【第二章】第十六部分
「そうじゃない。人間の顔と同じように野菜にもいろんな顔がある。年を取ったもの、病気しているものなど、いろいろだ。それをちゃんと見極めて、若くて健康で生きのいいのを選ぶのが、パパの仕事だ。そんな能力はアルバイトとか、仕入資金力だけではできない。」
「そうなの。お父さんはスゴいの?」
「そうさ。それはすべて、お客さんにいい笑顔になってもらうためだ。ウチに来るお客さんの数は少ないけど、少なくとも買った物が毒になったなんて言う人はいないぞ。ウソだと思うならお客さんに聞いてみろ。パパは、地味だけど、この町に笑顔を届ける正義の味方なんだぞ。アリスも小さな胸を張れ、町のスーパーという正義の味方の娘だってな。ハハハ。」
「お父さん、何言ってるのよ。アタシの胸はもう成長しまくって、巨乳になってるんだから、張る必要ないわよ。」
「はっ。」
最後の部分が、『張り合いのない胸』という現実に亜里栖の意識を戻した。
「そうだわ。アタシは正義の味方なんだから、毒なんかに負けてられないわ!」
亜里栖の体から白い湯気のようなものが出て、それは紫色の毒と混じり合って、体外に出ていった。
「こ、これは毒を浄化している。こんな魔法は見たことないぞ。」
美散を介抱しながら、亜里栖を見る秀太郎は瞠目していた。
「スゴいですぅ。これが悪の正義を超えた正義ですかですぅ。」
ミニスカロリスは自分の毒にやられて倒れた。
「先生!」
亜里栖がミニスカロリスの体に触れると、ミニスカロリスの黒い体が元の白い肌に変わっていった。しかし、亜里栖も魔力マネーを使い果たしたのか、息も絶え絶えになっている。
「クックック。先生が負けるとは思わなかったねえ。」
「おい、美散。大丈夫なのか、立てるのか。」
「大丈夫だと?わたしは始めからなんともないし。亜里栖は完全に魔力マネーが切れたね。魔力マネーは学校が支給しているのだから、無理して使えば無くなるのは当然だけど。魔力マネー消費量はきちんと調整してバトルしないから、こんなことになってしまうんだよね。」
ぐったりしている亜里栖のスマホで、魔力マネー残量を確認した美散は、亜里栖をお姫様抱っこした。
「貴様、最初から亜里栖狙いだったのか?」
秀太郎は倒れたまま手を伸ばそうとした。
「そんなの当たり前。生徒会長がタダで捕虜を解放するはずないだろ。」
美散の目は灰色。悪の支配下にあるように見えるのは、ミニスカロリスと同じであった。
「待て~!」
秀太郎は声を絞り出して、美散の背中にぶつけたが、届くことはなかった。