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目指せ楽隠居!埋火卿の暗闘記  作者: 九良道 千璃
第二章 皇国の呪い
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5話

「緑青の髪に、白よりの灰色ローブ。王太子殿下の手紙にあった服装だね。なかなか珍しいのではないかな?その髪色は。」

「そうですね。見かけることは少ないとよく言われます。」

「まぁ、あまり固くならなくていい、ウルタムス君。私は娘のことが心配なのでね。悩み事を解決してくれる可能性には、少しであれどすがりたい気持ちなんだ。」

「微力を尽くさせていただきます。」

「…よろしくお願いします。」

 皇帝陛下と言葉を交わすが、父親としてはとにかく親としての庇護欲の部分が強いのだろう。まぁ、ルリミアーゼ殿下はかなり儚げで、今にも消えそうな雰囲気を持つ美少女だ。なんとなく気持ちは分かる。記憶にある限りネルはもう少し芯が強かった印象があったから、この娘はネルより打たれ弱そうな印象すら受ける。


「早速、話をさせてください、ウルタムスさん。先立って王太子殿下から極秘裏に情報供与をいただいた形ですが、魔王討伐パーティに参加していた、ネリシア殿下。今は王宮筆頭魔導師となっている彼女の、体質的な問題を解決したと聞いています。これは事実ですか?」

 ルリミアーゼ殿下の挨拶が終わると、居ても立ってもいられなくなったように皇后陛下が質問を投げかけてくる。ここは素直に答えるしかないだろう。呪いまじない師としても、問題解決に尽力してくれる協力者を増やすため、協力を仰げる味方は多く欲しい。


「はい、事実です。手助けした痕跡こそ、今では追えない程度に隠蔽しておりますが、学生時代のクラスメイトとして不自由していた彼女の協力を得て、彼女の体質改善のための魔道具の開発を行いました。」


「…具体的に、どのような施術を行ったか、お聞かせいただいてもいいですか?」

「各種の知見の下、ネリシア導師の協力を得て、彼女に有害となっている光、主に日光の一部の要素を、彼女の体に至る前に魔道具で弾き、弾ききれない光は彼女の身に付けた服で遮ることで、彼女自身が常に日陰にいる状態を維持できるようにしました。魔道具の主要機能は、日光の一部要素を弾くこと。副次的な機能として、身に付けた衣服が風などの突発的な環境要因などで一定以上状態が変化する、もしくは変形することを防ぐ機能、それらの魔道具の効果への魔術的干渉を防ぐ機能などを付与しています。」


「…同じ魔道具を、そのままルリミアーゼに対して作ることは、可能ですか?」

「可能ですが、お勧めできません。」

「…なぜですか?」

「原因の一つはルリミアーゼ殿下のお立場、もう一つは、ネリシア導師とルリミアーゼ殿下の、魔術に関する知見の差です。詳しく説明すれば長くなりますが、説明をお聞きになられますか?」

 矢継ぎ早に質問してくる皇后陛下。まぁ、自分の子供のことだ。騙されてはかなわないだろうから、根掘り葉掘り聞いてくる。仕方ないとはいえ、かなりの長丁場だ。


「…お願いします。」

 ここで少し予想外。皇后陛下はあまり魔術に詳しくないと踏んでいたのだが、当てが外れた形だ。ともあれ、理解されるか否かについては状況任せになってしまうが、理解できないなら実際に確かめてもらうしかないであろう。


「まず、ルリミアーゼ殿下のお立場の問題から説明します。私の魔道具はとある事情により、他人から魔道具の使用者に対して発せられる悪意、害意に対して弱いという構造上の弱点があります。

 その弱点を突かれても魔道具自体の機能を保持するために、弱点に対する攻撃を受けると、魔道具の使用者の魔力が消費されます。ネリシア導師に贈ったものは、羨望や嫉妬などから向けられる悪意や害意に対して、堅牢な防衛能力を持たせるために労力を注いだ結果、不安を感じずに他者と接することができる程度には安定した魔道具となりました。


 しかし、彼女は元々下級貴族出身で、切っ掛けさえあれば才能を開花させうる立場にあったことから、研鑽によりその立場を得たと認識されており、弱点となる、悪意や害意を持ちうる存在の数を予想しやすく、必要な堅牢さにもある程度の目算がありました。


 大してルリミアーゼ殿下は、皇帝陛下を支える役目を持つ非常に重要な皇族という立場、しかしアルビノという、一般にはそこまで重用されるようなお立場ではありません。現時点で、例えば皇帝陛下の血縁となり、自身の影響力を皇国で振るうことができれば、という欲を何かの拍子に持った者がいた場合。その者にとってルリミアーゼ殿下はその体質から表舞台に立つことができない関係上、何かがあっても問題が起こりえないと考えられる、格好の標的となります。


 この場合、もし私が魔道具を渡して体質が改善され、ルリミアーゼ殿下が表舞台に立つことができるようになった場合でも、これは本人の研鑽によるものといくら喧伝したとしても、彼女を手籠めにする欲を抱いたことのある者は口々に、あの時のままでいればよかったものを、という悪意を抱くでしょう。もしくは、あの魔道具がなくなるか、壊れてくれればいいのに。彼女の体質が、あの魔道具で対処できないくらい悪化してくれればいいのに。と思う者もいるかもしれません。


 私の魔道具にとっては、その悪意、害意が、そのまま魔道具への攻撃となります。似たような考えを抱く者の数が多ければ多いほど、その思いが強ければ強いほど、その防御として魔力が消費されます。


 ネリシア導師は私の作った魔道具の特性と、導師自身の魔力容量を熟知しており、特に王宮筆頭魔導師として就任してからは常に、私の作った魔道具の堅牢さを十全に保持できる魔力量を保持し、また魔道具としての性能が低下する前に魔道具のメンテナンスを行う技量を有していますが、ルリミアーゼ殿下については、殿下に必要な術式の堅牢さ、殿下に必要となる魔力容量や、殿下の持つ魔道具に関する知見など、魔道具の性能を決める上で必要な情報が抜け落ちすぎています。ネリシア導師に渡した魔道具と同じ堅牢さ、同じ性能で、ルリミアーゼ殿下の安全性を保障致しかねます。」




 つい長々と喋ってしまったが、これが一つ目だ。理解できるかどうかを確認するため皇后陛下の方を見ると、皇后陛下は何かしら考えている様子で、理解が進んでいない様子ではない。

 もしこの状態で、皇后陛下がこの問題を解決できる知見を有しているなら、俺自身はネルと同じ魔道具を皇后陛下に渡すだけである程度何とかなる、と考えたのだが、そんな甘い考えは通用しなかったらしい。皇后陛下はしばらく考えをまとめた後、俺の方を向くと言葉を発した。


「…言いたいことは分かりました。ある意味、王国出身の者でなければ、そういう悪意は気付けなかったかもしれませんね。納得できますし、この子の安全のために容易に魔道具を渡せない、という誠意に感謝します。」

「ありがとうございます。…理由の二つ目を、これから説明しても?」

「いえ、ある程度予想できました。先程最後に少しだけ触れてくださった、ネリシア導師が行っている魔道具の性能管理に関係するのでしょう?」

「はい。魔道具の性能と、その保持する能力に関係して、様々な魔法に関する知識と、その特性についての理解が必要になる、ということです。魔術師としての知見がある程度備わっていれば理解できますが、その知見を理解できなければ、全く対応できません。」

「それは、あなたが先の説明の最初で明言を避けた、魔道具の事情に関係することですね?」

「はい。詳細を説明するなら、魔道具に込められた魔術の、属性です。」

「属性?」

「…黒魔術と、呪術、そして錬金術を主に使用しています。」


 この言葉を発した時点で、部屋の内に緊張が走る。何せ黒魔術も呪術も、世間一般のイメージは非常に悪い。錬金術自体はそこまで警戒すべきものではないが、錬金術の影響下にある各種の魔術効果は、対処するに当たって非常に難解なものとして認識されているものでもあるのだ。

 加えて黒魔術も呪術も、忌避される原因は明解だ。黒魔術は死んだ人間の魂、呪術は生きた人間の魂に主に干渉する魔術で、その能力は一般的にも非常に凶悪。魔人族や魔王に関わる術の代表例として挙げられ、人族や亜人族の間では、該当する属性の術士は忌避される対象にもなっている。




 皇后陛下は走った緊張に身を強張らせつつ、確認のための言葉を発した。

「…彼女の経歴から、あなたを特定できなかったのは、それが理由?」

「ネリシア導師は、魔道具の完成以前はほとんど外に出ない影響で、交友関係そのものの情報がないはずで、魔道具の完成を前後して交友関係が徐々に増えたという状態でしたし、私自身は魔道具が完成した時期に、別件で彼女と疎遠になってしまっていまして。


 その状態で私との関係を洗い出すには、導師の持つ魔道具の特性や属性の詳細を調べ、判明した属性に適合しない者を弾いていく必要があります。魔道具の属性は、たとえ他者がパーツ単位で分解しても特定できないよう全力で隠蔽しましたから、特定は不可能と考えます。」


「…ネリシア導師に、魔道具の詳細についての口止めをしたのは?」

「彼女自身が、魔道具に込められている属性を理解していないと装うため、というのが一つ。二つ目はそれに関連して、万が一魔道具の属性が判明してしまった場合、彼女が黒魔術や呪術の使い手として認識されてしまうことを防ぐためです。」


 ここまで聞いて、皇后陛下は微笑を浮かべて俺を見た。

「…あなた、厄介ね。あなたが皇国に生まれてなかったことが残念よ。」

「王太子殿下にも言われたことがあります。敵でなくて助かったと。」

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