【第三章】第四部分
「さあさあ、仮装通貨に命を与えてくださいな。」
すでにミイラになっている亜里栖は、くぐもった声しか出せない。
「命を与える?お札にそんなものはないわよ。しかもニセ札なんかに。」
「いいえ。一本木さんはご自身の能力を過少評価していますわ。一本木さんは仮装通貨を浄化して本物そっくりにする。仮装通貨ではなく実体通貨にしてしまうということ。それは紛れもなく通貨に生命を吹き込むことですわ。魔力マネーを生み出すことができるのは、ごく少数の魔法使いのみです。それを大量生産した仮装通貨を魔力マネーに変える、素晴らしいことですわ。これで毒を販売しなくてよくなります。つまり正義ですわ。」
「そうなの。アタシは正義の味方になったんだわ。・・・って、そんな非道ロジックに納得するわけないでしょ。」
「まあそうおっしゃると思っていましたわ。それではこちらの画像を、どうぞごらん遊ばせ。」
壁に大型テレビが設置してあり、そこに父親といつきが映っている。
「はい、は~い。こちら、生徒会長の回し者、いつきじゃん。ただいま、お客がほとんどいないスーパーに来てるじゃん。」
音声もしっかり流れている。
「いつき!?さっきまでここにいたのに。それにその場所って、ウチのスーパーじゃない。いつきの後ろに見える背中は、お父さん!」
思わず叫んだ亜里栖に、生徒会長が微笑しながら補足説明する。
「仮装通貨をお宅のスーパーに贈りましたわ。そのライブ映像がこれです。」
父親はパチスロ帰りらしく、モスグリーンの野球帽を後ろ向きにかぶり、耳には鉛筆を付けている。パチスロで鉛筆を使うことはないが、ギャンブラーの矜持を保つ仕草であるらしい。父親が手にしているスマホ財布の画面残高は僅少になっている。細かいカメラワークである。
「お父さんったら、またスッちゃって。いつものことだけど、お店の放置プレイもいい加減にしてほしいわ。」
プンスカやっている亜里栖ではあるが、いつもの父親の姿を見て、少々ホッとしているのが見て取れる。
いつきがニセ札の束を父親のところに持って行く。
「これはお近づきのしるしじゃん。よろしければ受け取りくださいじゃん。」
「あんたはアリスの同級生かな。俺は貧乏スーパーの経営者だ。たしかにカネに困っている。カネがあれば、仕入れも増やせる。大いに助かる。」
「じゃあ、受け取りするじゃん。」
「もらうな、もらうな、もらうな~!」
亜里栖は画面に向かって大声をあげるが、双方向性ではないので、ムダなあがきであった。
「そんなことするか。これでも赤の他人に施しを受けるほど落ちぶれちゃいねえ。それにタダより高いものはないからな。」
父親は珍しく毅然とした態度でいつきに応じた。