【第三章】第十三部分
「こんな喜ばしいことは久しぶりだぞ。これをやめるなんてモッタイナイぞ。ナデナデ。」
「やめてよ、これは立派なDVよ、DVDに撮って警察沙汰よ。サダ子に訴えて呪いころしてもらうわ!」
論旨を変化させながら、やっとのことで、亜里栖は父親を引き剥がした。
「アリス。成長したな。こんな弾力、ママには感じられなかったぞ。DNAを超えたんだな。素晴らしい!」
「この、クソセクハラオヤジ~。ドゴ~ン!」
亜里栖のパンチで店外の星クズになり、輝いて散った父親。
数分後、大気圏から燃え尽きる寸前で帰還した父親。
「アリス。パパは不正行為はやったことがない。それはギャンブルに対してもだ。それはアリスがよく知ってるだろう。」
「そ、それはそうだけど。だから悲しいかな、ギャンブルは負けが込んで床に大穴が空いてる状態だわね。」
「その言い方はキズつくなあ。まあこの際、それはいいとしてだな。スーパーが儲かってきたことには、ちゃんと理由があるんだぞ。」
「いったいどんな魔法、いやドス黒魔法を使ったのよ?」
「スーパーの経営に白魔法もドス黒魔法もないぞ。あるのは経営努力のみだ。パパは経営改善のために、秘密兵器を用意したんだ。」
「秘密兵器ですって?別に何も変わったところってないじゃない。」
「おおアリス、じゃないおおありさ。」
「なんかムカつくオヤジギャグだわ。」
「秘密とはこれさ。ジャーン。補助券。」
父親は小さな紙を見せた。商店街のセール時によく見る補助券。買い物金額に応じて配られ、枚数が貯まると、景品抽選にチャレンジできるというモノである。
「なによ、これ。こんなの、世間にありふれたものじゃない。こんなものだけで大きな売上増加は期待できないわ。」
「それは抽選券を何にするかによるのさ。」
「でも高額な商品が当たるなんてやったら、せっかくの利益が吹っ飛んでしまうわ。」
「そこなんだな、ポイントは。パパはうまくやったぞ。抽選券は全員もれなく当たりだぞ。」
「そんなの、さらにコストアップ要因になるじゃない。」
「そうでもないぞ。空くじなし抽選券の内容はこれだ。」
父親は抽選券に書いてある賞品を見せた。
『イケメンとの握手並びにツーショット写真撮影会、さらにさらになんと全世界女子羨望のマト抱擁券』。
そこに映っていたイケメンは秀太郎だった。
「パパのところに彼がバイトを申し入れて来たんだ。でも生徒会の仕事もあるし、シフト数に限界があるというので、まとめて働いてもらうにはこれがいちばん都合いいということになったんだよ。」
その時、スーパーの事務所の電話機がうるさく鳴った。




