2話
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王国王都に到着。体調などに懸念点なし。
懇意にしている公爵閣下の使者が寮までの案内に就く。
聞けば学院に通っていたとのことだが、特筆すべき才能には欠ける模様。
皇国の魔道具についての情報なし。
王国の魔道具についての伝聞情報として、以下の機能を保持している模様。
・使用者の魔力残量により光り方もしくは色が変化
・込められた魔法の魔力質により光り方もしくは色が変化
(なお、込められたと表現することから、ある程度術者の意志で魔道具に宿す魔法を変更することも可能と類推)
作成者のついての情報なし。
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フラスタリア連合の姫を案内して三日目。俺が彼女の護衛および監視として付けられた。護衛および監視って何だ。そういうのは衛士とか騎士の領分だろう。
公爵閣下からの手紙に書いてあるのは王宮からの命であるということのみで詳細が分からず、結局リディに詳しい話を聞くと、どうやら例のご令嬢は何やら学院であれこれと嗅ぎまわっているらしく、危なっかしいので見ておいてくれ、とのことだ。
まぁ、学院は身分差などの対応に関して、ある程度礼節を欠きさえしなければ変に問題になることもない。身分差が問題にならないわけではないが、学院の教育の一環として、自分の身分をわきまえた行動をとる必要性を学ばせるために、身分を元にした必要最低限の礼儀は守るように学院が取り決め、生徒側に自制を促している。
しかし、身分差に関してある程度鷹揚であるとはいえ、それは生徒間の話。学生とて自身が社会に出れば、貴族という身分以上に敬意を払う対象が存在することを学ぶ必要があるため、教師などの学院関係者と学生で身分差があるからと、学生が学院関係者に身分を振りかざす行動をとれば即座に処罰対象とみなされる。友好国のご令嬢であるとはいえ、留学生であればその辺りの対応は普通の学生と変わらない。
リディが言うところによると、彼女はある程度煙に巻くような言い回しをすることでうやむやにしているらしいが、かなり身分差を押し出したごり押しを多用しているとのことだ。教員も辟易しているらしく、このままでは学院の規則に抵触して、連合との関係が悪化しかねない。
彼女の身分を守るとともに、ある程度学院の規則に抵触しないよう、抑えておいてくれ、とのことだ。場合によっては実力行使する必要もあるかもしれないと伝えたが、事後報告でも伝えてくれれば大丈夫、との許可は下りた。
「お久しぶりです。改めまして先日王宮から、護衛の任を賜りました、ウルタムスです。しばらくの間つけるとのことなので、よろしくお願いします。」
「あら、そんな気を使っていただかなくても構いませんのに。でも、色々と確認を取れるという意味では、ありがたいかもしれませんね。何かあったら相談させてください。」
「かしこまりました。私にできる範囲であれば。」
ということで、朝一で顔合わせである。傍付きの方々には連絡が入っているらしく、基本的に彼女が部屋で大人しくしている分には彼女の対応をすべてお願いするということで話がついた。これについては当然だろうし、さすがに女性の身辺の世話は、俺の手には余る。
俺の仕事は、彼女が部屋の外に出た場合に、彼女に危害を及ぼさせないための護衛、かつ彼女が学院の規則に抵触しないよう、彼女の行動を制限すること。
しかし。しかしである。
「ここから先は立ち入り禁止区域です。ご遠慮ください。」
「あら?教育に関係する場所への立ち入りを制限するのであれば、友好国の留学生に対する教育に、やましいことがあると喧伝しているようなものですよ?」
「生徒である以上、学生に許された行動をとるものです。王族であるからと言って王権を振りかざすのは、大人気ないと分かるでしょう?」
「あら、そうですね。ご迷惑をおかけしてすみません。やはり興味があることにはついのめりこむような体勢をとってしまう性分でして。」
「いえ、学生である以上、どんどん学んでいただければと思っていますから。」
出立早々これである。初日と二日目でどれだけの被害が出たのか、考えるだけで恐ろしい。いくら魅力的な容姿をしているからと言って、大目に見るとかなりの痛手を負うであろう。
こうなると、傍付きである者たちも何らかの捜索や調査の指示を受けている可能性を考えないといけない。まぁ、流石に生徒関係者とはいえ使用人が自由に動いて学院の警備が反応しないわけでもないからその線は薄いだろうが、念には念を入れておく必要はある。
まだ授業すら始まっていない学院の施設で、見て回れるところと言えば、同好会やクラブ活動などをしている場所や、図書館などの生徒が利用できる場所程度である。
施設に関してはある程度大まかに案内と説明をした上で、護衛開始から数日は彼女の護衛として学院施設の案内と、俺自身が学院生活をしていた際に起こった出来事などを色々と話していった。
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活動に制限。王宮より護衛と称し、先日の公爵閣下の使者が私の監視に付く。
情報収集に赴くも、学生の行動範囲外に出ることを許されず。
傍付きを使用した情報収集も衛士により活動を制限され、収穫なし。
宵としての活動許可を求む。
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宵としての活動は当面許可しない。
監視者の権限の範囲内での情報収集に務めよ。
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「舞台、ですか?」
「えぇ、学院内は見て回ったと思いますし、学院の始業まではまだ時間があるのでしょう?ならば、少し前から気になっていた、劇の鑑賞に行きたいんです。」
「それは良いですね。殿下はどんな劇に興味がおありですか?」
「確か、王国で一番人気があるのは、魔王討伐を題材にした劇でしたよね?でも最近だと、皇国の姫が巻き込まれた陰謀論と英雄のお話も興味があります。」
「そうですね、良さそうです。あと最近できたお話で言いますと、亡国の亡霊によって力を増して襲ってきた魔人を、導師様が撃退した、というお話もありますよ。」
「それも楽しそうですね。導師様が魔人を撃退したなんて、本当の話なんでしょうか。」
「私としては推測するしかありませんが、魔人を討伐したかは定かでありませんけど、導師様が最近、強力な敵と戦って勝利を収めた、という噂はありましたからね。」
「そうなんですね。そうなると、導師様が付けていて噂になった魔道具って、その騒動の報酬だったんでしょうか?」
「かもしれませんね。そんな噂になるほどの魔道具をつけていたということは、魔人の出現もあながち嘘ではないのかもしれません。」
「そうですよね、そうなりますよね。どんな活躍なんでしょう。」
「観劇について、席を確認いたしますね。場合によってはお忍びで観劇に行きましょう。」
「お忍びって、きちんとした席の方がよろしいのではないですか?」
「学院が始まるまでに席が取れるとは限りませんし、護衛が増えると、身動きがとり辛くなりますからね。きちんとした席を取るとなると、殿下のご身分から護衛は必須ですから。」
「あぁ、そうでしたね。護衛の方は頼もしいですけど、付いてくださったからには、少し気を使いたいですし。でも、よろしいのですか?ウルタムス様からすれば、私の護衛を増やしてもらった方が安心できるのでは?」
「私としては是が非でも護衛をつけていただきたいですが、観劇にそこまで興味がおありなら、やはり学院が始まるまでには一度見ていただきたい劇ですから。ここ数ヵ月で広まった劇ですけど、学院に通う貴族なら一度見たという者も多いですし、学院が始まるまでに見ているかどうかで、交友関係も変わってくると思います。」
「そうなんですね。そうなると気を使わなくていいお忍びというのも、悪くないかもしれません。」
護衛および監視の任について数日後。サルビア殿下から観劇に行きたいという提案を受けた。俺としては怪しまれない程度であれば動いてもらっても構わないのだが、護衛が護衛として動けるかどうかが不安だ。
先日俺が護衛の任に就いてから、衛士から殿下の傍付きが学院で妙な動きをしているとの報告が上がり、警戒態勢は強めてもらったところだ。結果として当面傍付きは動けないと見ていいから、警戒すべきは殿下本人のみだろう。
サルビア殿下と傍付きが同時に動くことを警戒するなら、いっそ殿下と傍付き達を分断してしまった方が、連携は取り辛くなる。場合によっては殿下をお忍びと称し連れ出すことで、王宮に内緒で殿下を連れ出すという体裁を取り、殿下の護衛としての信頼関係を彼女に対して築くことで、今後やりやすくなるかもしれない。
殿下にお忍びの外出について提案すると、快く受け入れてもらえそうな感触を得る。やはり護衛という形で何らかの制限がつくのは好ましくなさそうで、比較的自由に動ける立場というのは喜ばしいようだ。
こちらからお忍びでの外出を提案した以上、無理に推していい席が取れても、お忍びでの外出を強行される可能性もある。そこは状況次第ではあるが、比較的影響が少ない行動をとってくれることを祈るばかりだ。




