【第三章】第二十一部分
会長は亜里栖を引き連れて、牢獄のさらに奥へと進んでいった。
亜里栖は手錠を嵌めた状態で、ふたりの黒サングラスに拘束されて、力なく歩いている。
「さあ、着きましたわ。ここは核シェルターと同等の遮蔽性を保持している特別室ですわ。」
銀行の巨大金庫のような扉を前にした会長と亜里栖。
「ここにアタシを閉じ込めたいのね?別にいいわよ。」
「そうではありませんわ。あくまで一本木さんに、自分の能力を実感していただきたいだけですの。」
扉のデジタルパネルにパスワードを入力した後、大きな銀色のカギを差し込んだ会長は両手・全力で重量感のある扉を開いた。
『ギイイイ』不気味な音を奏でて、開いた先は真っ暗であった。
「ここに入ればいいのね。」
「よくわかってらっしゃいますわ。ではここでごゆっくりお過ごしくださいませ。真っ暗ですから、安物の下着姿でも構いませんわよ。ホーホホホッ。」
ゾンビのように手を前に垂らして金庫の中に入る亜里栖。
「アタシはひとりぼっち。今のアタシにはこんなところがお似合いだわ。」
亜里栖の周りは、重苦しい空気でいっぱいになっていた。
「亜里栖はひとりじゃない。オレがいるだろう。」
姿は見えないが声が聞こえたような気がする。
「秀太郎なの?どこにいるの。」
「ここだよ。」
「本当にいるなら、アタシを助けてよ。」
「そうするために来たのさ。こっちへ来い。抱擁券を見せろ。」
「バカじゃないの。ここはスーパーじゃないんだから。」
「あははは。そうだったな。じゃあ遠慮なくこっちへ来いよ。」
「やっぱりどこかで抱擁券を買ってくるわ。」
「どうしたんだい?」
「これは秀太郎のアルバイト、つまりビジネスよね。だから対価を払って抱擁という役務をやっていただくのが筋だわ。」
「そうだな。恋はお金、いや魔力マネーで買うものなんだな。なんて言うわけないだろう。そんな屁理屈を言うキカンボウ女子にはお仕置きだ。ぐっと。」
秀太郎は亜里栖を抱き寄せようとする動きをした。