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【第二章】第十五部分

亜里栖は毒で意識が遠ざかるのを感じていた。

「死に直面すると、走馬灯のように過去のことを思い出すって言うけど、これがそうなのかしら。」

小学校低学年の男子数人が、同い年の亜里栖をかごめのように取り囲んでいる。

「お前の店、ボロくて、品揃えが悪くて、値段も高い。最低のスーパーだよな。貧乏スーパーの野菜は体に毒だ!」

「何言ってるのよ。たしかにうちの建物は古いし、安くはないけど、いい品物しか置いてないわよ。」

「こんな小さなスーパーじゃ、いい物を仕入れるなんてムリだぞ。このチラシをみなよ。隣町のスーパーの方が安くて新鮮だぞ。」

たしかにそのチラシを見る限り、隣町の商品の方が安くてキレイな野菜が並んでいた。

一方、自分のスーパーは、売れない商品ばかり並んでいるようにしか見えず、反論できず男子たちにイジメられる亜里栖であった。

「毒なんてないわよ!」

泣きながら家に帰る亜里栖。

亜里栖が朝起きると、父親は商品を並べて整理していた。

夕方学校から帰ると、父親はやはり同じように整理していた。

いつも変わらぬ父親の背中と商品。自分のスーパーの商品はどうなのか、それを父親に聞くことは怖かった。父親が本当に商品がダメだと認めたら、そこから先、自分のスーパーを否定するしかなくなる、そういう思いが亜里栖を臆病にしていた。

ある時、亜里栖は父親に恐る恐る尋ねた。

「お父さん。うちの野菜が毒になるなんてことあるの?」

「アリスがスーパーのことをパパに聞いてくるなんて珍しいな。答えにくいが、それは事実だな。なんせウチは資金がない。店舗も古い。いい品物を入れることなんてできないし、保存するにも十分な冷蔵設備もない。隣町のスーパーに比べたら、ひたすら敗北を認めるしかないな。」

「やっぱりそうなの。グス、グス。」

亜里栖の目は、みるみるうちに涙を溜めた。溜めたくなんてないのに、悔しさを抑えるプライドという理性の端くれは、小学生の亜里栖にはなかった。

「な~んてな。そんなことはないぞ、アリス。アリスが朝起きたパパがいつもいないのは、ちゃんと市場に行ってるからだよ。手元の仕入資金は豊かじゃない。でもだからこそ、時間をかけていい物を探してるんだ。その鑑識眼は一朝一夕では育たない。毎朝鍛えるしかないんだ。毎日毎朝特訓して、いい品物を見極める能力が身についていく。パパには野菜の顔が見えるんだ。」

「野菜の顔?みんな同じに見えるけど。」


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