【第一章】第七部分
「一本木亜里栖!君は合格だよ!」
「何言ってるのよ。完全に不合格じゃない。今さら、アタシを騙そうっていうつもり?子供だましじゃあるまいし、バカにするんじゃないわよ。グスン。」
「合格基準はデジタルだから、亜里栖君が80位だったという事実があるだけだよ。」
「だって、アタシの名前なんてなかったじゃない。」
「さっきまではね。でももう一度スクリーン、いや手元の端末機スマホをみてごらん。」
「あっ!合格通知が入ってる。預金獲得額1万3千MM。あれ?増えてるわ。」
「そう。亜里栖君が倒した893の部下の預金が入ってきたんだよ。どうやら亜里栖君をイジメたことを反省してそのお詫びで預金口座を開設したらしいよ。」
「お詫び?そんなタマだったの?殊勝なことだわね。まあアタシのオーラがヤツの心に刺さったんだわ。」
「ポジティブな解釈お疲れ様だね。とにかくこれで正式にウチの学校の生徒になれたんだよ。おめでとう。明日から遅刻しないように登校するんだよ。」
「遅刻なんか、しないわよ。アタシは朝には強いんだからね。そ、それにアタシの呼び方、下の名前で呼ぶなんてなれなれしいわ。」
「あっ、ゴメン。じゃあ、なんと呼べばいいのかな。一本木のイッチャンナンチャンとか。」
「どこの賞味期限切れのお笑いタレントよ。くだらないこと言わないでよ。・・・あ、亜里栖でいいわよ。」
亜里栖は少々頬に血流が集まっている。
「それは良かった。いちおうオレの方が先輩だし。」
「えっ?そりゃそうよね。すでに生徒会に入ってるんだから。」
「オレのことは、秀太郎先輩でいいよ。」
「はあ?長過ぎるわよ。」
「じゃあ、秀太郎で。」
「そこまで言うなら仕方ないから呼んであげるわよ。しゅ、秀太郎。明日は遅刻しないんだからねっ。」
『プイ』としてスカートを翻した亜里栖は次の言葉を、ハエの鳴くような微妙にトゲのある声で囁いた。
「感謝なんかしたくないけど、きょ、今日はありがとう。」
「何か言ったのかい?」
「な、何でもないわよ。もう帰るわ。」
そそくさと学校をあとにした亜里栖。その背中が見えなくなるまで、見送った秀太郎はポツリと呟いた。
「亜里栖のお父さんに感謝だな。」