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目指せ楽隠居!埋火卿の暗闘記  作者: 九良道 千璃
第五章 行き交う打算
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1話

ごめんなさい。

色々身辺がごたごたとしてたのもあり

次の展開を考える時間が作れませんでした。


とりあえずやっと八割絞り出したので

二割ほどはちょっと考えつつ投下します。

 俺とネルが、王都に帰って早三日。俺は王城の俺の執務室で、仕事に忙殺されていた。

 まぁ、それも当然のことだろう。元勇者ヴィストの状況確認の任のため、王都を発って五日。それから開拓村に到着して、二日間ヴィストの監視、三日目に開拓村を出発して、五日後に王都に帰還。


 計十三日、俺の仕事が滞っていたということだ。王城への荷物搬入について、お決まり通りのものだけは軽いチェックだけで進むように取り計らってもらったが、呪いまじない師の直接確認が必要なものを、他の者が確認して通すわけにもいかない。

 結果として進まなかった十三日分の作業を、今日進める必要がある仕事と並行して進める必要があるということだ。普通に考えれば、いつもの倍動いても十三日は動きが鈍ってしまう計算になる。一日や二日で遅れを取り戻せるものではない。




 しかし、こういう業務での滞りは、そこまで大きい問題が出て来るわけではない場合もある。

 例えば何らかを企み、王城に何らかの不審な物を持ち込もうとしていた者や、王城にいる誰かに、何らかの干渉を行おうとしていた者。こういった輩が持っている物は、基本的に何らかの魔術的な痕跡が色濃いものも多いが、時間が経つとその痕跡と共に魔術効果が発散し、狙った効果を保持し得なくなる場合も多い。


 そうなると狙ったタイミングで狙った効果を発揮し得ないことになり、王城になんらかの物を持ち込むこと自体を、取り下げてくる場合が多いのだ。この期間を無視するようなものであれば、錬金術の類で持続的に効果を発揮できる物の割合が多く、むしろ発見が容易になってくる。

 痕跡を隠そうとすれば持ち込むタイミングが難しくなり、タイミングを狙う必要のない物となれば、市井に出回るモノは確実に俺の目に留まる。呪術などの人に害意を及ぼす魔法や魔道具が、扱い難くて効率が悪いと評される一端である。




「まぁ、ウルも大変だよね。」

「…色々あったからな。というか、ネルはそんな中でよくココに顔を出せるよな。」

「一応、一段落付いたから。承認が必要なモノって言っても、酷いものは私の所に来るまでにどこかで弾かれてるし、筆頭魔導師としての後輩への指導も、課題出してたからそれを確認するだけでよかったし。」

「…羨ましいことで。」


 俺の執務室に遊びに来たネルが、お茶を飲みながらそう話す。ネルの方はこの三日間で、王城に勤める軍所属の魔術士隊への指導も、筆頭魔導師としての各種確認書類も、ほとんどを処理できたらしい。

 事前に段取りを構えて、それをこなしているかどうかを確認するだけでいい立場と言うのは、素直に羨ましいものだ。




 元勇者ヴィストの魔人族への加担事件は、表向きには先日、ネルの手柄として処理された。ヴィストは秘密裏に反逆罪として、アルタルという探索者は、表向きには王国軍への協力を要請し、従軍中に発生した不幸な事故により帰らぬ者となったと処理されている。

 リディの命により王都を発った王国軍五千は、半数はそのまま開拓村へ向かった後、ネルが処理した二万超の軍勢の状況検分調査を、もう半数は例の開拓村北にある丘陵地帯以南の行軍を想定した、遠征演習を行うことになった。


 場合によっては今回のような即座の出撃が必要となるかもしれないことについて、ラスティエル卿が発案したらしい。今後の平穏のためにも色々と大変だろうが、頑張って欲しい。

 まぁ、そのための王宮からの支援物資としての食糧輸送任務に関する書類で、俺の仕事が増えたことについては辟易してしまうが、状況が状況なので仕方ない事だろう。




 魔人族の従える軍、二万超を吹っ飛ばしたネルについては、王宮から素直に称賛され、魔王討伐パーティ参加候補となることが決定された。流石に同じことをできる者など、どんな大口を叩く者でも証明しようがないのだし、優れた魔術士としては仕方がない事だろうと思う。

 ネルも悲喜交々こもごもと言ったところで、色々と悩んでいるらしい。景気付けに魔道具の一つでも贈れば、少しは気晴らしになるだろうかと思っているところである。


 それに同行した俺の方はと言うと、そんなに話題になっていたわけでもない。試作型の通信用小型魔道具は、魔道具ギルドとの共同研究の試作品として魔道具ギルドに技術協力のため提供(無理矢理徴発)され、魔人族軍の展開に関する情報提供は、転生者ミルツが先立って行った情報提供の裏付けとして処理された。

 結局魔道具ギルドとしても、王宮雇いとは言え市井の魔術士に後れを取ることはプライドが許さなかったらしい。一応「魔道具ギルドとの共同研究」という建前を取ることで、俺自身が魔道具を作ること自体に制限が課せられることはなくなったが、下手に動けば色々と魔道具ギルドの上層部からは睨まれそうな展開となっている。俺に関して言ってしまえば、こういう展開はいつものことなのだが。




 転生者ミルツについては、同じく転生者ヴァルトと共に、現在体力作りのための従軍行動中である。先立っての情報提供で、二人は“マギア・テイル”のクエストを知っている者として秘密裏に重視されるようになったが、いかんせん二人は軍人と比して体力がある方ではなかった。

 魔力で体力をカバーするタイプの術士に共通することだが、魔力切れが行動停止に直結することから、長期戦となると魔力切れを恐れるあまり役立たずになってしまう場合も多い。過去にも体力に欠けることから魔王討伐パーティに入れず、結局最後まで武勲を立てることがなかった転生者もいるらしいから、彼らがそうならないように、ということだろう。


 結果として、魔王討伐パーティへの参加候補者として目されるようになったものの、今後の行動に支障をきたさないため、従軍行動に慣れるという意味での任務である。ある程度体力作りに勤しみ、慣れてきたところで術士としての適性を判別すると、ラスティエル卿は言っていた。

 今回の従軍行動の後になってしまうが、転生者に対しての秘密裏に行われるサポートの一環として、魔導学院への入学も考えられているらしい。魔王討伐パーティに選抜されることがなくとも、おそらく王国の転生者として丁重に扱われるはずだ。

 彼らが知る“マギア・テイル”の情報については、今後彼らがどの程度我々に善意を持って接してくれるかによるのだから、少なくとも些末に扱われることはないだろう。




「ところで、小型通信機、いつになりそう?」

「…材料が足りないから、ちょっと待ってくれ。一週間ほどで届く予定だから。」

「…結構短くない?大丈夫なの?」

「今回の出立前に、他の用事で使うつもりで注文してたのを流用する。他にも色々作る予定だったからそっちの準備もあるけど、仕事も溜まってるしな。」

「…まぁ、あまり気負わずにね?後でも大丈夫だから。」

「…そうもいかないだろ。…何とか間に合わせる。」


 ネルが俺の部屋に居座っている、大半の理由がこれだ。もう二週間もすれば、ネルは魔王討伐任務のために王都を離れる予定となっており、それに小型通信機の制作を間に合わせて欲しいとのことらしい。

 既に勇者選定の儀まで五日。魔王討伐パーティの候補者も、多くは既に王都に集まるよう移動を始めている。フラスタリア連合からはサルビア姫、森の国フォミルからは治癒師ローヴァス卿が参加予定だ。皇国では候補者選定の儀にて、先代魔王討伐パーティメンバー“勇騎士”マルヴァ卿が「俺を超える者でなければ魔王討伐任務など務まらん!」と言い張り、大荒れとなっているそうだが、おそらくマルヴァ卿が再度メンバーに加わる形となるであろうと、ネル宛に連絡が来たらしい。


 現時点での有力候補としては、治癒師ローヴァス卿、魔術師ネル、斥候サルビア姫の三枠だろうか。騎士もしくは戦士として、ミカグラ卿、マルヴァ卿が候補となり、ヴァルト、ミルツの両名も候補として名を連ねる。あとは海国ジルトランからの候補だが、候補の一人は魔術師タイプだったらしく、ネルの参加を華々しい戦果と共に聞いて辞退方向で動いたそうで、残る候補の一人は皇国の候補者と合流し次第、王都に向かうとのことらしい。

 メンバーとしては確定枠が全員後衛型であるのに対し、前衛寄りのメンバーが不確定であるのが気にかかるくらいで、出立までの時間でしっかり連携が出来るよう、擦り合わせられるかが問題となるはず。




 俺の魔道具作成が間に合うか否かが少し問題なだけで、勇者選定と魔王討伐パーティ出立自体に問題が発生するわけでもない、と思ってはいたのだが。

「…まぁそんな感じで、十日くらいである程度目途が立つはずだから、目途が立ったら連絡入れるよ。」

「うーん…。悪いけど、用事はもう一つあってね?」

「……なんだ?」

「…ローヴァスが、ウルとちょっと話がしたいって。内密に。」

 …厄介事の気がするんだが、気のせいだよな?


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