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目指せ楽隠居!埋火卿の暗闘記  作者: 九良道 千璃
第二章 皇国の呪い
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12話

 結局、俺の護衛としての役割は概ねそこで終わった。


 その後は少しバタバタと過ぎ去ったが、運よく三つ目のオアシスで咲いているサバクハスの花を魔道具に写すことに成功し、俺と殿下と護衛の騎士三人は皇宮へ戻り、皇帝陛下へと報告した。皇帝陛下に報告した際、皇帝陛下の方は驚いていたが、皇后陛下はにこやかに対応したのみで、どういうことかと思ったものだ。

 後から情報収集する所によれば、変な商人が皇宮近くをうろついている旨が皇后陛下の耳に入り、何かしら対処する必要があるとのことで、ルリミアーゼ殿下を囮にあぶり出しをかけるつもりだったようだ。


 不幸にも相手が予想以上の規模の戦力を持つ、後ろ暗い連中を後押しする商会だったということで、皇宮の方で兵を集めていたところだったが、俺が対処に回ることで皇宮が動くことは避けられたとのことだ。

 皇后陛下としては、場合によって娘を傷付けることにもなりかねなかった事態に冷や汗をかきつつも、娘を傷付けずに済んだ安堵が大半、皇帝の権力を示すいい機会だったとの落胆が多少という感じだったようで、後日丁寧なお礼の手紙と、報酬代わりの贈り物が届いた。




 今回騒ぎを起こした商会、ベルクール商会というのは、浮浪者支援という名目で身なりの悪い者を抱え込み、商会の人間として使える者を育て上げるという形で様々に名を馳せていたようだ。

 しかしその影響で敵対する者を闇討ちするような連中に事欠かず、また外聞の悪い黒魔術師や暗殺者などを抱え込むことで、皇国で影とも呼べる表に出ない集団からもいくらかの依頼を受けることもある集団だったらしい。

 皇宮でもそういう集団を従える存在というのはいるのだが、その指示や命令に全く従わない連中の代表格だったようで、しばらくは外聞の悪い話が皇国の影から出ることはないであろうと、皇后陛下からの手紙に添える形で書いてあった。




 べルクール商会は、今回の事態で壊滅した。会長は俺の魔術で自失状態、副会長は俺の魔術で囚われた後、ちょっと・・・・俺に協力してもらってから皇宮の衛士などに引き渡され、今は罪人として扱われているそうだ。

 ベルクール商会に従っていた人員だが、外聞の悪い連中と結託し、余罪の追及などで労役に処されるものが六割ほど、まともな商会の一員として貢献し始めた者が一割。残りについては皇宮の命の下、処分されたそうだ。


 少なくとも副会長の指示を受けて俺に襲い掛かった者は、全て心を折られて降伏したらしい。まぁ、後味の悪い結末にはならなくてよかったと思う。

 一応呪術を使い、相手方の身内に関しては全員を捕捉しているし、その全てが皇宮の管理下に置かれていることから、皇宮もただ黙して関せずを決め込んでいたわけではないと分かって一安心である。




 誤算だった点はいくつかある。

 まず、俺がオアシスに先に向かうよう言い伝えておいたルリミアーゼ殿下と騎士三人だが、男性騎士が俺の身を案じたことを皮切りに、ルリミアーゼ殿下が強権を発動してその場に残ろうとしたらしく、かなり距離があったにしても、俺が武装集団や暗殺者たちと戦っている一部始終を見られていた。

 当然俺の奥の手についても知られたわけで、かなりの実力者であることが皇宮で噂となっているらしい。皇宮内では“砂煙の巨人”だの“蓮華の懐刀”だのと言う名で呼ばれているそうだ。戦いが終わった後、騎士たちには口止めしたはずなのだが、人の口に戸は立てられぬというやつであろう。


 ちなみに蓮華というのは、ルリミアーゼ殿下のあだ名の一つで、サバクハスを大好きな彼女にぴったりの可愛らしいあだ名だと思う。

 だが、別に俺は彼女の従者でもなければ、そもそも皇国の者でもない。外に出歩けるようになったのであるから、早く護衛を選出してあげて欲しいと俺は思っているのだが、彼女は頑なに護衛を置きたがらないようだ。

 まぁ、彼女は話によれば皇宮で働く方面で自身の進路を考えているようなので、ある程度名の通った腕利きをきちんと雇えるようになるまで、護衛はいらないのかもしれないが。




 次に誤算だった点は、ルリミアーゼ殿下だ。

 元々俺が皇宮に赴いた用事というのが、ルリミアーゼ殿下が王国に留学しに来るのかどうかの確認だったので、実際俺としては彼女に魔道具を渡した時点でお役御免だったはずなのだが、時々リディ経由で俺宛に、皇国から手紙が来るようになってしまった。


 王国で呪いまじない師として働く俺にとっては厄介なことなのだが、皇国でルリミアーゼ殿下が謎の組織に襲撃され、謎の英雄が彼女を護衛し襲撃を阻んだという噂は瞬く間に皇都中に広がったらしい。

 それをテーマに皇都の劇団が劇を作り、ルリミアーゼ殿下がそれをわざわざ見に行ったようで、様々な噂が飛び交うようになってしまったとのことだ。今皇宮はその協力者と親密な関係にあると密かに喧伝、権勢を強める方向で動いているらしい。


 その協力者に対して親密であるということをアピールすべく、ルリミアーゼ殿下自身すぐにでも王国へ留学に行きたいとの思いを明らかにしていたらしいが、襲撃を受けた直後にそういう訳にもいかないと皇宮で働く者から待ったがかかり、最低でも安全が確保されたと判断されるまでは留学がお預けとなってしまった。


 彼女が俺へと手紙をよこすようになったのも、その残念さを埋めるためというのもあるかもしれない。俺への手紙をきちんと王宮に届けることが、俺へのアピールにもなるということが手紙を託された使者に厳命されたようで、手紙を受け取ったリディは俺を私的に呼び出し、具体的にどういうことがあったのかを聞いてきた。

 さすがに隠すわけにもいかないので詳細についても話し、結局リディとミミィ殿下に大笑いされてしまったが、最終的に王宮で働く者として、キチンと応対するようにとの命を受けてしまった。


 皇国との関係はお前の腕にかかっているんだと言われたことは流石に冗談だろうと思うが、皇国の皇女との手紙のやり取りを王族以外、しかも王宮勤めとはいえ爵位を持たない者が表立ってする例はないであろうことは確かだ。絶対に嘘だとは言えない状況に陥ってしまっているので、非常に気が重い。




 ちなみに、サバクハスの花を模った彼女用の魔道具は、一度の作り直しを必要としてしまったが概ね好評で、サバクハスの花が彼女の髪に咲いたかのような造形から、既に皇国で噂になっているようだ。

 似たような魔道具自体は作れるらしいが、変異種のデザートリザードの鱗を調達するのが難しいらしい。デザートリザードの変異種の皮や鱗は、魔道具の素材としてはかなり優秀な方なので、高い金を払っても魔道具職人が買い占めようとしてしまうのだろう。


 先に俺が討伐したものの鱗や皮は、自身で使う量を確保した後に皇国の探索者ギルドに、依頼の完了手続きと同時に売り払ったので、俺自身が皇国で恨まれるようなことはないと思うが、皇国に行き辛くなったな、とは思う。

 俺が皇国に行くとしたらまず間違いなく探索者ギルド絡みなのだ。変異種のデザートリザードの依頼を確認しに行った時と、依頼の完了手続きの時の二回、複数の探索者に俺の顔を見られていることもある。ほどなくして例の噂が立ったとなれば、噂の当人とギルドを訪れた謎の人物の関連を疑う人間も出始めるだろう。

 デザートリザードの討伐は複数人でやることが前提となっている今、一人で討伐するなどと言う荒唐無稽な噂が立つこともないと思うが、しばらくは念には念を入れ、皇国には立ち入らないようにしようと思う。




 最後の誤算が、ネルである。

 当初、デザートリザードの変異種の討伐はそもそも彼女に贈る魔道具に使うために必要だったもので、彼女に贈った当初は喜んでくれたのだが、皇国との話がネルの耳に入るにつれ、俺が皇国の皇女に贈った魔道具が皇国で噂になっていることを知り、ヘソを曲げてしまった。


 実際、自分に贈られたものが、他者に贈られたもののオマケみたいに思えてしまったのが嫌だったのだろう。当初はネルの方がメインでルリミアーゼ殿下に贈ったものの方がオマケだと伝えても態度が変わらなかったため、リディに愚痴った結果、何かしら王宮で噂になるような装身具を贈れ、とのアドバイスを受け、手持ちに残してあった分のデザートリザードの変異種の鱗と皮、それと魔石を使い、彼女の二つ名である妖精を模って作った魔道具をプレゼントしている。

 リディに愚痴って得た結果であったが反響は上々で、すぐに王都中の噂となり、ネルの機嫌も相当よくなっていたのを覚えている。




 だがその後に噂になったのが、ルリミアーゼ殿下襲撃事件とそれに伴って広まった “蓮華の懐刀”の二つ名、そしてそれをモチーフにした劇である。

 当初は俺がネルに変なことに巻き込まれたと愚痴っており、まぁ仕方ないよ、などと俺をなだめる側に立っていたのだが、劇の内容が吟遊詩人など経由で広まり、また皇国の劇を見た王国の人間が広めたりしたことから劇の内容を知るに至り、劇中の“砂煙の巨人”が俺の剣装ソードシュラウドであることにすぐ気付いた。


 当初は俺を心配するそぶりもあったのだが、劇中で俺の立場を占めていた役が剣装ソードシュラウド展開後も倒れる描写すらなかった点から疑念を抱き、俺のもう一つの切り札である怠惰なるレイジーエレ精霊たちメンタラーズを白状せざるを得なかった。




 怠惰なるレイジーエレ精霊たちメンタラーズは、俺自身の固有魔法を汎用化した魔法で、その基本機能は相手の魔術および体術に干渉し、供給される魔力を簒奪、魔術そのものを弱体化もしくは無効化してしまうこと。

 基本的には俺が魔術を起動し、その魔術の射程に入った時点で効果対象となってしまうため、俺の魔術が欠片でも着弾した地点付近は、おおむね怠惰なるレイジーエレ精霊たちメンタラーズの効果範囲に入る。


 先日俺がネルに魔道具を贈る切っ掛けとなった、魔人二人の討伐任務の際も起動する準備はしていたのだが、敵の魔力供給源たる魔人が少数であったがために、魔力を一気に簒奪するに至らず、結局魔人が奥の手を出して逃げようとしたがために、剣装ソードシュラウドで一気に勝負を決することになった結果、使うこと自体がなかった術でもある。


 この事実が示す通り、一人からの簒奪において得られる魔力量自体は決して多くなく、とにかく時間をかける、回数をかけるなど、かなりの労力を仕込みの部分で費やす必要がある。

 しかしその効果は折り紙付きで、この魔術を起動した時点で、この魔術の効果範囲内において俺が魔力切れになることはなくなる。剣装ソードシュラウドですらも敵から強制的に魔力を簒奪することで維持し続けられるので、俺にとっては生命線ともいえる魔術でもある。


 加えてこの魔術効果の特性の一つに、敵からの解析を無効化するという点がある。起動してさえいれば、ありとあらゆる解析に費やす魔力すらも簒奪することから、起動したが最後、何が起こったのかを魔力的な解析で解き明かすことがほぼ不可能になるのだ。

 これは俺が王国の呪い師として雇われることになったことの一端で、例えば何らかの形で魔術での隠蔽操作を行う際、隠蔽者は必然的に魔力的な解析から逃れられないという一点があるのだが、怠惰なるレイジーエレ精霊たちメンタラーズはその範疇に入らず、結果として完璧な隠蔽が行えるようになるという別格の魔法だ。

 これはネルやルリミアーゼ殿下の魔道具にも仕込むことで、魔道具の機能を魔道具使用者の許可なく無効化することを防ぐ盾として機能させている。そのためあまり表立って使う気にはなれない、特別仕様の魔法である。




 だから正直、そもそも敵でもない相手の手札を探るのを止めてくれとは言っているのだが、ネルはなかなか納得せず、他に隠していることがないかを事あるごとに聞いてくる辺り、何かしら引っかかるところがあるのだろう。確かに俺自身隠していることはあるのだが、それとてネルにバレたら不味いものなのではなく、一般に公になってしまっては不味い類のものである。

 必然、守秘義務が課せられれば守る必要が出て来るだろうし、そこを聞かれても答えられないというのが現状だ。だから語れるところは極力、言える限りのことは言っているつもりなのだが。


「だから、魔道具を作るにあたって、皇帝陛下に、ルリミアーゼ殿下と一緒にサバクハスの花を見に行けばいい、って言われただけだよ。」

「フーン。…皇帝陛下ってそんな人なの?」

「…さぁ。ルリミアーゼ殿下は、いつものことだって言ってたな。」

「…むー。」


 不機嫌そうに唸る彼女だが、どうにも納得はいかないらしい。まぁ、正直俺としても事態を完全に理解しているとは言い難いところもあるが、嘘偽りない事実なのだから信じてほしいとも思う。

 だからルリミアーゼ殿下に返事の手紙を書くのを、絶妙に邪魔するようなタイミングで話しかけてくるのはやめて欲しいものだ。

第二章、完!

あとでちょっとした補足をUPします。

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