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目指せ楽隠居!埋火卿の暗闘記  作者: 九良道 千璃
第三章 影法師の鍔迫り合い
28/77

5話

 ● ● ● 


 学院の催事に関して監視者に挑戦する学生を確認。

 情報を再確認する限り、学院関係者に参加権はないが、

 挑戦を受ける義務はある模様。

 監視者の実力の確認を行う機会と推測。

 並行して侍女を利用し、各種の情報収集を行う予定。


 現在学院にて監視者に関連した情報を収集中。

 監視者は王太子殿下と偶然知己となった低位の貴族、と推測。

 在学中は特筆する能力に欠ける学生という印象は強かった模様。

 ただし教員の一人が、監視者の魔術装導器官の構成に助力したとの証言あり。

 その教員の下を王太子殿下が訪れており、監視者は王太子殿下と協力して

 魔術装導器官について研究していたことも確認。

 また、監視者の現職は王太子殿下と知己となった関係で

 得た職である旨を監視者自身も認めている。

 これに対しての補足情報の収集を行う予定。


 監視者の抱き込みについては成果なし。

 侍女が話しかけるなどして交流を図るも、

 護衛の任以上の交流について消極的な様子。

 異性に関しての対応を苦手としているとの申告上、

 積極的に会話を行える状態の者を増やす必要があると判断。

 場合により、私自身もしくは同行の機会の多い侍女との

 直接交流から抱き込みを図る予定。


 現在侍女により街中の情報を収集するも、魔道具に関する情報なし。

 王城内部への潜入を試みるも王国の影の者による妨害に遭い失敗。

 王城内部の情報収集のため、宵としての活動許可を求む。


 ● ● ● 


 宵としての活動は現時点では許可しない。

 王城潜入失敗の報を共有するため、宵の活動可否についての決を待つこと。

 また王太子殿下との交流がある人物であれば、抱き込んで損はないと判断。

 監視者の補足情報の収集および抱き込みに関する諸提案を了承する。


 ● ● ● 




 サルビア殿下の傍付きたちの活動が活発になってきた。仕事に慣れ、余裕が出てきて、休みを取りやすくなったのであろうとのことだが、王城にいる隠密の探知に傍付きの者たちが引っかかることが多い。

 俺が王城に設置した侵入者対策用の魔道具がことごとく反応するようで、王城の内部に潜入してくることは全て防いでいるが、なかなか根気強く潜入の動きを繰り返しているようだ。これでは王城にいる影に属する者たちも、しばらく気が休まりはしないだろう。


 そんな中、サルビア殿下は少し大人しくはなっている。学院での魔術戦の申し込みの影響か、そこそこ鍛錬に打ち込む機会が増えてはいるのだが、魔術戦の経験者ということで、俺に魔術戦のコツや実際に戦った時の経験談、学院であった出来事など、事細かに色々と質問などを重ねるようになった。

 魔術戦に熱心なのはありがたいことだが、おそらくそれに伴って俺に関する情報を調べ上げて、何らかの攻略の手掛かりにする方向であろうとの推測が立っているため、そこまで突っ込んだ質問にならないようはぐらかしているつもりだが、なかなか諦めが悪い様子である。


 また、先日殿下と共に観劇に同行したシゼルという傍付きが、次の観劇はいつになりそうか、との内容で話しかけてくることも多くなった。こちらも、今はサルビア殿下の魔術戦対策やそれに伴う修練が続いているので、しばらくは難しいのではないかとはぐらかしており、場合によってはお忍びで外出するタイミングをサルビア殿下と相談した方がいいのではないかとは伝えておいた。

 実際のところ現時点で、連休まであと二週間程度という時期である。気を引き締め続けるには長すぎ、かつ良い成績を収めるための修練を詰め込むには短すぎる期間でもあるので、ある程度修練の目途が立ち次第、息抜きに出かけるというのもありだろうとは思う。




 問題なのは、サルビア殿下が引き受ける魔術戦と、俺が引き受ける魔術戦の数である。殿下の方はここ数日でさらに一人からの挑戦を受け、計四戦の予定が決まっているのだが。

 サルビア殿下の護衛という形で付いている俺が、そこそこ親密な態度で殿下やその傍付きと接し、魔術戦に対する特訓などを行っている様子から、変な噂が広まっているらしい。


 サルビア殿下は、最低でも俺を超える腕前を持つ術士としか、関係を築きたくないようだ、との噂である。必然、彼女に想いを寄せるような者や、彼女とお近付きになりたい者などのふるいとして俺が機能する形となり、俺に挑戦が相次いでしまうという状態だ。

 彼女の護衛という表向きの理由から考えれば別段変な状態でもないのだが、何かしらの作為を感じてしまうような状態に陥りつつある。


 現時点で俺への魔術戦挑戦者の数が十。魔術戦はまともに戦うと一戦あたりにかかる戦闘時間が大体十分から十五分程度なので、概ね二時間程度、休憩なども挟むと概ね三時間程度、俺は魔術戦場に釘付けされる形になってしまっている。

 まぁ、彼女がどういう戦いをするかによるが、彼女に魔術戦を挑むのであれば、彼女自身が他のことに首を突っ込む余裕はなくなるであろう、と思っていた俺は甘かった。


「え?適当な方と一応一回戦ったら、以降の戦いは全てウルタムス様に、代理をお願いしたいと思っていますよ?魔術戦の代理は私の場合、ウルタムス様にお願いするのであれば問題ありませんでしたよね?」

「…サルビア殿下。学院に関わる者として、魔術の実戦に関われる機会などそうそうないのですから、学びの機会から逃げるような態度は好ましくありませんが?」

「それでも、私個人ではなく、私の肩書に惹かれている者も多いのは事実ですから。ウルタムス様が活躍してくだされば私も嬉しいですし、実戦を見て学ぶいい機会ということで、魔術戦自体は私も立ち会いますよ?」

「…それなら構いません。殿下はあくまで、魔術学院の生徒なのですから、魔術を学ぶ機会から逃げるようなそぶりを見せたら、護衛として連れ戻させていただきます。」

「大丈夫ですよ。ウルタムス様のことは信頼してますから。」

 なかなかに油断ならないようで嘆かわしい限りである。




 しかし魔導学院の生徒としては、こういうルールをきちんと把握し、ルールの穴を堂々と突くくらいでなければ、上位の魔術師として実戦投入した際に役に立たない場合が多いのも事実なのだ。

 理論と実践は違うというのは、実戦に臨むに当たっての理解度のみを表すものではなく、実戦に臨む際に、いかに的確に自身が置かれた状況を把握し、いかに効率的に振舞うか、という点も加味されてくる。現に、護衛に戦闘を任せてはいけない、というルールがないという理由で、サルビア殿下は俺に自身の魔術戦を任せている。


 これが実際に実戦に投入されていれば、相手の気付いていないルールを利用するという意味で、相手に対して大きなアドバンテージを得ることも可能なのだ。悪用などもしやすい知識ではあるが、この程度の裏をかく行為は、例えば相手が善意を装っている場合でも相手の出方を予想する際に大いに役に立つ。

 やはりある程度学があると、相手するのも大変だなぁ、などと思いつつ、俺は魔術戦に関する特訓を続けるのだった。




 ● ● ● 


 学院の催事における魔術戦に関して、魔術戦の代理受諾制度を利用し

 監視者が魔術戦を行うことに同意させることに成功。

 しかし監視者は魔術戦を、教育の場の一つと考慮している感触あり。

 魔術戦を押し付けるにあたり、監視者に申し込まれたものも含め、

 当日は私自身が監視者と行動する必要あり。

 情報収集は侍女を主体としたものとなる予定。


 監視者は才能には欠けるものの、

 現職に就くだけの技量は保持していることが判明。

 訓練中の挙動を見る限り、

 高性能の魔術装導器官の運用を行っていることを確認。

 監視者の実際の戦闘能力はかなり高いと推測。

 訓練に際しての技量の確認は、これ以上は困難と推測。


 侍女を動かすことによる抱き込みも難航。

 先日動かした侍女から直接交流の機会の増加を図るも、

 私自身の魔術戦の特訓を加味し、私自身の教育の邪魔とならない程度の

 スケジュール運用を相談された模様。

 ただしそれ以降については実際の習熟度や、

 訓練に対する集中力の維持など、各種の調整に即した予定立案を任され、

 結果的に監視者との交流の機会増加に至っておらず。

 これについては引き続き侍女からの接触の機会増加を試行する。


 監視者に関する情報について、侍女からの情報更新なし。

 現時点で収集可能な情報については収集し終えたと推測。

 私個人として監視者自身は徳の高い人物と認識しており、

 特筆した才能に欠けるが、信頼に当たる人物と認識。

 王太子殿下の信頼を得ている点としては、忠誠心にあつく誠実な点、

 細かい不足点に気付き悪意を察知する知性を有する点が挙げられる。

 貴族的な知識にはやや弱い点が見受けられるが、

 表舞台に立たなければ問題がない程度であるため、

 王太子殿下を支える立場としては非常に盤石な位置を占めていると推測。

 また任務には忠実であり、乞われた際には細かな点を指摘しつつ、

 今後の知識を身に付けるにあたっての注意点なども併せた指導を行うことから、

 相手の信頼を得る術には長けている模様。

 現在様々な点から情報収集を行うも、

 徳の高い人物であることを裏付ける情報が多く、

 これ以上の情報収集は意味をなさない可能性も高いと推測。

 ただし護衛としての立ち居振舞いを崩さない点も多かったことから、

 護衛としての対応が必要とならない場合についての

 情報収集に当たる機会が不足している可能性あり。

 さらなる情報収集は必要と推測。


 各種魔道具に関する情報収集は進展なし。

 各種情報収集に当たり宵としての活動許可を求む。


 ● ● ● 


 宵としての活動を許可する。

 最優先事項は王国のネリシア導師に贈られた魔道具に関する情報、

 次いで皇国のルリミアーゼ殿下に贈られた魔道具に関する情報。

 監視者または王太子殿下に関する補足情報などは適宜。

 詳細については一任する。


 ● ● ● 

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