる気のない輩しかいない。
そんな輩が、押しも押されぬ大貴族や輝かしい実績を持つ英雄に肩を持たれる功労者を、大貴族や英雄の前で酷評するだろうか?当然のごとく否である。
普通であれば気に入らない人間に対しては、表立っては敵対しないよう振舞いつつも、陰口を叩きつつ噂を広めて人望を落とそうとするのが、功績を残せない貴族の手口である。
貴族という役割を担う者が、平民という役割にある人間に、評価と言う名目で八つ当たりを繰り返して、なぜ身代を大きくできると考えるのだろうか。ただの探索者であった頃はそんなヤツ本当に居るのかと疑問に思い、王宮雇いと言う立場になった今でも疑問に思う一節である。
ちなみにネルが今着ているメイド服は、断じて俺の趣味ではない。ネルがどこかから調達してきて、ここ数日俺の部屋に居座る際に着るようになっているものだ。多分背格好の似た小間使いから借りているのではなかろうか。ニーシャのものだと丈が合わないはずだし、ネルはニーシャと相性が悪い。
ついでに言うなら、何故ネルが俺の部屋に居座るかだが、魔族の襲撃事件から二日目の晩、ニーシャが俺にパーティへの招待状を持ってきたことに端を発する。要は、他の貴族家から粉をかけられていないか、直々に監視に来ているということだ。
この状況で俺向けの縁談が持ち込まれるとも思えなかったのだが、その目算が甘かったというのはここだけの話だ。王城への物資の持ち込みなどに携わる呪い師に取り入ることが魅力的に思えたのであろう、商人や魔術技師などといった平民を中心に見合い話を持ちかけてくることも多く、またおそらくそれに近いであろう、身内向きの歓待パーティへの招待も多数見受けられた。
まぁ流石に俺自身が平民と言うこともあって、貴族から縁談が舞い込むことがなかったのは幸いだろう。軒並み仕事や他の都合を理由に断った。こういう時の断り方は、残念である、と口では言いつつも、あえて次回以降へ持ちこされないように話すのがポイントだ。
相手側がどうしてもそういう流れに持っていきたいとか、あるいは察しが悪いかといった場合は是が非でも、と粘りに来るが、そういう輩の話は十中八九こちらの利益を勘案しないため、聞かない方がいい。
「それにしても、意識してなさすぎと言うか。…普通はもうちょっと話題の端にでも乗せるものじゃない?」
「そりゃ当然だろう。意識的にそう振舞わない限り、部屋にいるのがネルだってことに気が付かないよう、ネルに認識阻害をかけてるからな。」
「ちょっ!?…いつから!?」
「二日前から。俺の部屋にいる限りは阻害できるように色々細工して、ネル自身が意識から外れるようにした。」
「…何してんの。せっかく粉をかけられないようにしてるのに。」
「ネル自身が前に出てたら、当たり障りのない話題に移してから、ネルのいないところで持ちかけに来るだけだろ。これまでに作ってる細かい手柄で俺を警戒し始める人間もいるはずだし、今の時点で俺の敵になるであろう人間はキチンと見定めておく必要がある。」
「…調子に乗って貴族の縁談に乗ったりしない?」
「誰が申し込みに来るんだよ。雇いの役職持ちとは言え、平民だぞ、俺は。」
軽いやり取りの後、こちらを疑わし気に見てくるネルの目線を受け止めつつも、俺は俺の仕事を進める。書類の類はあらかた片付いたのだが、やはり面会や搬入確認の類の仕事には他の者が携わる関係上、数日でそこまで進むわけもない。
もう四、五日くらいは拘束されそうな目算にうんざりしつつ、確認した書類を端の方の箱の中に積む。積まれていた仕事の目途が立ちそうなところに少しだけ安堵して、お茶を入れ始めると珍しくネルが手伝いに来た。
「…終わったの?」
「ある程度、一段落。あとは明日以降、面会とかと搬入確認に四、五日くらいかな。」
「…それって、アッサリ片付かないの?」
「確認自体はすぐ終わる。大変なのはそれを運ぶ、衛士とか小間使いの人たち。俺が搬入を手伝うと、持ち込みに来たヤツが何するかわからないから、搬入中はそっちの応対と監視で手が塞がる感じだな。」
「んー…。そっか。」
「…ふと思ったが、王宮筆頭魔導師にして男爵家令嬢が、お茶淹れるのを手伝うとか凄い絵面だな。」
「ニーシャはいつもお茶淹れてるじゃない。私が淹れてたらそんなに変?」
「助かるけど、お茶を出すような肩書じゃないなって改めて思っただけだよ。」
「だったらニーシャは?現役で真面目に公爵家令嬢やってるけど。」
「意外にも、キチンと公爵家令嬢として迎え入れられたのが、割と最近らしくてな。小間使いとして働き始めてからなんだそうだ。家事全般は元々得意で、お茶淹れるのは好きなんだと。」
「あ、そうなの?…貴族家で学んだわけじゃないんだ。それであの味出せるって凄いね。」
「だな。ただお茶を淹れるだけでも、魔道具で淹れたお茶の味とは雲泥の差だからな」
一瞬、空いた時間をこうやってネルと話しつつ過ごすのも、ここ数日はよくあることとなっている。こういう時に貴族との面会が急に入り急いで場を整えるのも、ここ数日で見慣れた光景となってしまったのだが。
今回ノッカーを鳴らした相手は、意外な人物だった。
「よ、ウル。」
「…リディ?珍しいな、ワザワザ。」
「まぁ、ちょっとねー。あれ?久しぶり、ネリシア。」
「あ、リディアル?久しぶり。」
「なんでメイド服?」
「この服装なら、侍ってても不思議じゃないでしょ?」
「ウルの趣味か。仕えてくれるメイドを手籠めに…」
「外聞が悪いからやめてくれ。」
「あ、襲われる方が好みだったか?」
「なお悪いわ。何でそんなことになるんだよ。」
「お前ヘタレじゃん。もうちょっと積極的にいかないと襲われるぞ。」
「襲った方が良かった?」
「二人ともやめろ。考えてない訳じゃないから、もうちょっとタイミングを見極めさせてくれ。」
「猶予がなくなってくるから、心構えしとけよ、ウル。」
「?…どういうことだよ。」
リディとの軽いやり取りの最中の引っかかる台詞に言及すると、リディは肩をすくめつつもその話題を切り出す。
「しばらく前、皇国の姫君の留学打診に行っただろ?」
「あぁ、ルリミアーゼ殿下な。魔道具を渡した後横槍が入って、留学は棚上げって事になってたはずだけど。」
「そろそろ情勢が落ち着きそうだから、編入って形で来ることになりそうなんだ。多分何かない限り、卒業まで普通に王国で勉学に励む感じになると思う。」
「編入って、今の時期にか?焦らず来年に持ち越して、他の生徒と歩幅合わせた方がいいだろうに。」
「それなんだけど、王国でも皇国でも、国の勉強が肌に合わない人ってのが出始めるのがこの時期なんだよ。そういう人を集めて交換留学って形をとることで、適性を改めて確認するんだ。
相手の国の情報を労せず集める機会だから王国からも送るんだけど、皇国から王国に送られる人員にルリミアーゼ殿下が選ばれそうなんだよ。」
「あぁ、そう言うことか。ということは、俺に来る手紙の頻度が上がると。」
「違う違う。編入から二、三ヵ月ほどの間、御用聞きにウルを付けとくから、聞きたいことは何でも聞いてくれていいよ、って体勢で迎えようと思うから。」
「え?」
「あと、殿下の編入と同時期くらいに二人の勇者殿の短期編入も提案されたから、二人への対応もお願いすることになると思う。各種の魔術や魔術装導器官とかの教練について。」
「…は?」




