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目指せ楽隠居!埋火卿の暗闘記  作者: 九良道 千璃
第五章 行き交う打算
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12話

 ● ● ● 


「…姫様。いかがですか?」

「…うん。やっぱり、この拘束の魔術以外は外されてる。」

「…そうね。普通に動けないし魔術も使えないけど、アイツらに掛けられた呪術は跡形もない。…ちょっと信じがたいけど。」


「…そうですか。…いかがいたしますか?」

「いや、何言ってんのクヴァル。これだけの術士よ?隙見て連れ帰って、説得なり洗脳なりすれば、どれだけ助かるか!」

「…姉さん、これだけの解呪術を使う相手だよ?洗脳って、どうやるの?」

「…………それはまぁ、ほら。色々と手を変え品を変えて…。」

「現実的ではないですな。」

「うん。途中で絶対気付かれると思う。」


「……どうするの?」

「…まず、さっきの人は色々と事情を聞きたがってたのは分かったけど…、結局人族だから、魔人に対してどんな対応をするかがちょっと心配かな。最悪、事情を聞くだけ聞いて処分されかねないと思うけど…。」

「…そうですな。戦時の捕虜に近いものもあります。相手に良心を期待できるならあるいは、とは思いますが、通常は利用した後は処分、という形が多いかと。」


「……魔王を討つのに協力するって言って、勇者に同行するとか?」

「…それが一番いいのかな。あの人、術士として凄腕なのは分かったから、味方に引き込めるなら心強いけど、下手すると私たちでも手も足も出ない状態に追いやられる可能性を考えると…。」

「下手に近くに居るのも問題ですか。場合によっては私が前に出られる勇者相手の方が、姫様の安全を確保できますな。」

「…そうだよね。私個人が、今の魔王に因縁があるっていう感じで行こう。」


「…私たちは基本的に部下ってことで?」

「…そうですな。そこは取り繕わない方が自然でしょう。」

「うん。…二人とも、ありがとう。」


 ● ● ● 




 俺が闘技場を一望できる場所にたどり着いた時、事態はちょうど動き始めたところだった。

 中央に置かれた祭壇の付近と客席周囲には障壁が張られ、闘技場の祭壇と客席の間で、フードを被り、剣を持った魔人が一人、障壁を破ろうと魔術で攻撃を加えている。


 祭壇の前で障壁の魔術を使っているのはネル。祭壇のある中央付近に、魔王討伐パーティメンバーの候補者が集まり、敵の出方を窺っている。無駄な被害が出ていないということは、おそらく今回発生するであろう襲撃情報の共有を、他の誰かが行ったということだろう。

 そこは大いに助かるが、今の状況は非常にマズい。ネル一人の手に、周囲の防御と魔人の相手、二つの負担がかかっている状態だ。魔人の魔力容量は、基本的に人族の魔力容量の数倍はあるとされている。今撃たれている魔術の威力はそこまで強くもないが、この状況が続けばどの道ネルの魔力が先に尽きるだろうことは容易に想像がつく。




 参戦する必要はあると考え、俺は即座に隠蔽の魔術を行使。ネルの張った障壁の魔術に干渉すると一瞬障壁の強度が強まったが、すぐに俺の魔力であると気付いたのか、闘技場内に貼られた障壁の内、観客側の障壁が弱くなるのを感じた。

 即座に観客側の障壁に干渉し、俺の魔力を送って強度を保持。観客側の障壁の制御がネルから俺に移ったのを感じたので、即座に怠惰なるレイジーエレ精霊たちメンタラーズを起動。魔力の供与を新たにしてから障壁を組み替えて、俺は闘技場に踏み込んだ。


 隠蔽の魔術の影響で、魔人は俺に気付いていないまま、ネルのいる闘技場中央の障壁に向かって魔術を立て続けに放っている。俺は魔人の背後に回り、挑発のためか口を開きかけた魔人に、炎の魔術を撃ちこんだ。

 俺の魔術は魔人の腹部を貫き、爆ぜる。隠蔽の魔術が解けるのを感じつつ、次の魔術に備えていると、魔人がこちらを憎々しげに睨みつけ、挑発の言葉を発し始めた。


「チッ。…ホントウザい種族だな。後ろから刺さないと戦えないのか?」

「自分より能力の劣った種族相手に、奇襲や不意打ちでしか成果を上げられないよりはマシだな。一人の相手に精一杯で、二人に増えたら弱音を吐くのか?」

「…そんな訳ねーだろ。お前らくらいなら俺一人で十分だ。」

「なら弱音を吐いてくれるなよ?既に退路は断った。お仲間の後を追え。」


 そう言って氷の魔術で槍を作り出し、続けざまに再度同規模の炎の魔術を放つ。相手が大げさに躱したのを見計らって槍を握り、身体能力強化の魔術を使って飛び出した。

 さすがに殴り掛かってくるとは思っていなかったのだろう。繰り出される氷の槍による連撃を躱す魔人からは、先程魔術を躱した時の大げさな余裕は無くなっている。

 直後にネルの魔力を感知。相手が距離を取ろうとした瞬間に合わせて槍を投擲し、魔術として炸裂させる。辛うじて軽傷というレベルの負傷を負った魔人を、ネルの放った雷撃が呑み込んだ。


雷槍サンダーランス!」

「なっ!?」




 魔人の驚愕の声と共にネルの下から雷霆の音が轟き、魔術に呑まれた魔人が剣を手放して倒れる。起き上がろうとする魔人を視野に入れつつ、近付いてきたネルと言葉を交わす。

「…ウル、向こうは?」

「…拘束してしばらくしてから、呪いっぽいのが起動したから解除して来た。…例の魔道具、他に魔人がいるか感知出来てるか?」

「…ううん、無理。片付けられちゃったのか、儀式が始まる頃には魔道具を認識できなくなっちゃって。」

「分かった。拘束して、さっきの三人と併せて尋問だな。」

「…だよね。」


「クッソ!クソクソクソォ!フザけてんじゃねぇよクソがぁ!!」


 ネルとの応対の間にやっと起き上がった魔人は、いきなりそんな声を上げる。相手の魔力は尽きていないであろうことから警戒していると、魔人は懐からナイフを取り出して自分の掌に突き刺した。

 呪術の類を起動しようとしていると察し、即座に行動を阻止しようと炎の矢の魔術を放つも、相手はナイフの刺さった掌を掲げ、何らかの呪術効果を起動。炎の矢は禍々しい魔力に呑まれ、一瞬で消え去る。


 警戒する俺とネルだが、魔人がその口から次に吐き出したのは怨嗟の声。軽く挑発の意を込めて返してやると、すぐに相手は次の行動に移る。

「やっと出られると思ったらこんな役回りで、あんな女共に足を引っ張られるわ、もう最悪だよ。フザけてやってんのかよ、どいつもこいつも!使えねェなボケ共が!」

「…そうか、それは良かったな。お前たちの不和のおかげで、俺の仕事は楽になる。」

「知るかよ!もう全部吹っ飛んじまえよ!」


 叫ぶや否や、魔族はナイフの刺さったままの掌を自分の顔に、額に刃が刺さるのも構わず叩きつけた。すぐさま魔人の魔力が渦巻き、言葉にならぬ魔人の叫びと共に歪で異質な魔力が漏れ出てくる。相手の行動から、相手が使おうとしてるのは禁術の類だろう。

 漏れ出てきた異質な魔力は、先程三人の魔人に掛けられていた呪いから感じたものと同質だ、と気付いた瞬間には魔術が完成していた。即座にネルと共に障壁の魔術を新たに構築し、魔人を隔離する。




「――――――――――っ!!」


 叫び声。悲鳴だろうか。それとも断末魔の声だったのか。

 言葉ではない、嫌に耳に残る声が魔人から発せられ、魔力が渦を巻いて魔人に集まり、ふとした瞬間にその魔力が丸ごと沈み込んだ。


「っ!?」

 魔人の魔力が沈み込んだと感じられた瞬間、周囲の空間と共に魔人の周囲が丸ごと捻じ曲がり、渦巻くように無くなり始めた・・・・・・・。周囲に張ってある障壁も空間ごと根こそぎ引っ張られ、自分の魔力が強制的に維持できなくなっていくのを感じる。

 とっさに魔力を総動員、怠惰なるレイジーエレ精霊たちメンタラーズの魔力も使って障壁を維持しようとするが、ほとんど手ごたえがない。まるで、底のない穴に物を放り込んでいるかのような錯覚さえ覚える。ネルも俺の隣で、必死に障壁の魔術を維持しようとしていた。


 だが、俺とて伊達に呪いまじない師を名乗っているわけではない。即座に今目の前で起こっている現象を必死に解析する。

 現象としては、崩壊、いや、損失?…底が感じ取れないということは無理矢理魔術を起動させて、コストとしての部分を相手に向けることで魔術としている可能性が高い。

 禁術の類の、贄の供給が求められてるなら、贄を放り込めば満たされるだろうけど、それだと相手の魔術の完成を促進させるだけになる。この禁呪自体を何とか止める必要があるけど、発生源が術士の下にある以上、止めるのは至難。




 分析しながら怠惰なる精霊たちから供給される魔力で障壁を必死に維持し、相手の魔術効果が外に漏れ出ないようにしていたのだが、その状況の終焉は、意外な形でもたらされた。

慈愛のアフェクショ揺り籠ンクレイドル!」

 まず聞き覚えのある声での叫びと共に、沈み込んでいた一帯が、別種の強力な障壁で堅固に固定され。

救いの呼び声コールオブリリーフ!」

 別の聞き覚えのある声での叫びの直後、今発生した障壁の内側に強力な光が満たされ、禍々しい魔力が一瞬で消え去っていく。数秒の後に光が収まったころには、先程の魔人も、禍々しい魔力もその痕跡も、残らず消え去っていた。


 ネルと顔を見合わせ、それを成した者を確認しようと振り返ると。

「…おぉ、聖剣の契約ってスゲーんだなぁ。てか、マジでつえぇ。」

「えっと、大丈夫ですか、ネリシアさん、ウルタムスさん?」

 そこに立っていたのは、魔王討伐パーティ参加候補として闘技場に詰めていた、ヴァルトとミルツ。しかしヴァルトの手には聖剣、ミルツの手には別種の神器であろう、長めの杖が握られている。


「…先程の魔術は、貴方方が?」

「…そうです。私の魔法で、相手の魔法を封じて…。」

「俺の魔法で、相手の攻撃を浄化しました。」

 俺の問いかけにはミルツ、次いでヴァルトが答える。


「ありがとうございます。お二人のおかげで助かりました。」

「いえ、運が良かっただけです。何事もなくてよかった。」

「あ、一旦治癒術をかけますから、一度皆さんと合流しましょう。お二人もこちらへ。」

 俺が二人に言葉を返すと、ヴァルトは謙遜し、ミルツの方はネルと俺を他の候補者の下へ連れて行こうとする。

 ネルと再度顔を見合わせ、今度は安堵の溜息を二人でいて、俺たちはミルツの先導に従った。


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