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目指せ楽隠居!埋火卿の暗闘記  作者: 九良道 千璃
第二章 皇国の呪い
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7話

「…どのようにすれば、その意思を確認できると、お考えでしょうか?」

 皇宮にてルリミアーゼ殿下、皇帝陛下、皇后陛下の三者を前に、魔道具を渡すに際しての条件を伝えた後。しばらくの沈黙の後、ルリミアーゼ殿下がそう口を開いた。


「…私が皇国に滞在する予定のうち数日間を使い、魔道具がルリミアーゼ殿下に合うように調整を行う必要があると、今は考えております。ルリミアーゼ殿下にはその期間の内に、魔道具の調整に必要な処理を行っていただきたいです。」

「その処理というのは、具体的に何ですか?」

「…魔道具をつけて外に出向き、体調や肌の状態を確認し、魔道具の効果から漏れている部分がないかなどについてご確認いただく、というものです。」


 皇帝陛下と皇后陛下に反応はない。ルリミアーゼ殿下の質問に答えないわけにもいかず、自身の想定している予定を話す。先に皇帝陛下が魔道具の効果を確認したいと言っていた件もあるが、皇帝陛下はアルビノではない。魔道具の性能調整とその確認は、主にルリミアーゼ殿下でなければ不可能だろう。

 皇国が独自に魔道具を作って殿下に渡すなら、その確認作業が必要になるのはおそらく数年後以降。さらにそこから俺の指摘した悪意に対する万全の防衛機構をと考えれば、そこからさらに年単位の時間がかかる。ルリミアーゼ殿下の事を考えるなら俺の魔道具を調整して身に付けるのが早いが、そこは皇帝陛下に判断してもらう。




「先程お父様が、呪いまじない師様が作った魔道具ではなく、皇国の作った魔道具で事足りるのではないか、ということについて、確認させていただいたと思います。呪い師様に、皇国にて魔道具作成にご助力いただくことについては、どのようにお考えですか?」

「失礼ながら、王国で作られたものと同種の魔道具を皇国の魔道具職人が作るために、王国の呪い師の協力が必要となるということは、皇国の魔道具製造技術が王国のそれに劣ると喧伝するようなものにございます。王国出身の者としてそのような事態を招くことは望んでおりませんので、私の魔道具に信用がないということでしたら、ルリミアーゼ殿下が無事留学なされることを祈りつつ、速やかに王国へ帰還させていただきます。


 ただ、これから魔道具の開発に着手したとしても、実用段階に至るまでに最低数年はかかると予想しており、その場合はルリミアーゼ殿下の留学の機会を逃すことにもなりかねません。ルリミアーゼ殿下にとってこの魔道具はすぐにでも必要だと思うのであれば、殿下に両陛下を説得していただく必要が出てくる可能性もある、と考えております。」


 これは多少意地悪かつ、若干セールストーク的な会話だが、地を這い泥水を啜ると先程俺が評した通りに、殿下自らが被るリスクを恐れず、求めていることに対して手を伸ばすことを、殿下に示してもらうことの練習だ。自分が欲しいものを手に入れるためには、自身が骨を折る必要があるのだということをきちんと学ぶいい機会である。

 加えて魔道具職人に限らず、他人なら出来ることが自分に出来ないと思われた場合、職人としては自身の矜持に傷がつき、場合によっては変に恨みを買いかねない。俺としては皇国の魔道具職人の恨みを買いに皇国に来たのではないのだから、皇国の魔道具職人が魔道具作成に尽力するのであれば、心置きなく手を引かせてもらいたい。




「…わかりました。魔道具の調整に協力いたします。他にご助力が必要な場合は、私に可能な限り援助させていただきます。」

「まぁ待ちなさい、ルリミアーゼ。いかに“天魔の炎精”殿と同じ魔道具を献上いただけるとはいえ、お前が使うにあたって危険がないか、まずは試してもらわないといかん。」

 しばらくの沈黙の後、ルリミアーゼ殿下は先程までの儚げな声はそのままに、しかしキッパリと言い放ち、その言葉にすかさず皇帝陛下が口を挟む。率直に言うと何かしら企んでいそうな印象を感じる話し方であるため、前もって何かしら打ち合わせしていたのかとも思ってしまうが、少なくとも現時点では魔道具を拒否される方向には進まないと見ていいだろう。


「さて、ウルタムス君。くだんの魔道具を、私に渡してもらえないかね?こちらで確認の後、ルリミアーゼに渡そう。」

「かしこまりました。…こちらの魔道具をお渡しいたします。デザインこそ同一ではありませんが、こちらにネリシア導師に渡したものと同じ術式を込め、魔道具として起動させております。一時的に髪留めを模らせていただきましたが、ルリミアーゼ殿下のご要望があれば調整の際にお申し付けください。」

 皇帝が一呼吸を置いて語りかけてきたため、俺は応対しつつ渡す予定の魔道具を掌に載せ、皇帝陛下に差し出す。それを受け取る皇帝陛下だが、俺が下がるとおもむろに自分の髪にそれをつけた。硬直する周囲をよそに、皇帝陛下は周囲を見渡しつつ口を開く。


「ふむ。…身に付けてみた感じ、大して変化はないな。これは既に魔道具として起動しているのかな?」

「…起動はしていますが、それは本来、日向で最も効果を発揮する魔道具です。今は部屋の中ですし、カーテンも閉め切っている状態ですから、全く変化はないかと。」

「そうなのか。そうなると機能の確認のためには日向に行かねばならぬな。皆、付いてまいれ。あぁ、ルリミアーゼ。無理はしなくていいからな?」

「…お父様。ご自重なさいませ。呪い師様も驚いていらっしゃいます。」

「そうですよ陛下。ただでさえ女の子向けに可愛らしい花の形の髪飾りに仕上げてくださっているのを、何の断りもなくご自分でつけるなど、唐突に過ぎます。ウルタムスさんとて花の髪飾りを身に付けた陛下を見たいわけでもないでしょうに。」

 皇帝陛下の確認に辛うじて返すと、それに追随しルリミアーゼ殿下と皇后陛下が陛下に対して苦言を呈し始めてしまったが、俺が気にしている部分とは少し差があるようだ。もしかしてこれが素なのだろうか、この皇帝陛下。




「なに、唐突ではあるがちょうどいい。彼とて、煩わしく手間をかけさせられたくもないだろうと思ってな。」

「…そうお考えになる、根拠をお教えいただけますか?」

「難しい話ではない。例えば君が皇家に対しての発言権を得ようと考えていると仮定しよう。今回のような話で一番自然な流れとしては、影響を及ぼしたい者に魔道具を渡し、何らかの干渉を行う必要がある。今回は対象がルリミアーゼ、もしくはその側近の者だったという話だ。


 しかしながら、側近に干渉して徐々に影響力を増すより、影響力のある皇帝自身に干渉してしまった方が目的は達成しやすくなる。私はある程度、精神干渉に関する護身の魔道具を密かに身に付けている分、唐突に精神干渉を受けても耐えるか弾くかしてしまうから、検査をしたいという口実で唐突に重要拠点を攻めさせる隙を作った方が、やりやすいのだよ。」

「なるほど、理解しました。」


「ついでに言うなら私の魔道具には、私に対して害となる干渉を行う魔法や魔道具を感知、特定してくれるものも備わっていてね。それの反応もなかったから、君の魔道具は身に付けることでの悪影響はないと判断した。」

「確かにその二つの魔道具を抜くのは難しいですね。」

 要は、自分に対し悪意を持って干渉しようとする者に、意表を突く形で本来の予想以上の成果を得られる可能性を考慮させ、その反応を見ることで相手が自分に悪意を持っているか、カマをかけるということのようだ。

 確かに護身の魔道具などである程度そういう干渉についての予防策を立てているならば、有効な方法でもあるだろう。目の前でやられると、立場が下の者からすれば相当苦労するだろうが。


「ところでウルタムスさん、ルリミアーゼに渡す際はデザインの変更もお願いできる、と先程おっしゃっていましたね?」

「そうですね。詳細なデザインを指定したいというのであれば、一番確実なのは紙にその形を写すか、似たデザインの装飾品を実際に見せていただければ、より細かく調整が可能です。」

「それでは、魔道具の機能の調整が終わり次第、ルリミアーゼの好みに沿うようデザインの変更をお願いしましょう。ルリミアーゼ、何か考えておきなさい。」

「わかりました、お母様。」


 そんな話を皇后陛下とルリミアーゼ殿下がしていると、皇帝陛下がいい案を思いついたと話しかけてくる。

「そうだ、ウルタムス君。魔道具のデザインについて、少し相談があるんだが、いいかな?」

「何なりとお申し付けください、陛下。」

「皇国から東に広がる砂漠地帯のオアシスに、サバクハスという名の花が咲くんだ。ルリミアーゼはその花の絵や、魔道具で撮った写し絵が大好きでね。その花を模ってあげれば喜ぶと思う。今の時期ならばちょうど見ごろだろうから、彼女をオアシスまで連れて行き、サバクハスの花を見せてあげて欲しい。」

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