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幾多の勇者に羽を授ける

 私は勇者の部屋で紅茶のようなものを飲んでいた。とても美味しい。そして上品な香りが漂う。なかなかに高級そうな紅茶を淹れてくれるあたり、この勇者は育ちの良いボンボンなのかもしれない。


「お口に合いましたか?」私が頷くのを見て彼は続けた。

「この紅茶は私の村の特産品なのです。私はこの街からはるか遠いカイナ村からやってきました」


 異世界に来たばかりの私に地理はさっぱりなのだか、どうやらこの勇者は上京してきたばかりのようだ。


「女神アリス様」

 いや、さっきエリスって言ってたけど。私は訂正せずに話を聞くことにした。


「どうぞ魔王の手から私たちを救ってください」


 話を引っ張ってもお互いに良い結果になるまい。私は早々に彼の誤解を解くことにした。


「勇者様、さきほどから女神とおっしゃっていますが、残念ながら私はそのような崇高なものではありません。何の力も持たない、普通の町娘のようなものです」


 女神女神と持ち上げられたので、おかしな口調になってしまった。


「そんなハズはありません」彼はきっぱりと言った。

「最上級の女神を召喚する魔法書を使いあなた様は出現されたのです」


 うーん。困ったな。

 私が頭を抱えていると、バタン!とドアが開いて、若い女の子が部屋に入ってきた。


「ランス様!女神様の召喚は成功しましたか!?」

「ミルラ、まだ入ってくるな」


 ミルラと呼ばれた少女は私を見て頭を下げた。


「この方が女神様なのね!来てくれてありがとうございます!私たちを救ってください!」


 いやだから、私は何の力もないって。救え救えって何すればいいのよ。


「ミルラ、この方は自分で女神ではないと言うのだ」

 やや気落ちしているランスに、ミルラが驚いたように言う。

「はあ?女神じゃない?何言ってるんですか。全財産叩いて買った魔法書じゃないですか。そんなハズないって!」


 居心地の悪い私を前に2人は続ける。

「前は偽物を買って、召喚に失敗したから今度こそって、言ってたじゃないですか。そんなまた失敗だなんて……。あれ?」


 ミルラは私を見て何か気付いたようだ。


「あれ?やだ、女神様。冗談ばっかり!羽が生えてるじゃないですか」


 え?ウソ!鏡!この部屋鏡無い!


「本当だ!羽がある!アリス様!冗談きついです!」


 どこどこ?ってこれ?私が首を精一杯背中に向けると、小さな羽のようなものが見えた、気がした。

それはあまりにも小さな羽で、2人が気づかなかったのも無理のないことだった。


「あ、あれ?なにこれ?羽?」


 ランスがホッと胸をなでおろして言う。

「やや小振りではあるが間違いなくそれは羽。神々のみが持つ聖なる証しです。やはり召喚は成功したのです」


「でも」とミルラが言った。

「シャルルの女神様の羽はもっと大きかったな」


「やめなさい!ミルラ!」

 慌ててランスが言う。

「羽の大きさなんてどうでもいい!」


 そしてうれしそうに彼は言うのだった。

「あらためて、女神アリス様。私たちのもとへ来てくださりありがとうございます。ようこそ、この世界へ!」


「あの私、エリっていうんですけど」

 名前なんてどうでもよかった。

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