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引きこもりのアナグマ

作者: 刹那玻璃

 私の実家には二人の引きこもりがいた。

 一人は高校を卒業してから、日をおかず引きこもりになった引きこもり歴40年を超える母の妹。

 今は実家を引き払い、両親は弟妹と、叔母たちは三人で暮らしている。

 私は叔母たちの話を聞くとパニックになるので、親は話を避けてくれる。


 そして、もう一人はこの私……現在引きこもりである。




 昔は、仕事やあれこれで外出しない日はなかった。

 私の時代は就職氷河期……高校卒業しても就職先はなく、四人兄弟の長女だった私は実家の手伝いをしながらバイトを見つけては働いていた。

 掛け持ちをしていたので、平日は七時間勤務のウェイトレス、土日は食堂で八時間。

 休みはない……実家の手伝いもしていた。

 今思えば若かったのだ。

 しかし、周囲の友人達は結婚して行く。

 焦りつつ、そんな縁のなかった私は、点々と仕事をしながら働くのも辛く、正式に社員にと思った。

 そうすると、


「君は結婚適齢期だろう?」

「辞められたら困るんだ」

「結婚はいいが、退職しないでくれないか」

「妊娠出産、休職、しないと誓うなら契約社員で働いてくれ」

「それが、納得できないなら構わないんだよ、こちらは」


と幾つもの会社から、面接の時に毎回言われ、憂鬱になった。

 今なら、本当にモラハラ、パワハラ、セクハラのオンパレードである。


 何故、こんなことを言われてまで働かないといけないの?

 叔母たちは借金を増やしながらお客も来ない店を続けて、その借金や光熱費だって私が肩代わりしてるのに……!

 それにもう一人の叔母は出てこず、人の家に入り込んで本を取って行ったり、お風呂や食べ物も取って行ったり……食っちゃ寝、食っちゃ寝……いいご身分じゃない!


 怒りしかなかった。

 だが、生きる為に働くしかなく、時給のいいところを探すしかなかった。


 だが、ある派遣会社に登録して、時給も今までより良かった会社に派遣され真面目に真剣に、上司や先輩の話を聞き、余計に気を使わせないように時間があれば、他の仕事も請け負い働いた。

 給料は上がるが、その分また母に金を貸してくれと言われ、足りない時にはカードローンを使い、返しながら働いた。

 そして、帰ったら泥のように眠れたらいいのに眠れず、何とか眠って起きたらひどい頭痛と目の痛みに、胃液がせり上がり吐いた。

 それでも必死に……。




 駄目だと思ったのは、ちょうど十年前。

 色々とあり職場を転々としながら働いて働いて、最後の職場で倒れた。

 ひどいめまいと吐き気、不安感で動けなくなったのだ。

 吐く為にトイレに行ったままの私を迎えに来た上司が、ボロボロ涙を流す私に驚いていた。


 そのまま早退し、病院で不安神経症、慢性胃腸炎、逆流性食道炎、アレルギー、アトピー性皮膚炎、異食症、抜毛症、不眠症と診断され、ここまで病名が増え続けていたことを聞き流していた自分自身に、逆に驚いた。

 主治医には、


「もう仕事を辞めなさい!君の命が危ないよ!」


と言われた。


 しかし、借金は分かっているだけで三百万円を超えていた。

 母には今度返すからと言われながら、返してくれないまま膨れ上がったものだった。

 辞めると次回の返済が出来ない。

 どうしようと悩みながら泣いていた私は、縁があり紹介されたカウンセラーの先生に、


「貴方は、今まで何人分もの荷物を背負って、先の見えない高い山を一人で登っているようなものだったの。自己破産という方法がある。それで、荷物を降ろして、自分を解放してあげなさい。よく頑張ったわね」


と言っていただき、泣きじゃくりながら退職を選んだ。

 すると、父や叔母たち、その頃生きていた祖母に、


「お前の面倒はみられない。家にはそんな余裕はない。それでなくとも一人面倒を見ているのに……」


と言われてショックを受けた。




 私は高校を卒業してからずっと働いてきた。

 家族のために働き、借金を肩代わりして、結婚もせずに家に残れと強要されてきた……それなのに!


「生活保護を受けろ。そして、自己破産の手続きも自分でしろ。家を出るなら、布団を持っていけばいい」


と言われたが、冷蔵庫も敷き布団もなく、掛け布団二枚、テレビに洗濯機にタンスは壊れ、あるのは電気ケトルとガスコンロ。

 家族に借金をして家を借り、一人暮らしをし、生活保護の手続きをした。

 引っ越しと言いながら、荷物を運んだ親たちがさっさと帰っていくと、ボロボロと泣くしかなかった。




 何で、私が働いてきた間ずっと家にいてご飯は三食、テレビも冷蔵庫もエアコンやストーブもある叔母と、この古ぼけた寒々しいアパートに住む私とのこの差は何なのだろう?

 私がどんな悪いことをしたのだろう?

 年末の寒い日にずっと泣き続けた。




 家の中に引きこもる私を、正月家族が泊まりに来いと言われたが、もう他人の家でしかなかった。

 家に戻り、ぼーっと日を過ごしていると、左指が痺れてつるようになった。

 病院に行くとストレートネック……パソコンを使う仕事の人に多い頸椎の変型症状……しかも、骨と骨の間の神経を圧迫し、その為に痺れるのだという。


 ますます憂鬱になり、引きこもるようになった。

 それに、勧誘が多く、ベランダに洗濯物を干していたら、バスタオルだったものの、


「バスタオルの間から、貴方が見えたからいると思って」


と男性に言われるとゾッとし、それ以来カーテンをして、窓も開けられなくなった。

 その上、カーテンの間からの光が異様に眩しい上に、隣の部屋から聞こえるテレビの音に敏感になり視覚過敏と聴覚過敏と診断された。

 物音や、眩しい光が本当に駄目なのだ。


 その為一気に体重が減り、41キロになった。

 もともとぽっちゃり体型だったので、痩せて嬉しかった。

 すると、拒食症と言われ、それから次第にストレスで食べ、太り始めると、過食症と診断された。


 今現在、病院は五ヶ所、六つの科に通っているので、週に二回は外出している。

 だから引きこもりじゃないと言われそうだが、でも、今は病院に行く日とそのついでに買い物をする以外、外に出るのが辛い。


 それに、家の中が汚れている……片付けができないのだ。

 昔はある程度掃除をして、ソファやクッションにもたれて耳栓をしてテディベアを抱きしめ、好きな本を読んでいた。

 今は家の中が散乱している。

 今日はようやくダンボールをまとめられた。

 今度の紙ゴミの日に出せる。


 でも、外に出るのが億劫である。

 睡眠導入剤を飲むと朝起きられない。

 かなり強い薬を処方されているが、眠りに落ちないのである。

 聴覚過敏と書いたが、スマホなどの音に怯えて暮らしている。

 昔双極性障害の友人に束縛され、一日中スマホから音が途切れなかった。

 夜中もである。

 ひどい時は、夜中の二時から2時間で四百通もメールが来た。

 眠れなくなり、パニック障害になった。


 それから数年経ち友人と縁が切れたが、また再び病名が増え、去年はヘルペスになり、今は頭痛外来にかかっている。

 そして、同一性障害……多重人格とも言う……の疑いがあると診断された。


 病気のオンパレードだな……と笑うしかない。

 私は何で生きているのだろうと、七回自殺未遂もしたが体が弱るだけで生き延びた。




 愚痴ばかりしか書いていないが、ただ思うのは、叔母のことは許せない、家族も今でも恨んでいる。

 でも、こんな私でも生きている。

 引きこもりと言われようと、小説を書きながら生きている。

 不自由な手を使いながら、ハンドメイドもしている。

 知り合いの姪っ子の為に、ウェディングベアを作る手伝いもした。

 引きこもりを解消しようと、自分の得意な歴史を使える観光ボランティアの資格を取った。

 そして、日本人だけではなく外国からの観光客をもてなしたいと、中国語とドイツ語を勉強していた。

 中国語は話すのは難しいが、筆記で案内できるようになった。


 だから、引きこもりだからと一まとめにしないでほしい。

 叔母のように、親に姉妹にたかりながら引きこもっているのと、働いて働いて、もうダメだと壊れてしまった私……自慢してはいないが、それなりに頑張ってきたつもりだ。




 何度か穴ぐらに戻りながらも、私は前に進む。

 一歩ずつ、進んでいこうと思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人生ってどうしてこんなに辛いのでしょうね。 その中でも小さい幸せを見つけようとするも、その幸せも見つからない。 自由を勝ち取りたいですが、それも遙か遠く叶わない日々。 それでも生きているのは…
2019/11/16 13:24 退会済み
管理
[一言] 私も親と姉で散々な目にあってきたので凄くわかります。
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