【第三章】第一部分
大企業の社長が座るような大きな黄金色の椅子。
長い金髪は風もないのに揺らめいている。
「ようこそ、生徒会室へ。この前は、不法侵入でしたけど、今回はこちらからのご招待ですから、ゆっくりとおくつろぎくださいませ。ホーホホホッ。」
「ご招待ですって?この姿勢がねえ。ずいぶんと節約志向の歓迎ぶりだわね。」
亜里栖は両腕を後ろ手に縛られた状態で、安っぽい木製椅子に座らされている。
「これはちょっとおもてなしが足りませんでしたか。これは失礼しましたわ。でも手ぶらの来客にはこの程度かもしれませんわね。」
「先生や美散のことは、すべてあんたが仕組んだことなのね?」
「仕組んだ?表現ぶりに棘がありますわね。経営計画と正確に言ってほしいですわ。魔導中央銀行の運営を任されている以上、手段を選びながら業務を推進しているのですから。」
「じゃあ聞くけど、体調を崩している生徒がたくさんいるのはなぜ?」
「そのことですか。それは奨学金のことですの?」
「奨学金?ずいぶんと社会貢献活動的な表現をするのね。とてもそんな風には思えないわ。アタシの感覚だと、ニセ札というのが適切じゃないかしら。」
「ニセ札とは人聞きの悪い言い方ですわね。これはあくまでお金に困っている生徒のために使っている、ある種の慈善事業なんですのよ。」
「慈善事業が、生徒の健康に悪いのはどういうことよ。」
「それは本物の魔法マネーではないので体に無理がいくことはあり得ますわ。でもよく考えてごらんなさい。魔法マネーがない人たちに貸与ではなく、奨学金なのでみんな喜んで使ってるんですのよ。こんなありがたい話は他にありませんことよ。」
「まったく理解できない理屈ね。じゃあ、生徒会長のメリットは何なのよ?」
「あなたの言うニセ札という表現は誤りですわ。生徒会では、『仮装通貨』と呼んでいます。かつて大流行した『仮想通貨』とは異なるものですわ。仮装通貨がちゃんと使えるのか実験を行っているのです。仮装通貨が使えれば、魔力を集めなくても人工的に魔力マネーを作ることができますわ。それまでは失敗作はいくらでてもいいのです。奨学金の対象は教師まで拡大していますわ。それは尊い犠牲なのですから。第一奨学金は返還不要ですわ。タダより高いものはありませんから、多少の体の不調は飲んでもらいませんと。ホーホホホッ。」
「完全に思考が腐ってるわね。仮装通貨というワード自体、ニセ札を彷彿とさせるネーミングじゃないの。」
「あらあら、そのことに気づいたということは、虫レベルの勘はあるようですわね。」
「完全にアタシをバカにしてるわね。そもそも、アタシを何のためにここに連れてきたのよ。」
「一本木さんも実験対象ですわ。萌江田先生の実験から、あなたは仮装通貨の副作用に耐えられる体であることが判明しましたわ。実にいいボディですわ。胸無し芳一ですけど。優越感製造マシーンとしても有効活用できますわね。ホーホホホッ。」
亜里栖の胸をじっと見つめる生徒会長。
「な、何よ。この毎年豊作な胸に文句でもあるの?」
亜里栖は胸を腕でしっかりと隠した。完全に隠れてしまうのが寂寥感を呼ぶ。
「そこまでやられると、イタズラしたくなりますわね。」
会長は自分の制服の胸元をはだけた。お椀型の特盛が白いレースのブラからはみ出している。