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目指せ楽隠居!埋火卿の暗闘記  作者: 九良道 千璃
第二章 皇国の呪い
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8話

 サバクハスの花は春先ごろに咲く、薄い青色から紫色の花なのだそうだ。サバクハスという名に聞き覚えがなかったということから予想はしていたが、どうやら元々は水辺に生息するハスが、砂漠地帯のオアシスに根付いた固有種という扱いを受けているらしい。

 中には食用としてギルドに採集依頼が出されている種もあるとのことだが、そういう種は花の色が元々のハスの色に近く、種としても固有とは言えないそうだ。

 そして主にサバクハスとして観賞用に喜ばれているのが、主に根や茎に藍色に近い色が入っているもの。なんでも砂漠近くの土の成分の影響でこの色が出ているらしく、他の地域で似た育て方をしてもすぐに花の青色が薄くなってしまうので、濃い青色をした花ほど喜ばれるとのことだ。


 そしてルリミアーゼ殿下は、自身の瞳の色に似た色を持つこの花の絵姿に感銘を受け、絵姿を写した魔道具を大事に保管しているらしい。しかし自身の体質の影響で直接サバクハスを見たこともない。

 親としては是非見せてあげたいが、皇国皇帝としてそういうことに兵を出せば、実の子供を甘やかしていると取られかねず、なかなか踏み切れなかったとのことらしい。俺の立場は殿下が外出することを誤魔化す身代わり、兼万が一の時の護衛だろう。




 ルリミアーゼ殿下がサバクハスを見たことがない、という話を聞いた時に感じた率直な感想は、それはそうだろうな、というものだ。

 まず、砂漠という時点でルリミアーゼ殿下にとっては無茶苦茶だろう。砂漠の気温は普通に暮らしていると想像しにくいが、熱を遮る存在が一切ないため、寒暖の差が非常に激しい。探索者時代に一度デザートリザードを狩りに行ったときなども、真昼間に踏み入ろうとした瞬間あまりの暑さにアッサリ断念し、夜に踏み入るよう予定を変更したにも関わらず、夜の時点で王都の夏を彷彿とさせる暑さを感じたことを覚えている。

 聞いた話だが、冬になるとこの暑さが嘘のように、氷まで見ることができるようになるという辺り、少なくとも俺は砂漠地帯で生きていける気がしなくなったのも仕方ないことだろう。俺でも躊躇する環境にルリミアーゼ殿下が耐えられるかと聞かれて、無理だろう以外の答えは返せない。


 加えて砂漠地帯にすむ魔物は表皮がやたらと硬いものが多く、またサイズ的にも大きいものが多いのだ。聞くところによれば水分が肌から逃げるのを防ぐためと聞くが、一番多いのは硬い鱗や分厚い表皮に覆われた蛇やトカゲに近い魔物、次いで固い外骨格を持つ昆虫や節足動物などに近い魔物とのことだ。さらに体格差を覆す必要が出てくる関係か、体格に劣る魔物には毒を活用するものも多い。

 コツをつかめば楽に狩れる魔物も多いらしいが、さすがにそういう魔物だけ狩れればいいという訳ではないだろう。難敵を倒すことが名誉として最初に挙げられる者の代表格たる探索者としては、その町近くに居る倒しにくい魔物を倒してこそ、その町付近で生きて行けるようになるという部分もある。




 今回は皇女たるルリミアーゼ殿下および俺の護衛として三人の騎士がつくとのことで、さすがにルリミアーゼ殿下のみに何かを負担させるということもないらしいが、護衛として付けられている者全員が砂漠の移動に慣れているという訳でもないらしく、今回俺とルリミアーゼ殿下の護衛として付けられた騎士の内、女性一人と男性一人は砂漠の移動に慣れているらしいが、女性騎士の一人はまだ砂漠の移動に慣れているとは言い難いようで、砂漠の任務に慣れる目的で付けられたらしい。

 皇国の騎士としては、俺の監視兼護衛という意味で男性一人を付けてくれたらしいのだが、春先という今の時期柄、そこまで苦労はしないという判断で、全員にルリミアーゼ殿下の護衛という形で動いてもらって構わないと伝えたところだ。俺としても、デザートリザードの変異種を討伐するにあたり、一人で動かせてもらえる立場にあった方が楽という部分もある。


 目下一番の心配事は、サバクハスが咲いているかどうかだ。いかに生息地がオアシスとはいえ、ハスの花が咲いている期間というのは非常に短いらしい。

 時期的にはそろそろ咲いている頃だということなので、今回は皇都と道がつながっている近場のオアシスを馬車で回る予定である。咲いている花がいくつか見つかれば運が良かった方、場合によっては魔道具による写し絵を見ながら作業してほしい、という話を皇帝陛下より頂いているので、そこは仕方ないと思うことにする。




「申し訳ありません、殿下。急に決まったことですが、両陛下と巡る方が良かったのではないかとも愚考いたします。」

「いえ、お父様の事ですから仕方ありません。おそらくサバクハスの件は、本当にただ思いついただけでしょうから。」

 走る馬車の中にて、ルリミアーゼ殿下と言葉を交わす。こちらとしては気を使う必要があるが、ルリミアーゼ殿下の方はそこまで気負ってもいないようだった。殿下は現在、ネルと同じように露出を極力抑える服装と、つばの広い帽子を身にまとっている。動きやすいよう肩から垂らすようにまとめられた髪には、つい昨日渡した花の飾りを模した魔道具が飾り付けられていた。


 結果的に、ネル用の魔道具を殿下用に調整するにあたり、そこまで手の込んだことをしたわけではない。殿下の魔道具を調整する際に気付く限り、殿下はネルに比べて体質的に弱いわけではなさそうで、調整と言っても大半の時間は、機能についての説明と注意事項を伝えるだけで済んでいる。

 やはりこれまで出来なかったことが出来るようになったという一点は非常に喜ばしいものだったようで、皇帝陛下も皇后陛下も、感極まったように声に感傷をにじませていた。


 しかし比較的というだけで対策が要らなくなるわけではない上、殿下の魔力の保持量は常人の基準値より少し多い程度で、魔術師として立つことは不可能だろう。殿下が表舞台に正式に立つことを前提に魔道具を準備しようと考えると、魔石をいくつか連結して魔力容量を多めに確保する必要と、紛失などの事故への対策をいくつか盛り込んでおく必要があり、魔道具としては多少大きめのものとなってしまうだろうと予想している。

 現実的には装飾品として扱える大きさにするために、髪飾りとネックレスというように二つ以上に分けた方がいいだろうが、そこはサバクハスの花を見ながらどうするかを考えることにしたい。




「サバクハスの花についてなのですが、開花期間が短いとか。殿下はこれまで実物を見たことはなかったのですか?」

「えぇ。これまで私が外に出ることが出来なかったということもあるのですが、サバクハスの花は咲いている期間が短く、元々水の中にある根から茎と葉が長く伸びているという形状から、花だけを切り取っても一日と経たずに萎れてしまい、咲いているところを直接見るか、絵姿に収める以外で見るというのは難しい植物なのです。


 しかし、その希少性から人気はあるので、サバクハスを他の場所でも育てたいという要望は強いらしく、数年前からサバクハスをオアシスで大規模に育てようという話が、皇帝陛下によって出された市場活性化施策の一環としてあったのです。

 今回、そのサバクハスを大規模に育てているオアシスを巡るという形だそうですし、今は花が咲く時期みたいです。皇宮の衛士が昨日オアシスに早馬を出して確認した限りですと、一輪くらいは咲いているところを見られるだろうとの話があったようで、私も楽しみにしております。」

「そうでしたか。私も今後の魔道具作りの参考にさせていただきます。あまりに美しい花だと、気後れしてしまうかもしれませんが。」

「私としても非常に楽しみです。気に入らない部分は細かに指摘しますので、納得のいく作品に仕上げてくださいね?」

「気に入ってもらえるよう尽力いたします。」




 これまでは望んでも叶わなかったであろう事柄、しかも自分の大好きな物事に、直接触れることが出来るかもしれないという興奮であろう。殿下は非常に上機嫌で、様々なことを馬車で話してくれた。皇族の常のやり取りなど普通は願っても聞けないのだから、いい土産話にはなりそうだ。


 確かリディの世間話を覚えている限りだと、自分の妹と皇国の皇太子殿下のやり取りはなかなか微笑ましく良好だ、くらいでしかなかったが、ルリミアーゼ殿下の耳に入る情報では、最初皇太子殿下は年が離れているせいか、そこまで乗り気ではなかったようだ。

 しかし王女殿下が様々な話題に触れ、様々な話や考えを皇太子殿下にもたらすという新鮮さが徐々に皇太子殿下を惹きつけていったらしく、今では表面上これまでと変わらない態度をとっていても、手紙が届けばすぐに読もうとする、今までは明らかに遠ざけようとしていた態度がいつの間にやら気遣いに富んだものになっているなど、ルリミアーゼ殿下の目からは非常に好ましいやり取りも増えていたようだ。

 メイドの間ではもう婚約も既に秒読みなのではないかという噂が飛び交い、皇帝陛下がいつ皇太子殿下に婚約についての話を持ちかけるかと期待しつつ事態の推移を見つめているらしい。


 そんなやり取りをしつつ最初のオアシスに到着したが、残念ながらここでは咲いている花を見つけることはできなかった。

 しかし、このオアシスの近くはどうやら、デザートリザードの変異種を最初に発見した地域に近かったらしい。ちょうど馬車の整備に少し時間がかかるらしいとの話を受けたので、宿泊施設の部屋を借りて殿下にその部屋で休んでもらい、付けられた護衛の騎士三人に殿下の護衛をお願いして、俺はオアシスに住む住人に、デザートリザードの変異種についての話を聞くことにした。

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