【第三章】第二十六部分
そんな亜里栖をまったく相手にせず、父親はハムスターのように回るドラムに集中している。
「いいぞ、いいぞ、当たれ!ここで止まれ~!」
ドラムの回転スピードは弱まり、ゆっくりと止まった。
「あ~あ。またハズレ。負けが込んでいくなあ。」
「・・・。負け?また、お父さんが負けたの?」
亜里栖の瞳にわずかな光が灯った。その亜里栖の様子を見て、秀太郎の目が輝いた。
「よし、いいぞ。狙い通りだ。お父さん、もっと頑張って負けてください!」
「ヒドいなあ、秀太郎君。こっちは必死に勝とうとしてるのに。」
愚痴りながらも父親は楽しそうである。
父親の楽しむ姿を見て、亜里栖の瞳の色が徐々に変化してきた。さらに亜里栖のこわばっていた顔の筋肉もピクピクと活動を開始した。
「お父さん!またギャンブルで負けてきたわね。また仕入れができなくなるじゃない。店のお金を使いこんじゃって。もうアタマに来たわ。アタシもお金を使いまくるわよ!」
「それだ、亜里栖!君の中の毒を使い込んでしまえ!」
「やってやろうじゃない!お父さん、そこどいて。」
「うわあ!」
亜里栖は父親の定位置である椅子を奪って、どんどんコインを投入してドラムを回す。
「面白いわ。お金がなくなるのが、こんなに快感だなんて。お父さんの気持ちがわかってきたわ。」
「さすが親子だな。作戦は成功したな。フフフ。」
秀太郎が亜里栖を眺めながら不敵に笑っている。
亜里栖はすべてのコインを使い果たした。
「ノルマを達成したわ。ひと仕事し終わった感じだわ。」
額の汗を軽く拭った亜里栖。すがすがしい顔をしている。
「亜里栖。見事な負けっぷりだった。顔色もすっかりよくなったぞ。」
「その声はしゅ、しゅ、しゅ。シュリンプフライ食べたいな。」
「それを言うならエビフライだろ!でもその様子なら体内の毒は、負けと共にスッたようだね。」
「秀太郎。アタシ、いったい何をしてたのかしら。どうしてこんなところにいるのかしら。」
「そういうことはあとでゆっくり説明するよ。とにかくこんな時間だから、君の家に帰ろう。」
「本当だ。外は真っ暗じゃない。店はもう閉店してる時間だわね。」
「亜里栖!一緒に帰るぞ。パパは亜里栖が帰ってきてくれて嬉しいぞ。抱きしめ全身アタック!」
父親の抱きつきをひらりとかわした亜里栖は、生徒会室を出ようとした。