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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

緑髪の少女は血のにおい

作者: 山上憶良

冷たい、冷たい町の夜。

緑髪の少女はコンクリートに血の跡を残すように足を引きずり、やがて地面に倒れこむ。

ーーーーーーーー

明朝、見知らぬ天井で少女は眼を覚ます。見知らぬ、とは言っても少女の知っている天井など一つしかないのだが。

パチパチと血の滲んだ眼を開閉させ、周りの状況を確認する。少女のいた、逃げ出して来た部屋と比べて清潔感のかけらもない、少し広めの部屋。少女にとっては全てが珍しい。掛けられていた毛布を自分から剥ぎ取り、寝かされていたソファから立ち上がる。立ち上がった少女の足元には大の字で、だらしなく寝る、無精髭を生やした天然パーマの男。なんとなく不潔な印象を受ける。その男に気がつくこともなく少女は部屋を探索しようと、足を踏み出す。...当然、足元の男は踏まれる。

少女の身体は羽のように軽く、寝ている男はなんの反応も示さない。踏んだ男を見て少女は衝動のまま、男の首に手を伸ばす。首を締めるため力を込めようとすると男は眼を覚まし、寝ぼけた様子で少女を抱きしめるとまだ眠そうな声色で「ん...おはよう...」と、少女の耳元で囁く。

少女は男の体温の温かさに驚いて男を突き放し、男は少女の体温の冷たさに、まるで死人を抱きしめたかのような不気味さを感じて飛び退いた。その衝撃で目が覚めたのか男は少女に話しかける。

「大丈夫か?道で寝てたのを見て家まで連れてきたんだが...君、親は?それとたまに眼から血出てるけど大丈夫か?」

優しい口調でそう言われた少女だが、ただ首を振り、唸り声のような声を出すだけでなにも答えを返さない。そんな様子を見た男は寝ぼけていたとはいえ抱きしめてしまったこちが心配になったのか

「ごめん、つい、家にいた猫を抱きしめる感覚で抱きしめちゃった。許してくれ。」

頭の前で手を合わせて頭を下げる。それに対しても少女はなにも言わず、周囲にあったインスタント食品や冷凍食品のゴミをガサガサと漁りだす。と、同時に男の腹の虫が鳴り、恥ずかしそうに頭を掻きながらそうだよね、お腹空いたよねと少女の野生的な行動に驚く様子もなく、長い間冷凍庫と棚、電子レンジとお湯を沸かすためのポッド以外放置されていることが伺える汚さのキッチンへと向かい、棚に大量にストックされているカップラーメンを二つ取り出して少し蓋を開け、中から粉末スープとかやくの袋を取り出して中身を入れる。ポッドで沸かしてあったお湯を注ぐ。タイマーなどセットせず、割り箸を蓋の上へと置く。何か食べ物を作っている事を察したのか、作り始めてからすぐに少女は男の元へ猫のような俊敏さで向かっていた。ここで少女は気づく。なにやら服を着せられていると。男が少女を発見した時少女はほぼ全裸のような状態だったため、男が気を使ったようだ。...まあ、半裸の少女が家にいたら事件の臭いしかしないためでもあるが。その違和感に少女は嫌な顔を少しするが、その違和感よりも空腹が勝ち男が準備を完了させて時を待っていたカップ麺の容器を手で鷲掴みにして強奪しようとする。非常に鮮やか、かつ素早かったその手。にも関わらず男はその手を手首を掴むことで難なく止め、手で少女を制するようなジャスチャーをする。その時の男の眼光の鋭いこともあって少女は動きを止めた。

きっかり3分後、男が少女の寝ていたソファに座り、カップ麺の蓋を開けると少女が麺をまたも鷲掴みにして食べようとし、熱々のスープに阻まれたため男が麺にフーフーと息をかけて冷ました麺を少女の口に割り箸で運んでいる、という状況だ。少女に箸を持たせようとしてみたものの、どうにも取り落としてしまうためこうして老人の介護か赤ん坊の世話をしているかのようになってしまう。初めの内は麺を口の中に入れる度にむせていたが、男が水をコップに一杯飲ませると直ぐに勢いよく食べだした。少女はそのままの勢いでスープまで飲み、満足気に笑顔を見せると、気絶するように眠った。

少女が安心しきた表情で寝ているのを確認して、男は伸びきったカップ麺を啜る。

インターホンの音が部屋に響き渡る。男は気だるそうに立ち上がるとボロマンションの一室である自宅の扉を開ける。

「...どちら様ですか?」

しばらくの沈黙の後に男が口を開く。視線の先には絵に描いたような二人組、つまりは大柄な男と小柄な男の黒服とサングラスの二人組なのだが。その二人組は男の質問には答えず、小柄な男の方が質問を返す。

「お前は佐藤 広だな?」

佐藤 広と呼ばれた男は二人組の顔を見渡して、小柄な男の質問に対して静かに頷き、その通り。と、少し控えめに答える。

「それがどうかしましたかね?別に俺は黒服の密会なんか見て子供にされたりしてないぜ?」

と、安定しない口調でおどけながら男が別の質問をする。今の男の格好は白のTシャツにラフな灰色のズボン、そして裸足だ。どこからどう見ても休日のおっさんがふざけているようにしか見えない。

小柄な男は落ち着いた様子でその質問に答える。

「あなたが保護した少女を引き取らせて貰えませんかね?我々の所有物なのでね。」

所有物、という言い方に引っかかりを持ったのか男は軽く首を傾げ、思案するような仕草をしながらあの子は人間だと思うんですが…と、言いかけると小柄な男の後ろに突っ立っていた大柄な男が内ポケットから銃身に減音機の装着された黒い拳銃を取り出して構える。それに驚いた男は両手を上げながら後退りをする。二人組の男も家に入り込み、ジリジリと歩み寄って行く。

「なに、あれは兵器だからな。紛失してはいけないものだったのだが...見つけてよかったよ。」

小柄な男が男に語りかけるように話し、大柄な男は拳銃のトリガーを引く。小気味の良い音が鳴り、銃口の先に居た男は床に倒れこみ、薬莢が床に落ちる。

銃声によって目が覚めたらしい少女は、二人組の男をひどく警戒しているようで二人組の男が視界に入った瞬間に部屋の隅に跳びのき、口から唸り声を上げている。見た目は眼を除けば、ただの少女であるにも関わらずその威圧感のある眼で睨まれると凶暴な肉食獣にでも狙われているかのような感覚に襲われる。しかし、二人組の男は特に身動ぐこともなくジリジリと歩み寄る。大柄な男は拳銃を構えたままだが、男を撃った先程より緊張している面持ちがサングラス越しにも分かる。

視界から少女が消える。

焦った小柄な男は大柄な男に声をかけようとそちらの方を向く。その眼に映ったのは、端に追い詰めていた筈の緑髪少女が、大柄な男を頭を鷲掴みにして押し倒し、首にかぶりついている瞬間だった。小柄な男自身がそう評した通り、少女はまさに"兵器"だった。少女が人肉に夢中になっている内に内ポケットから大柄な男が持っていたものと同じ拳銃を取り出し、少女の脳天に照準を丁寧に合わせ、引き金を引く。

______命中。

しかし、少女の動きを止めることは出来なかった。ならば動きを止めようと、照準を素早く少女の足に変更。

だが今度は引き金を引くことは出来なかった。

…ついさっき撃たれた筈の男に背後から投げ飛ばされ、拳銃を奪い取られたからだ。自分に攻撃を加えたものの命を刈り取ろうと、小柄な男に飛びかかろうとした少女も男はついでに取り押さえる。男は少女を地面に押し倒し、並みの力では抑えきれない筈のその少女の腕をいとも簡単に抑え、自分の着ているTシャツで少女の口元に付いた人の血を拭う。

「落ち着け、俺は君の敵じゃない。…元某国の諜報員でね、君みたいな存在が居ても驚かないさ。」

男が少女の耳元でそう囁くと、なんとなく敵意がないことを察したようで少女は抵抗するのをやめる。

少女が落ち着いたことにホッとしたのか、その場で腰を抜かしたように男は座り込む。

「…ともかく、人は食べちゃダメだ。お腹空いたならもっと美味しいもの食べさせる。…わかった?」

どうやら言葉がわからないらしい少女にも分かるようにジェスチャーを交えながら話す。思ったより少女の理解力と学習力が高いようで

「わかっ、た。」

と、片言気味だが普通の少女のようないい笑顔で返事を返す。

「言葉も覚えさせようかな…とりあえず、君を作ったところに追いかけ回されるみたいだなぁ…」

返事を返してくれたことと笑顔になってくれたことに男は少し嬉しそうな表情を浮かべ、ゆっくり立ち上がる。

投げ飛ばされ、気絶していた小柄な男が目を覚ますと男は直ぐに奪った拳銃を向け、トリガーに指をかけ質問の為に口を開く。

「この少女はどういう経緯で生まれたんだ?教えてもらおうか。」

少しでも抵抗しようとしたのか小柄な男は膝立ちになり、黒服の内ポケットに手を入れるが自身の置かれている状況に気がつき、直ぐに両手を上げる。

「…詳しくは全くわからない…体内に色々仕込まれた生物兵器ってことぐらいしかわからない。…本当だ。…俺もこそなんでそんな兵器を助けたのか聞かせて貰いたいんだが。」

小柄な男は質問に答えるが、特に有益な情報ではなかったようで、男は苦い顔をし拳銃を下ろす。そして小柄な男の投げかけた質問に対しては

「昔沢山人を殺したからな。引退してからはなるべく救いたいんだよ。」

と、真剣なのか適当なのかわからない答えを返す。

小柄な男の後頭部に蹴りを1発食らわせて意識を持っていき、男は部屋の隅っこに置いてあったクローゼットの中から黒いコートを取り出して着ると、少女の手を握って歩き出す。

「…とりあえず女の子サイズの衣類を手に入れに行こう。」

少女は血に濡れた男性向けのサイズのTシャツを一枚着ているだけだった。

Twitterにて募集した世界観、キャラクターで書かせていただきました。

ルア @r_u_a_1_0_0_8 さん、ありがとうございました。

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