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目指せ楽隠居!埋火卿の暗闘記  作者: 九良道 千璃
第四章 繋がる手と離れる手
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14話

「…お久しぶりです。…アルタル殿、と呼んだ方が?」

「…えぇ、お願いします。少し場所を移したいのですが、構いませんか?」

「ご案内くださるのであれば、問題ありません。何分、不慣れな旅の中ですので。」

「…はい。では、少し歩きますが、こちらへ。」


 ヴィストの協力者側の戦力に関する偵察が進んだ日の翌日。ギルドの受付の女性に話を聞き、ヴィストが話し合いを受け入れるつもりであろうことを確認。ギルドの待合場で待っていると、少し朝の喧騒も収まったころに、ヴィストがやって来た。念のため、使っている偽名の方で挨拶を済ませると、場所を移す提案が来たので、快諾。

 ここに来るまでの時点で、ヴィストは例の女性と接触を持ち、ある程度の誘い込み手順について話し合っていたことも確認している。案の定、村の西側にしばらく歩いた先、開けた場所に出て、ヴィストは足を止めた。周りは少し不自然に雑草が刈られており、その先に色々と仕込みがされているのが分かる。


 とりあえず、そこまで脅威とはならない立ち位置は確保している。一番怖いのは、ヴィストから事情を聴き出しきる前に、敵がヴィストごと俺たちを狙ってくることなのだが、そこはある程度問題ないだろう。

 念のため防音の魔法陣を展開するとヴィストが訝し気に睨んできたが、ヴィストの名前を外に漏らさなくするための、防音の魔法陣と説明すると、理解したようだ。




「…何を展開したんですか?」

「念のため、防音の魔法陣を展開しました。ヴィスト殿の名を、今の時点であまり表に出すおつもりではないのでしょう?」

「…分かりました。…配慮に、感謝します。」


「さて。…改めまして、お久しぶりです。呪いまじない師のウルタムスです。」

「…王宮筆頭魔導師、ネリシアです。今回も、顔合わせのために来ました。」

「…お久しぶりです、呪い師殿。…ネルも、久しぶり。」

「先日はご希望に沿う協力をできず、申し訳ありませんでした。なにぶん私の一存では、色々と手の及ばぬことでして。」

「いえ…。呪い師殿のお話から、色々と学ばせていただきましたから。」


 ヴィストの口は相当堅い様子だ。まぁ、これから起こることを考えると、まともに話しても意味がないし、気もそぞろといった心境だろうか。

 既に日は高いが、辺りに人影はない。遠目に木がまばらに立つ程度の平原で、上っ面だけの話し合いは進む。


「そう言ってくださると、こちらとしても助かります。…今は元の名を隠して活動していらっしゃる様子ですが、元の名を名乗るつもりは、今後おありなのでしょうか?」

「…いえ。正直なところ、もうヴィストの名を名乗ろうとは、思わないかな、とは思っています。」

「…そうですか。それは残念です。」


「…なにか、話し合いたいことが、あったんじゃないですか?」

「…えぇ。ヴィスト殿は、魔王出現の神託が布達されたことは、ご存じですか?」

「…一応、噂話には聞いたかな、と。」

「その件に関して、先代魔王討伐を成した元魔王討伐パーティの方々に一度連絡を取り、再度の魔王討伐に赴いていただく気が、おありなのかを確認しております。

 ヴィスト殿だけ、早期に連絡が取れませんでしたので、少し遅れてしまいましたが。」


「…そう、ですか。…今はどの程度、集まっているんですか?」

「…現在は、連絡を待っている状態ですね。ただ、既に武闘大会の開催は行われ、勇者候補となる方の選定は、いくつかの国で進んでいる状態です。

 早期に連絡をくださった方ですと、治癒師ローヴァス殿が快諾してくださっています。」

「…そうか。…新しいメンバーは、どうなっているんだ?」

「…現時点で、騎士団から一人、衛兵隊から一人が候補となっています。ただ、他の国との職の兼ね合いもありますから、勇者選定に伴い、ある程度向き不向きを考慮しつつ、パーティが確定する形となりそうですが。」




 ヴィストの問いに対し、ある程度ぼんやりとした答え方をして、魔王討伐パーティに関する詳細な情報ははぐらかす。

 ヴィストはその話を聞いた後、改めて不参加を表明。ネルと話そうとするが、ネルは露骨に不機嫌そうな態度で返した。

 そんなに嫌か。まぁ、これから仕掛けられることを思えば仕方ないが。


「…分かりました。でも、すみません。おそらく俺は、魔王討伐パーティには入らないと思います。ヴィストの名でも、アルタルの名でも。」

「……そうですか。かしこまりました。残念ですが、王宮にはそのようにお伝えします。」


「…足を運んでくれたところで悪いとは思うのですが、少し、お話させていただいていいですか?」

「…えぇ、構いませんよ。」

「…呪い師殿ではなく、ネルと、なんですが。」

「………何?ヴィスト。」


 ネルに言葉をかけられた後、ヴィストはネルに歩み寄り、ひざまずくと手をネルに差し出し、声をかけ始めた。

「ネル。いや、ネリシア・ラ・マリルターゼ。結婚してくれ。俺はもう、お前なしには生きるための活力を見いだせないんだ。」

「……………。」

「お前のためなら、何でもしよう。魔王討伐に赴けというなら、先の言葉だって翻し、命を賭けよう。でもお前なしには、火の消えたような寂しい道しか、俺の目には映らないんだ。」

「………………。」

「…どうしても、応えてはくれないのか?」




「無理。…ウル、もういいよね?」

「え…?ちょっと待ってくれ、ネル!どうして!?」

「どうしても何も、ヴィストが何がしたいのか、サッパリ分からない。」

「………何が…?どういうことなんだ!ネリシア!」


「…ヴィスト殿。もうお話はお済ですか?」

「…お前か。お前が何かしたのか!?」

「何かしたとは人聞きの悪い。ではこちらからもお聞きましょう。今、ヴィスト殿は・・・・・・何をしましたか・・・・・・・?」


 ネルの端的な返答に戸惑うヴィストに俺が声をかけると、ヴィストは逆撫でされたかのように激昂し始める。しかし俺がそれに質問で返すと、舌打ちと共にヴィストは剣を抜いた。

 ヴィストの行動に一瞬先んじ、ネルと俺を守るように球形の障壁を展開すると、ヴィストが剣を抜くや否や、周囲から様々な魔術が飛び、障壁に弾かれて消える。苦虫を噛み潰すような表情でこちらを睨みつけるヴィストに、こちらから声をかける。


「返答がないようですので、こちらから解析結果をお話しします。

 あなたがこの場に我々を呼び出したのは、フルネームを呼ぶことで起動する、応答式の呪術の祭壇上に、我々をおびき寄せる必要があったため。

 フルネームを呼び、それに応答することで、言葉を交わした二人の間に契約を結び、言葉のやり取りと共に、徐々に契約を強くする。


 流石に求婚をダシにするとは思いませんでしたが、はっきりした応答を行う必要があるという点では、呪術の際にかける言葉としては間違っていない。

 そのため、あなたがこの呪術を起動する直前、私の方で呪術を解除しました。」

「…解除?…俺の補強した魔術を、解除した…!?」


「あぁ、変に力が篭っているかと思えば、ヴィスト殿の魔力で補強していたんですね。ですが残念ながら、元は繊細な呪術の効果を魔力でブーストしたからと言って、元の効果自体を解除不能になるわけではありませんよ。

 呪術に関して、呪い師の裏をかけるとお思いでしたか?」

「呪いに関して詳しい方が、居ると思っていなかったというのが正しいですね。」


 ヴィストに対しての挑発のつもりでかけた言葉に、ヴィストの後ろから言葉が返ってくる。そちらを見ると、ここ数日ヴィストに協力していた女性が、先日までと同じような小綺麗な格好でたたずんでいた。直接相対してすぐわかったが、魔力の質が明らかに魔人だ。




「…これは初めまして。アルタル・・・・殿のお知り合いでしょうか?」

「えぇ、お察しの通り、アルタル殿を援助している者です。」


「ウーマ!話が違うぞ!」

「…アルタル殿、相手がこちらの魔法への対策を持っていたのですから、上手くいかないのは当たり前です。こうなってしまえば、押し通すしかないかと。」


「…ヴィスト。その人がどういう人なのか、分かってるの?」

「……すまない、ネル。俺はもう、こうすることでしか生きられないんだ。」


 俺と魔人、ヴィストと魔人、ネルとヴィスト。場に漂う空気を張り詰めさせながら、四者がそれぞれに言葉を交わす。こちらを包囲している者の数が不明だが、ある程度場所の見当はつく。先程ヴィストが仕掛けた禁術に・・・必要な・・・祭壇・・を、こちらを包囲した者で囲っていなければ、祭壇自体が・・・・・有効に・・・働かない・・・・

 こちらの考えには気付かないまま、数で優っている優位性を匂わせつつ、ヴィストが口を開く。


「ネル、俺の傍に来て欲しい。立場は対等とはいかないかもしれないが、君のためなら、俺は何だってできる気がするんだ。」

「……ヴィスト。ヴィストのやりたかったことって、こういうこと?」

「…?…どういうことだ?」


「…私を武器や暴力で脅して、自分のいい様に扱おうとすることが、ヴィストのやりたかったことなの?」

「…違う。これは、俺が生きていくために必要なことなんだ。」

「生きていくために、私を脅すのが、ヴィストのやり方、ってことだよね。」

「…これは仕方ない事なんだ。ネルが俺の傍に来てくれさえすれば、こんなことはやらなくて済む。」


 その言葉で吹っ切れたのだろう。チラリとネルの方を見た俺に、ネルは頷く。障壁はそのままに俺が手元に魔法陣を展開すると、流石にこちらを警戒したのか一気に空気が張り詰めるが、ネルがその空気を破る。


「ヴィスト、ごめん。もうクリスみたいに、大目に見てられない。」

「…そうか。…残念だ。それじゃ、力ずくで押し通すしかないかな。」


「…それも無理だよ、ヴィスト。袋小路に陥ってるのは、私じゃなくて、ヴィストの方だから。」

「…どうかな?悪いけど、君たちを囲んでいるのは分かってるだろう?この状況で、俺たちに勝てると思ってるのか?」

「…勝てるよ。だよね、ウル?」


 話しかけられたことには驚いたが、別にやることは変わらない。既に報告として上げる予定の事を、口に出すだけだ。

 ネルが俺に話を振ったことにイラついたのであろう、剣呑な視線を俺に向けるヴィストに、俺は告げる。


「…ヴィスト・ラン。お前の、魔人族への協力行為を、王国への背信行為と見なす。今この時点において、王国隠密“断罪”の名の下に、反逆者ヴィスト・ラン、およびその協力者に対する、王国の庇護を剥奪する。」


「庇護を、剥奪?…そんなもので、今の状況を覆せるとでも?」

「ヴィスト、さっき言ってたよね。君のためなら何でもできる気がするって。」

 俺の言葉をあざけるような口調で返すヴィストに、ネルが声をかける。ネルに注意を向けたヴィスト、ヴィストの後ろで構えるウーマと呼ばれた魔族の女性、周囲でおそらく臨戦態勢を取ったであろう、魔族側の人員。その全てに降り注ぐように、その場全域の光量が上がる。

 ハッとしたような表情に変わるヴィストに、ネルは言葉を投げかけつつ、俺が手の上に展開した魔法陣に触れ、にこやかに笑った。


「私が何でもできるって思えるのは、少なくともヴィストの隣じゃないから。…炎破フレアバスター。」


 刹那、その場一帯の平原が白一色に染まった。

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