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目指せ楽隠居!埋火卿の暗闘記  作者: 九良道 千璃
第四章 繋がる手と離れる手
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9話

 探索者ギルドに依頼して得た情報によると、ヴィストらしき人物が、辺境の開拓村に現れたらしい。

 位置的には南の森、国境付近。クロークス公爵邸のある街、領都シーリアから、フラスタリア連合の方角に数日かけて移動した先にあるらしい。


 探索者ギルドで馬車を借り、数日かけて移動した先でギルドに寄って情報のすり合わせを行う。これを数回繰り返して最新の情報を得つつ、ヴィストの情報かどうかのすり合わせを行う。

 とりあえず聞いた限りだと、そこまで大きな差異はない程度だ。腕の立つ魔法剣士で、ギルドで即興のパーティを組むことも、探索者証すら作る気配もなく、一人で淡々と依頼をこなす。


 パーティの仲間であり妻でもあった、クリスの喪失がかなり響いているらしいが、ネルに聞いた限りだと女性関係には寛容な性格だったはずで、そこが少し気にかかる。

 妻を亡くして頭が冷えて、心境に変化があった、と言うことならありがたいのだが、探索者証すら作らないとなると、何かしら裏で動く必要が出てきている可能性も高い。


 それが王国に利するものであればいいのだが、可能性としては微妙なところだろう。万一の事態に備えて、早めに真意を確認しておくに越したことはない。

 そういう経緯でネルと二人で馬車の旅を始めて既に三日、と言う状態であるのだが、馬を走らせている間と言うのはなかなか暇なものである。




「それにしても、随分快適な旅だよね。歩かないでいいって、素晴らしい。」

「王都暮らしの出不精呪いまじない師が、旅慣れた雰囲気と共に徒歩で開拓村に入るなんて真似まね、出来る訳もないからな。省ける手間は省く。」

「それでも御者はいないんだね。」

「ギルドへの依頼も安くはなかったからな。少し節約。」

「そう言うのって、普通は専門の人に任せない?」

「こういう細かな依頼で専門の御者なんて、貴族くらいしか頼めないぞ。食料含めたコスト的にも倍近く増えるから、省けるところは省く。」


「それもそっか。でもウル、御者なんて出来たんだね?」

「探索者ギルドで少しの期間、簡単な手ほどきくらいはしてくれるんだよ。大型の魔物を倒した後、運べないなんてのも恥ずかしいから。」


「でも、前の依頼は?ホラ、同じクロークス公爵領内だけど、あの時は御者が付いてたよね?」

「あの時は公爵が、コストの部分をほとんど負担してくれてたんだよ。御者もクロークス公爵の手の者で、俺たちへの接し方も最低限くらいでいいと頼んだし。」

「あー、そうなんだ。」

「逆に、俺たちからあの人たちに、何か依頼するわけにもいかないからな。あっちは公爵家の家臣で、こっちは公爵家に連なる関係でもないから、普通は命令する、されるの関係にないし。」




 こんなことを暢気のんきに話せているのは、差し当たって街道沿いに進んでいる現状、魔物の出現がほとんどあり得ないものだからである。

 特に今は武闘大会で腕試しの後、腕を見込まれ雇われた新入りのトレーニングのため、衛兵隊や騎士団のみならず、各貴族のお抱えの武官も警邏けいらの任務を受けるため、かなりの人手が魔物狩りに費やされている。


 結果、出くわすと言っても精々が小型の野生動物や虫に類する魔物で、やろうと思えば魔術一発で仕留められる程の、脅威となりえない魔物しか出て来ない状態なのである。

 必然、暇を持て余したネルが御者をする俺に話しかけてくるのだが、俺とてそこまで忙しいわけでもない。ネルの相手の傍らに馬を動かす程度で、何とかなってしまう。


「それにしても、なんかこういう所で細かく便利な知識仕入れてるよね。」

「細かいところを人に頼めるほど裕福じゃないんだよ。貴族なら細かい部分を人に任せて、自分の専門分野に特化させられるから、やりやすいんだろうけど。」

「あー、確かにそういう部分あるよね。時々、いろんなところを極めてる人はいるけど。」

「まぁ、その辺りは向き不向きとか好みとか、つぎ込む情熱とか、色々あるからな。」


「…一家に一台ウルタムス?」

「切売りはちょっと勘弁してくれ」

「切売りじゃなくてこう、執事とか小間使いみたいな?」

「今とほとんど待遇変わらない気がするな。」

「お茶が飲みたいから入れてー。」

「旅先で無茶振りするなよ。馬車の上なんだし一旦止まらないとってコラ!目を塞ぐな!」

 平和な旅である。少なくとも、今のところは。




 ● ● ● 


「ヴァルト、いる?」

「いるぞー。」

「…ちょっと、鎧くらい片付けなよ。におうよ?」

「干してんだよ、しゃーねーだろ。鞄に入れたままだったら、付けるときもっと臭うんだよ。…で、なんだよ、話って?」


「結局、勇者ルートから外れちゃったし、どうするつもりなのかなって。」

「んー…。俺はしばらく様子見かな。勇者ルートのハードでないと、最初の魔族側の奇襲を防げー、っていうクエストなかったはずなんだよな。イージーだと、魔族側の奇襲発生は規定事項だけど、そこではミカグラが出撃しなかったはずだし。」


「あ、最初の奇襲で死ぬNPCじゃないんだ。」

「そそ。アイツ育てると早い段階で暗殺術とかメッチャ覚えるからすげー強いんだよな。RTAリアルタイムアタックの常連キャラだし。」

「んー、それだと、まだ勇者ルートに入れる可能性はあるって事?」


「そこは微妙かな。だけど聞いた限りだと、王国、皇国、森の国、海国、連合で一人ずつ候補と、あとは優秀な者を契約魔法で選定、って話あったろ?

 優秀な者をある程度選抜するなら、武闘大会でそこそこな成績残せてる俺らが選ばれる可能性も、ゼロではないし。」


「んー…ちょっとなー…。」

「なんだよ、何か気になることでもあんの?」

「…リディ殿下が結婚してるってところを考えると、ゲームとかアニメのルート基準で考えると、痛い目見るんじゃないかなって。」


「あー…。なんだ、そこまだ引き摺ってんのか。」

「引き摺るとかじゃなくて。ちょっとは警戒してよ。」

「わかってるよ、ゲームじゃないって。」

「そう言うことじゃなくて。ウルタムスが言ってたでしょ。この世界はマギア・テイルじゃないって。下手してNPCが死んでも、イベントが起こって生き返るわけじゃないから。」


「…あー…下手したら最初の奇襲が、ミカグラ出陣時に起こるかもってこと?」

「ありえないことじゃないと思うから、一応ミカグラに話しとく方がいい気がする。」

「あー、それだとラスティエルにも言っといたほうがいいよなー。男主人公だと最初の奇襲、先遣隊って形で出て死ぬのがラスティエルなんだよなぁ。」

「え?ウソ?」

「女主人公だと、先遣隊がミカグラで、魔王討伐パーティがラスティエルなんだよ。立場が変わるだけで、起こるイベントはあまり変わらないけど。」


「待って待って待って。それって、今起こってるクエストがハードルート準拠って可能性ない?」

「え、今起こってるのがハードルート準拠?んー…でも今の時点で、男主人公の勇者ルートイージーと変わらない感じなんだよな。ラスティエルが先遣隊に出て、ミカグラが魔王討伐パーティって。

 ルート確定クエストが出るのって最初の奇襲後だから、そこまでは訓練に専念でいいと思うけど。」


「んー…、私は一応、ミカグラに話だけでもしとく。」

「おー、わかった。俺はニーシャを落とす準備に入る。」

「…ホント巨乳好きな。」

「イヤイヤ、アレはもう無理でしょ。ゲームでもニーシャ派とルリミアーゼ派はスゲーんだから。特にニーシャは勇者ルートの場合フラグ立つタイミング早いから、ちょっと気合入れときたいんだよ。」

「ハイハイ、それじゃ。」


 ● ● ● 




 王都を出て二日目、クロークス公爵の領都シーリアに到着。クロークス公爵のご令息殿に挨拶に寄った後、探索者ギルドで情報を収集。その後、フラスタリア連合の方角へ三日ほど、村や町を経由して移動し、目的地となる開拓村へ到着した。

 総勢三百人と、それなりの規模の農村となっていることは聞いていたが、クロークス公爵のご令息の手腕が発揮されているのだろう。村の近くの畑に出ている者を数えると、それ以上の人員が村に住んでいるように感じた。

 馬車は村の入り口で預かる形のようで、預けた後に預かり証を受け取って徒歩でギルドに向かう。


「…ここに、ヴィストが住んでるの?」

「そう聞いてる。ヴィストの容姿、茶髪に碧眼、で合ってたっけ?」

「うん。服装を入れるなら、丈の長いマントかローブをよく使ってたかな。」

「そうなのか?ありがとう、助かる。」

 探索者ギルドの建物に入る前にヴィストの容姿についてネルに軽く確認し、建物に入る。無遠慮な視線が突き刺さる中、建物の中にいる者の顔を確認したが、見知った者が居たり、不自然に目線を逸らすものが居たりする訳でもない。

 そう簡単にはいかないか、と心中で嘆息しつつ、ギルドの受付に座る年配の女性の前に出る。




「新顔だね?ナッカの村にようこそ。見たとこ探索者だろ?依頼かい?」

「王都および王都探索者ギルド本部からの依頼への協力を願います。これが証明書です。」

「あれまぁ。ちょっと待っててね。こんなの初めてなもんでねぇ。」

「わかりました。」


 受付の女性に証明書を見せると、問い合わせのためだろう、少し奥の机で通信用の魔道具に何やら話しかけ始める。その間に再度、見渡せる範囲でギルド内にいる人間に目線を向けるが、どうやら大半はすでに俺たちへの興味を失っているようだ。

 改めて探っては見たが、魔道具の反応も、変装の魔術などの反応もなし。術士の反応も微弱で、駆け出しの連中が多いという印象が強い。


「…頭一つ抜けて目立ちそうだね。」

「…まともに混ざればな。」

 ネルと小声で話しているのは、当然ヴィストの事である。駆け出しの連中が多い中に凄腕の魔法剣士が混ざれば、否が応でも目立つ。

 ヴィストが実力を隠していないなら、腕の立つ魔法剣士、という荒い選別でも個人を特定可能な場合もある。ただし、実力を隠している場合であればそう簡単な話でもない。まぁ、もう一つ簡単な判別基準はあるから、そちらで特定できるならそれに越したことはないが。


 簡単に色々、進めばいいんだけどなぁ。

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