午後の紅茶と血祭りの夜
なるほど。この世界には山ほど勇者がいて、それぞれ神様を引き連れてると。
「そうなのよ~」と、ナナが穏やかに話している。
私はナナの部屋で午後のティータイムを楽しんでいた。
って楽しんでない。精神的に落ち着くお茶をランスに入れてもらい、ようやく先ほどまでの血の惨劇のイメージが薄らいできたところだ。
「それでね~」とナナは続けた。おっとりとした話し方が緊張感を奪う。ナナは血とか暴力とか大丈夫なタイプなのかな。それとも慣れているのかしら。この世界に。
「勇者はその人生で神様を一人しか召還できないのよ~」
「ねえナナ」
ナナの話をさえぎって私は聞いてみた。
「ナナはこの世界に来るまで何をしてたの?どこから来たの?」
ナナは首を傾げていった。
「それがね~、思い出せないのよ。私もあなたみたいに、違う世界から来たはずなのだけど」
ええ?どれだけ物忘れがひどいのよ。
「たぶんね、神の力を得るたびに前の世界の記憶を忘れていってしまうみたい」
ひー!ナナの言い方穏やかなのにその内容怖すぎ。神の力の代償大きすぎるよ。
「私が覚えているのはもう、ふたつだけ。私の名前がナナだったということと」
そして彼女は言った。
「大好きだった男性がいたこと」
私を突然悲しい気持ちが襲った。お母さん、お父さんそして犬のポチ。もう二度と会えないのかな。
二人きりの部屋に夕日が差し込み赤く染める。ナナが紅茶を置く音がかちゃりと響いた。
そこへ、バタン!と扉が開いてミルラが入ってきた。
「魔物が出た!すぐそこに大群が押し寄せているみたい!」
またですか。
また血まみれの戦いが始まるんですか。
「あなたもすぐに慣れるわ」とナナが穏やかに言った。