序章 神への祈り
「早く女神様を召喚したいですね」
「そうだな、もう少し金があればまた魔法書が買えるのだが」
魔物の返り血を全身に浴びた勇者ランスと、その幼じみの弓使いミルラは討伐の帰り道をとぼとぼと歩いていた。
「しょっぱなで偽物をつかまされたのが痛かったな」
「見るからに怪しい露天商から買うからですよ」
「意外とああいう所で売ってるヤツから最強の女神様が出てくるかもしれないと思ってな」
「あーあ、この前、お母さんから手紙が来て心配されちゃいましたよ。何やってるんだって」
故郷のことを思い出すとランスの胸が痛んだ。小さな田舎村出身の彼だが、百年に一人の勇者だともてはやされ意気揚々と旅立ったのだ。村人たちの期待がずっしりと肩にのしかかっている。しかし、有り金叩いて買った女神を召喚するための魔法書は偽物だった。女神を連れていない勇者は、この世界では一人前とみなされない。雑多な魔物討伐ばかり押し付けられて、名を上げることができないでいた。
「もう、私疲れちゃいました」
「いつもすまないな」
「こんな時に治癒の力を持つ女神様がいたら、すぐに体力回復できるのに」
「空間転移の女神様もいいな。一瞬で宿に帰れるぞ」
二人は理想の女神について語りながら帰路を歩いた。新たな魔法書を買うには、まだまだ途方もない額の金を稼がなければならなかった。
「いつか、素敵な女神様が私たちを助けてくれますように」
二人はそう天に祈った。