4話
「お待たせしました。彼らの応対、不快に感じたなら申し訳ありません。」
「いえ、いつもの事です。討伐についての情報はどうでした?」
「残念ながら、ギルドの依頼を受けてくれたパーティはいませんでした。とは言っても気付いたかもしれませんが、条件次第でなら討伐を受けてくれたパーティはたくさんいたと思いますよ。もちろん追加報酬に関しての話もありますから、今回はお気に召さなかったかもしれませんが。」
「大して問題はありません。もし討伐されていたら、少しだけ皮が欲しかった、というだけです。ギルドの依頼を受けますので、皮の取り分に付いては交渉させてください。」
「わかりました。それでは受諾の手続きをします。探索者証はお持ちですか?」
「これです。昔のものですが。」
「…これはまた随分と古い…王国の探索者証、ですよね?」
「えぇ。個人情報との整合が取れれば、依頼受諾には問題ありませんでしたよね?ランクに付いては聞かないでください。後ろめたいことはありませんが、色々とありましたので。」
「はぁ…。確認しますので、少々お待ちください。」
受付の男性は後ろにある自身の作業机であろう場所に戻り何やら作業を始めたが、突然驚愕したような反応をし、急いでこちらに向かって来て小声で話しかけてきた。
「ウルタムス様、ですね。あの、ランクに付いては問題ありません。ですが、その…探索者証について、すこしお話がありまして、その…」
「探索者証の交換は、意図的にしていないんです。変に目立ってしまうので。」
「あ、そう、でしたか、失礼しました。お詫び申し上げます。」
「仕方ないです。とりあえず、依頼の受諾に問題がありますか?」
「いえ、問題はありません。よろしくお願いします。」
「では、討伐したデザートリザードを運搬できる魔道具の貸与をお願いできますか?」
「わかりました、代金は魔道具分を先に全額お支払いいただき、後で魔道具の返品により、貸出手数料を引いた額が返金される形となります。問題ありませんか?」
「問題ありません、それでお願いします。」
ギルドを出ると少し歩き、金額的に少し高めの宿にて部屋を確保する。持ってきた荷物を部屋に置き、ギルドに貸し出してもらった物品収納用の魔道具を確認した。容量に余裕があるわけではないが、デザートリザードの討伐であれば問題はない程度の容量はある。あまり質はよろしくないが、これは仕方ないだろう。
皇国は東側に大きく広がる砂漠地帯に住まう大型の魔物を狩ることで発達した国だ。当然、探索者ギルドとしては探索者の援助に大きな負担を強いられているはずで、こういう貸出品が雑に扱われても仕方ない部分はある。いかんせんこういう品は、一度買ってしまえばしばらくは買い替えを検討できないくらいには高価なのだ。
夕食を宿の食堂で食べ、部屋に戻って少し魔道具の調整の続きを行ってから、夜も更けてきたところでベッドに入り、明日の予定について考え始める。明日は差し当たりルリミアーゼ殿下に会う。殿下の今後の方針を確認してからということになるが、よほどのことがない限り魔道具を渡すことにはなるだろう。
得体のしれない魔道具を渡すのだから、魔道具の動作確認という形で近場をうろつく必要もある。問題なく動くようならその時に色々と話す機会もあるだろうし、問題があった時のために傍付きの人間も控えるだろうから、その人から情報収集を行うこともできるだろう。
気にかかっているのは、デザートリザード変異種の討伐に、殿下を連れて行って構わないかということだ。もちろん彼女にその気があればの話だが、今後独り立ちを目指す人間であるなら、そこそこ腕の立つ探索者に依頼を達成するまでの間付き添うというのは、非常に有用なのだ。これまでろくに外に出たことのない人間というならば、実際に自分が立つ場所を見定めるという意味でも、経験させておくことで今後の糧にしやすくなる。
デザートリザード自体は癖のある魔物だが、コツを掴んで人員を揃えれば討伐は難しくない、どちらかというと倒しやすい魔物であるという点も、今回の話にはうってつけだ。同行する俺という探索者が信用できるかどうかについては、傍付きの方々に判断してもらうしかないが。
だが、一番のネックは、ルリミアーゼ殿下に対して、どの程度の外圧がかかっているのかを確かめたいというのもある。皇国は実力主義、という風潮が強いことも知ってはいるが、大抵の人の考えることというのはどこに行っても大して変わらない。
皇族の一人を手籠めにして皇宮の権勢に影響を及ぼそうという輩が居れば、ルリミアーゼ殿下含む皇族に何かしらのアクションがあってもおかしくない。もしそれを狙うのであれば、内に籠って外に出ず、結果影響を及ぼせる手駒が少ないとも考えられるルリミアーゼ殿下は格好の的なのだ。
囲い込んでしまえば、いざというとき病死という名目で始末し、手駒をそのままに縁だけ繋ぎ、意のままに振舞えるという状態にもできる点を考えると、皇宮周辺に敵がいるかどうかについては少しだけ探りを入れておきたい。
なぜこういう点に重点を置くかと言えば、渡す魔道具の性能ゆえだ。元々はネルのために色々と機能を盛り込んで作ったこの魔道具だが、この魔道具の一番の弱みは、他人からの悪意に非常に影響されやすく、非常に強い悪意に晒された場合、使用者の魔力供給が途絶えてしまえば、簡単に機能を失ってしまう場合がある。
もちろんそうならないよう、様々な防衛策を張り巡らせた結果が今ネルの持っている魔道具なのだが、ネル自身は皇位や王位の継承権という立場から遠く離れた立場にいるからこその堅牢さだ。実際に皇位継承権が発生しうる立場にあるルリミアーゼ殿下に降りかかる悪意というのを想定しきれていない点には不安が残る。
彼女自身が皇位を継承する意思があるのかどうかも定かでない以上、考えても仕方がないのだが、皇宮に関わる者ともなれば幼少から政治にまつわる知識は多く手に入るし、教育もそれに準じたものになることが多い。
今更皇宮を出て魔術師や錬金術師、魔道具職人となる道を選ぶよりは、皇宮で色々と陰から仕事をこなす役人になるのが効率のいい立身出世の道とは思うのだが、そこは一応ルリミアーゼ殿下次第だろう。
悪意に対する防御策を、もうちょっと堅牢に出来ないかどうかを考えながら、俺はその日眠りについた。
次の日の朝、俺は皇宮の正門の護衛をしているであろう衛士に、王宮から派遣された使者である旨と、ルリミアーゼ殿下との面会の予定がある旨を告げ、リディの用意した紹介状を渡した。
衛士は上司にでも確認したのであろう。裏に伝令が走り、その伝令がすぐさま皇居の方へ走る様子が見えた後、しばらく経って馬車が到着、なし崩し的にその馬車に乗ることになった。
案内として付けられたメイドは俺のことを疑わしそうに見ていたが、実際王国から皇族の問題を解決するために派遣されたのが、呪い師などと言う疑わしい職のものならば仕方ない。その視線をあまり気にしないこととして、皇宮の庭園の様子を見るでもなく目に収める。
案内されたのは皇宮の一角。本当に片隅に、他の部屋に挟まれる形である一室だった。メイドがノッカーを鳴らし、先に入って要件を室内の者に告げ、入室の招きを受けたので部屋に入った。
まず感じたのは、やはり暗さ。ネルの居室と概ね変わらず、日の光が入りづらい部屋を選んでいることが見て取れる。
次に、人物が目に入る。暗い部屋の中であれば行動に不自由はないらしく、部屋の中央に近い壁側の机、それと同じ意匠の椅子に座る、白い人物が一人。その左右両脇に控えるように立つ、壮年の男性と妙齢の女性。そして、窓側のカーテン近くに立つ、メイドが二名。机の近くに立つ三名に対し会釈をすると、白い人物は会釈を返すも、後に控える男性と女性は直立したまま。
「初めまして。エグゼス聖王国、王宮にて呪い師の役職をいただいております、ウルタムスと申します。王太子リディアル殿下よりの相談を受け、参りました。」
「…ルリミアーゼ・ロクテア・ガードラントです。お会いできたことを嬉しく思います。」
喋った感じ、今にも消えそうな儚げな印象を受ける少女だ。しかし個人的には、できれば左右に控える壮年の男性と、妙齢の女性を紹介してほしい。
目線を上げ、男性と女性の方にチラリと目線をやると、男性の方が口を開いた。
「私から紹介させていただこう。名を、ローグウェンという。ルリミアーゼの父親だ。」
「私は、ナリアと言います。ローグウェンの妻で、ルリミアーゼの母親です。」
「これは失礼しました。皇帝陛下、皇后陛下。」
「よい。今回は皇帝ではなく、一人の子の父親としてここにいる。よほど無礼を働かない限りは、問題にする気はない。」
「…ありがとうございます。」
やはり皇帝陛下と皇后陛下だった。子供の事なんだし、心配になれば見に来るよな、と思うところが大きい。立場を排した付き合いであろうから公に問題にする気はないであろうが、実際に会うとなると正直本当に気後れするからやめてほしいのだが。




